第22話:巨大台風の弱体化作戦8

文字数 1,370文字

グレイ
「ちょうどアイススケートでスピンが上手な人は腕を一旦開いて次に閉じることで回転の速度をどんどんあげる。だからこの炭素微粒子の煙作戦では台風に雲を開かせて渦になって閉じようとするのを抑える。回転を遅くさせるのだ。」

 クリストファー・ランシー「作業ディレクター」
「この炭素のアイディアは詳細に検討する価値があると思う。台風の外周部分の雲に熱源を分散するということで、物理的にかなり有効。もし雷雲を雲散霧消させられれば、台風のエネルギーバランスを崩せるだろう。」オクラホマ州タルサに住むスタントン家は有名な科学一家で両親は学者、子供達も将来を嘱望されている。一家はカトリーナの避難民を町で見かけたときに科学で台風を止められないか考え始めた。

 少年ジョンソン・スタントンは数多くの賞を総なめにした科学プロジェクトのまとめ役。
スタントン
「僕の仮設はこういう気象環境の中に液体窒素のような極低温の物質を投入すれば、台風に対する熱の吸収を遮断できるから、台風を弱体化させる効果があるということ。液体窒素、つまり液層の状態の窒素はほぼマイナス200℃なのでとても冷たいし、液層から気層、つまりガスになって蒸発する時の膨張比は1対700と大きいので輸送も楽」。

 さらに安価かつ大量に入手できる。メキシコには世界最大の窒素工場があり、メキシコ湾油田の副産物として窒素を採取している。この案では台風の進路を塞ぐように「窒素を積んだ無人のはしけ」を100隻並べる。台風が近づくと人工衛星から信号を送ってパルブを開き、台風の根元をめがけて極低温の窒素ガスを放出する。

 スタントン
「窒素なら環境汚染も心配ないしとても経済的でシンプルな方法なので現実的だと思う。それに必要なものはもう全部あるし。」ウイログビ「問題もある。1つはとても大掛かりで、もし効果があるとしても大量のはしけが必要。したがって出港準備が大変。それに高波と強風が吹く中を大量のはしけを引いて外洋までタグボートを進めるのはとても難しいと思う」。ジョンソン達兄弟は政府主催の台風専門家会議に招かれた。そこでは大気研究センターの専門家が窒素を使ったアイディアをコンピューターでシミュレーションしている。これが職員の全員が興味を示した唯一のアイディアだった。

 太陽に近づきすぎて落ちたイカロスの様に、南極に執着しすぎて遭難したスコット、タイタニックの船長、歴史には英雄になろうとして自然の猛威に負けた人たちの名前が大勢残されている。台風を止めようとするのも同じことなのかもしれない。ジョー・ゴードンはストームフューリー計画の気象学者として台風に何度も飛び込んだ。そして今でも米国海洋大気庁の上級幹部の地位にいる。1960年代に彼は名度も台風に種をまいた。

 ゴードン
ストームフューリー計画はアメリカ政府の計画だった。計画の骨子はアイウォール「目の壁」の、すぐ外側を取り巻くもっとも降雨量の多い雲の帯、あるいは非常に活発なドーナツ型をした雷雲に種をまくことで、アイウォール「目の壁」そのものを拡大させてしまうというものだった。言いかえればアイウォール「目の壁」を作り直すことで、最大風速を10から15パーセント弱める。」議会が承認した予算は3000万ドル。ヨウ化銀の種を2つの台風にまき一定の成果をあげた。
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