『少年たちの予感』レビュー

文字数 1,686文字

 “Teenage angst has paid off well”
 「10代の苦悩はすっかり清算された」とカート・コベインがNirvanaのラストアルバムの冒頭で歌い上げていたが、今回のミニアルバムが発売される前に配信されていたダイヤモンド・キッスのMVを観て、小室ぺい(Vo,Gt)の10代特有の苦悩なんかは10代最後の年にして見事に消え去ってしまったんじゃないかと感じられた。
 もちろんNirvanaの場合は、大成功を収めた前作で得た負の代償に対する皮肉的な意味合いが歌詞の背景にあったと思う。ただ来年1月に20歳になる小室が(カートのように)パジャマ姿や女装で楽しそうに演奏しているMVでの様子は単純に音楽を、バンドを心から楽しんでいるように見えたのだ。
 歌声に関しても以前に比べて肩の力が抜けたように表情が豊かになっていて、松島早紀(Ba)とのデュエットという新たな試みに花を添えている。自分が持っていたNITRODAYの尖ったイメージが良い意味で裏切られた訳だが、『少年たちの予感』の1曲目のヘッドセット・キッズでも松島のコーラスは際立っており、小室とのハーモニーでの高音の美声やサビとアウトロでの存在感は特筆すべきものがあるだろう。次のアルバムでスーパーカーのLuckyのようなデュエットソングが入っていても何ら不思議ではないし、バンドの明るい未来にワクワクさせられてしまう。
 実は今作の購入特典アウトストアイベントで初めてNITRODAYのLiveを生で観たのだが、やぎひろみ(Gt)のジャズマスターを一心に弾く姿はどうしてもナンバーガールの田渕ひさ子が重なってしまった。バンドの両脇の固める女性陣と真ん中の男性陣の対比もフォーメーションとして格好良く、思えばリードギターとベースだけが女性のバンドはあまりパッと思いつかない。(元スーパーカーのメンバー2人とナンバーガールの田渕もいるLAMAが丁度良くよぎったが、ドラムはなくプログラミングだった)
 そういう意味で言うと、岩方ロクロー(Dr)のニューヘアカットであるモヒカン姿とタイトなドラミングは、バンドのルックスとサウンドをキュッと締まったものにしていると感じた。余談ではあるが、モヒカンで有名なインディアンたちは一般的に弓を射る際に邪魔にならないよう頭の両側を剃りあげていたらしい。(アートスクールの初期ドラマー櫻井雄一もモヒカンの時期があったことを何故か思い出した)
 そしてミニアルバムの3曲目のブラックホールfeat.ninoheronでは、イントロのピアノの調べや客演でのラップ参加にもチャレンジしていてバンドとしての風通しの良さが感じられる。その流れで最終曲アンカーに繋がっていくのだが、若者特有の焦燥感や孤独を表現したその歌詞の最後では「でも…」という続きを予感させる言葉で終わっている。そこにNITRODAYの無限の可能性を感じずにはいられない。
 今回のアルバムのタイトルにある「少年たち」の意味として自分が感じたのは、まだ若いNITRODAYというバンド自身のことも指しているだろうし、英語で言うとTeenagerやKidsといった中高生や若者たちのことも指していて、そういう人たちに感じてほしいフィーリングが沢山詰まったアルバムなんじゃないかということだ。ヘッドセットで周りを遮断して自分だけの世界に没頭することもオッケーだし、周りに目を向けて恋をしてみたり新しいことに挑戦することも素晴らしいことなんだというメッセージがビンビンに伝わってきた。
 最後に、あるインタビューでバンドでの目標を聞かれた小室が「名盤」をつくること、と即答していたのだが、次のフルアルバムがその「名盤」になる予感が大いにしている。もしかしたら、The Smashing Pumpkinsの名盤『Mellon Collie And The Infinite Sadness』のように2枚組全28曲で構成されていて、最後の曲ではメンバー4人全員が順に歌声を披露しているかもしれない。
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