第6話 不穏という名の

文字数 8,000文字

 その頃、明京大学ラウンジで、高島慶菜は奇妙な光景を目にしていた。寝不足の目を擦っても見間違えはない。演劇部の活動日で、休憩しようと入ったラウンジの片隅、退職したはずの矢野元教授と高校のクラスメイトだった英文科の多和田茜が談笑している。
 高い天井がガラス張りの窓際。学内で最も欧米大学風の場所だ。外には四季折々の花壇が見え、灌木も植えてある。小雨は先程やっと止んだ。
 慶菜が、
「茜、どうしたの?」と少し距離を置いて呼ぶ声が反響し、茜はくったくなく
「あ、ケイちゃん!」と応じた。
 矢野は途端に居心地が悪くなったようだったが、慶菜が近寄ると、
「もう三年生になるから進路をね・・・」と小声で言う。
 役柄でミニスカート設定なので白いスパッツ一体型のテニスウェアを着ている彼女の服装に戸惑っているようにも見えた。
「そう。教授にはずっとキャビンアテンダントになることを相談していたの。湯浅准教授からの紹介で。だから先生が大学辞めても、いろいろと話したいことがあってさ」と茜がフォローする。
 慶菜は幾分不審にも思ったが、嘘をつけない茜だからと信用した。
「へえ茜、英文科行ったのって、そういう志望があったの?」
「だよ。高校時代はまだほんの夢だったけど、英会話にも自信できてきたしね」
両手を広げる癖でそう言って笑顔を浮かべる。
「わたしには話してくれてもよかったじゃない」と慶菜も微笑む。
「うーん。でも、いまみたいに叶いそうになるとは思ってなかったからさ」
 矢野もリラックスして、
「わたしは英文学じゃないけど、一応英語は読み書きできるし、いくつかの外資系航空会社にコネがあるから、就活で紹介しようと思っていたんだよ」と笑う。
「TOEICで910点取れたし。あ、世界的な英語の検定で990点満点でね、ネイティブでも900点以上は難しいんだよっ」
茜はまた嬉しそうに慶菜に説明した。
「ここいいですか?」
「どうぞ」偶然、茜と矢野の声がシンクロした。
その場の雰囲気で、飲み物を持っていた彼女は茜の隣に座った。
「教授、辞職されたの残念です。で、その、噂は本当ですか?」と小声で切り込んだ。
矢野は少し困った顔になったが、
「まあ、ほぼ冤罪なんだけどね。騒がれると事実みたいになる。大学にとっては汚名だから、自主的に辞めたんだよ」淡々と言った。と茜が頭を抱えて、
「また頭痛!最近頭痛いこと多くてさ」とピルケースを取り出し、辛そうな表情で薬を飲んだ。
 きのう加古とデートして痴漢に遭っているので、いろいろなケースはあるだろうが、矢野はどうなのか、と慶菜は考えた。残っていたオレンジジュースを飲み干し、
「本当に冤罪なら、お辞めにならずに国文科に残って欲しかったです。わたし、先生の講義で単位取ろうと思っていたのに」
「いや、そう言ってくれる声も少なくはなかったんだが、大学にマスコミが出入りするようになって、辞任か解雇の二択になってしまったんだよ」
矢野は心底悔しそうに言う。
慶菜は基礎練習の休憩時間が終わりそうなので、席を立った。
「茜、また具体的な話、今度聞かせてね」と囁くと、
「うん、最近ケイちゃんと話してないしねっ」と明るい。
 慶菜は考えても仕方がないので、クラブハウスの屋上に戻ると、発声、柔軟体操、滑舌などの練習に集中して、いつしかこの件を忘れていった。

