そこにいるから

文字数 1,391文字

翌日、俺は全ての記憶を完璧に取り戻していた。
ケロッとした顔で退院した俺を見て、実家からすっ飛んで来てくれた両親は安堵していいやら、呆れたものやらで、複雑そうだった。
佳純もだ。
記憶が戻った!?
昨日の告白は? 忘れてないでしょうね!?
(その前に「回復おめでとう」とかあるのでは……?)
どーよ、それって気もしたが……まー、心配かけちゃったしな。
それぐらい、大目に見ようじゃないか。
だが、ちょうど良かった。
俺は佳純を紹介し、一緒に食事をしてから両親に帰ってもらった。
その、駅まで送った帰り道。日本晴れの空の下を二人で並んで歩く。
クリスちゃんがね、よろしく言っといて、だって。
今朝、電話で爆笑してたよ、彼女。
誘ってるのに突然ハミガキコーって絶叫する男なんて、ありえないって♪
……。
記憶喪失だった間のことは忘れていない。昨日、俺はいささかお人好し過ぎたかもしれない。
キミたち、俺に酷いことしたよね? 愛を試すだなんて。試すにしてもどーしてあんな乱れた場所で試さなきゃいけないんだ。滅茶苦茶だろ!
大事なことなので二度言うけど、「全ての記憶が完璧に戻った」今、声を大にして抗議したい。
俺、なんかした? これまで佳純以外の女の子なんかに指一本触れたこともないのに!
(そうだ、それにダンシャリも!)
(俺の大切なラッキーアイテムの一切合切を、無理矢理キレイサッパリ処分されたんだった!)
いつも、いつも、俺をおちょくりやがって……。
ナンカイッタカ?
別に。……変な喋り方。
どうして俺はこんな女を好きになったんだろう。
最初は身体だけの関係だったけど、いつの間にか好きになっていたって感じだ。
まるで魔法でもかけられたみたいに。
ケータイにあんな登録名をつけるほどまでに。(我ながら照れ臭い)
そして、告白されたし、告白した。
ひと目見たときから好きだったような気もするが、好きになったのはつい最近のような気もする。
そーいうの、運命の女って言ったりすんのかな。
将来、子供ができたりして「パパとママはどっちが先に好きになったの?」なんてマセた質問されたときはモメそうだ。
(佳純のほうは俺のこと、どう思ってんのかな?)
(所詮、男には女の気持ちはわからない。女にだって、男の心はわからない。だから、試してみたりもするんだろーな……)
佳純は可愛いな。
……何よ?
ちょっと、どういう意味? ……可愛いって、どんな所が?
佳純ってだけで可愛い。
はあっ!? 馬鹿にしてるの!?
怒る佳純。
でも、すぐに笑い出す。その笑顔も可愛い。
プッ……馬鹿はあんたか。ハミガキコ~~~!
そう、佳純には色々な良さがある。
そして、どんな所だって可愛い。
だから、どうでもいいじゃないか。
彼女は俺のことが好きだ。
俺もそんな彼女が大好きだ。愛してる。何故なら、そこにいるからだ。
それでいい。
たった一人きりの恋人として。彼女にとっての俺がそうであるように。
……そうだろ?
第二部『そこにいるから』 Fin
※テキスト版は以下のサイトで読めます。

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短編集『イマージュ』そこにいるから

また、本作を含むネット公開版に加筆修正をした、短編集『イマージュ ~あなたを一番愛しているのは私~』電子書籍版が2017.11.21よりハイネストからアマゾン、ブックウォーカーで発売中です。 ※トークノベルではありません。
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登場人物紹介

石神佳純(いしがみ・かすみ)
通称:ジュン

大学三年生。
彼氏ナシ。しかし……?

城戸充(きど・みちる)
通称:ミチル

佳純と同じゼミに在籍するイケメンプレイボーイ。
彼女ナシ。しかし……?

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