2022年1月 ワクチンをどうするべきか迷ってた

文字数 2,360文字

療養中の伯母に、何か体にいいものを贈れないかと母に相談されて散々悩んだ結果、どこかの料亭が販売している、すっぽんジュレと佃煮の詰め合わせなんぞでどうかと打診してみた。すっぽんのスープが煮凝りになったもので、滋養強壮にも良いし味も薄味で、関西出身の伯母の口に合いそうだ。そのままスプーンで掬って食べてもいいし、火を入れてご飯を入れれば雑炊にもできるというから、食がすすまないときでも使い易そうだと母に提案すると、納得してくれたのでネットで注文し、ついでに同じものを実家にも送ってもらった。私はいっそ自宅に届けてもらって自分で挨拶方々伯母のところへ持っていこうかと考えたが、長年の不義理を詫びるのは今かもしれないと思いながらも、それでは贈り主である母の顔が立たないような気がして、結局は普通に宅配便で送ってもらえるように手配したのだった。

そんなことをしているうちに2021年も暮れていき、去年は史上初の無観客で開催された紅白も、今年は観客を入れての興行となり、多少なりとも昨年よりは賑々しく年が明けた。13日の日記には「ウイルス戦隊オミクロン」という文字が、昭和の特撮ヒーロー番組のタイトル風に、カクカクとした手書きロゴになって落書きされている。昨年秋に南アフリカで確認されたという変異株の名前が、あまりにも特撮ヒーローっぽかったのでつい作字してしまったものだ。オミクロン株は発見から3カ月とかけずに海を渡って、ここ日本でも猛威を振るっているらしい。
私自身はあいかわらずワクチン接種に積極的になれずにおり、結局のところそのままの状態をキープしつつ、日本における新型コロナウイルスの「ワクチン元年」が終了したことになる。自分の近辺の人たちだけで現状を観測すると、おおよそ3つに分類されるようだ。ワクチン接種に積極的な「打ちたい派」、仕方ないから「打っとくか派」、打ちたくないから「打たない派」。こんな感じだろうか。

私の周囲は「打ちたい」が1名、「打っとくか」が3名、「打たない」2名、私自身は「人混みに近寄りたくない派」であり「めんどくさいのが嫌派」というカテゴリーを彷徨い、自分で分類してるくせに未だ上記3種のどれにも属していない。以前から混雑や行列が苦手だったが、会社勤めをやめてなおさらそれに拍車がかかったようだ。そこに伯母の状況を耳にしたことで不安という名のトッピングが無料で追加されてしまった。

「打ちたい」代表は私の実家近くに住む叔母で、父の妹にあたる。やれることはさっさとやって、少しでもリスクを減らしておきたいというシンプルな思考である。「打っとくか」代表は私の両親だ。急拵えのワクチンに不安はあるし本音を言えば「自然由来でないものをできるだけ体内に取り込みたくない」と思うが、この非常時ではやむを得ない、という感じか。「打たない」代表はインフルエンザのワクチンで酷いめにあった経験から、自分には合わないと確信している兄。そしてあまりにも早く認可されたことに不安しか感じていないという家人である。正直なところ、ワクチン接種について「打つか打たないか、そう判断した理由は何か」を面と向かって訊ねることができる人は、私にはそのくらいしか存在しない。友人たちに聞けば答えてくれるのだろうが、引きこもりをしているとそれだけをわざわざメールして聞くのもどうかと思うし、もののついでに軽く聞いてみるにはセンシティブな内容にしか思えない。

世の中はワクチン解禁から半年が過ぎ、三回目の接種が始まったらしい。らしい、というのは家に二回接種済みの人間がいないため、行政からのお知らせや接種券というようなものは届いていないからだ。
あいかわらず感染波が定期的に繰り返されるだけで減らないところを見ると、ワクチンはあくまでも発症確率を下げるものという見立ては間違ってはいないようだ。劇症化して救急車を呼ぶも、受け入れ先がみつからないまま死亡する事例もニュースで報じられている。そうならないために接種をした方がいいとは思うのだが、あいかわらず「今から1回目の接種をしたい」という問い合わせを役所にするのが面倒、という私の「ものぐさ魂」が接種を阻んでいる。
唯一「やはり接種しておくべきなのか」と思ったのは、予想通りといえば予想通りだが、今後ワクチン接種済みの人とそうでない人の対応が違うケースが出てくるのかもしれない、という不安感だ。

家人の母親は特別養護老人ホームに入所している。
当然ながら特養はクラスターの発生を許すわけにいかないので、部外者の立ち入りは厳しく制限されることになった。義母はいわゆる指定難病の患者で、介助者なしの生活は不可能な状態だ。日頃は施設の職員さんが対応してくれているが、もし急性症状が発症すれば、その時は医療機関へのつきそいを家族が行う規則になっている。その際に施設や病院に「ワクチン接種済みの人しか入れません」と言われでもしたら大変困ったことになるだろう。接種していない人に対しては「24時間以内に検査した陰性証明の提出を求める」などの代替措置は用意されるであろうが、時間的なロスは大きくなる。
私か家人、どちらか一人でも接種済みという「免罪符」を手に入れておけば、緊急事態の際に即時対応できる。義母のことを考えたらそうしておくべきなのだろうか、というのが、唯一私の心を「今からでも接種しておく」に動かそうとする懸案事項であった。

だがグスグスと考えるうちに、今度はまた別の封書が自宅に届いた。
行政からのコロナ絡みのお知らせかと思いきや、郵便配達員から手渡された書留め郵便はそこそこ厚みのある封筒で、受け取りのサインが必要だという。ボールペンで名前を書き込みながら見た封筒の表書には「東京地方裁判所」と記載されていた。
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