 捜査本部では、鑑識と捜査員が情報の確認をしていた。
「1件目の12月20日は16時31分が日没、2件目の1月21日は16時57分、三件目の3月8日が17時42分。いずれも18時には完全に夜になっています。つまり、事件は18時半から20時の間に起きていますが、いずれも季節的に野外は暗かったわけです」と鑑識課長。
「もし夏だと仮定したら?」宮地という1件目の聞き込みをしている刑事が言う。
「相当遅い時間でないと犯行に適さないかと。暖かい季節ほど、公園の夜は人が多い傾向ですしね。殺人と仮定して捜査していますが、だとすると秋冬以外は手口が変化していたかも知れませんよ」
「公園に追い込み殺す、という方法が冬場だから成立すると?」
「ええ。十分考えられることだと思います」
「三件目つまり梶谷光ですが、大雨だったのは関係ありますか?」とひとりの刑事。
「いや、それはたまたまでしょう。雨が降っていなくても、下足痕など痕跡を残さない準備はしていたはずです」
「天気自体は関係ないのか・・・」
 野津と岩田は互いに無言で思案しながら自席に戻った。岩田は野津を休憩室に誘うと、
「どう思う?」と訊く。
「手口を限定した意味が見えてきません。殺すタイミングや方法はいくらでもありますよね」
「そうなんだよな。そこが分かれば犯人特定に役立つのに・・・」

 加古は明日の慶菜とのドライブ用に車を借りようと自転車に乗ってショップに向かった。すでにワクワクが止まらない状態で大通りまで出ると、信号が赤だったのでブレーキをかけた、つもりがまったく効かず、慌てて自転車を故意に倒し受け身を取って路肩に背中から落ちた。衝撃で全身が痛い。着ていたパーカーも少し破れた様子だ。
 なんとか立ち上がって自転車のブレーキを確認する。明らかに人為的にワイヤーが切られていた。『なぜだ』という思いが廻る。しかし、明日のことが楽しみ過ぎて、そのままそっと自転車を漕ぎフェレアディZを予約して戻った。
 アパートに帰ると、間もなくスマホが鳴る。加古は知らない番号だったので警戒して出ると、
「岩田です。野津がちょっと襲われて腹を切られた。きみも気を付けて欲しい」
「そうですか、じつは、何者かに自転車のブレーキワイヤーを切られてました」
「怪我は?」
「危なかったですがギリギリ回避できました。受け身が取れない人物なら交通事故か大怪我だったでしょう。レンタカーの予約に行ったところですが」
「狙われてると思ったほうがいい。え?車?十分注意してね。例えレンタカーでもさ」
「わかりました。警戒して立ち回りするようにします」
そう言って電話を終えると、加古の心に暗雲が立ち込めた。
 無事にデートのドライブが終わるまでは緊張しなくてはならない。まさかその後に予定している自宅に招き入れてからは安全だろうが。
 破れた服を脱ぎシャワーを浴びて着替え、髪を乾かしていると、また知らない電話番号からの着信。不審げに出ると
「にゃあこです、黒猫にゃあこ。ちょっと直接会って話したいことができました」
「僕の電話番号は?」
「すみません、野津さんにお願いして教えて貰いました」
「きょうは夕方だし、明日は日中デートなんだけど」
「なら午前中の早い時間でいいです。車ですか?」と確認する。
「レンタカーだけどね」
「なら、わたしが住んでるマンションの地下駐車場に9時に来てください」
と三鷹の南口の駅から遠いマンションを指定してきた。地番で言うと下連雀の南だ。
 ちょっと考えたが、予定的に無理はない。慶子の住まいまで10時半に迎えに行ければいい。
「ジカに言いたいということは秘密性が高い?」
「いまのところ、そうですね」
「なぜ警察に言う前に僕なんですか?」
「あなたの身の周りに疑わしい人がいると思って」
『ん??』と加古は困惑した。
「なぜそれがわかるんですか」
「それも含めて話したいんです」
「わかりました。なら明日朝向かいます」
「よろしくお願いします」
 電話を切ると、楽しさと別のドキドキ感を覚える。にゃあこはどんな情報を掴んでいるのか。隠密に動く必要があるらしいのも気になった。身の周り?大学関係か。梶谷の周辺か。まあいま悩むことはない、明日わかる、と加古は思った。
 改めてアパートから自転車を転がして、ブレーキを直しに行く。裏道に面した、古そうな自転車屋が一番近い。
「こりゃ、ペンチか何かで切られたね」と初老の親父。
「やっぱり人為的になんですね」
「そうだね。危ないイタズラだよなあ」
新しいワイヤーと交換しながら親父は顔をしかめた。
 親切な親父は油を射し、タイヤの空気まで入れてくれた。
「よし。お兄ちゃん、気を付けなよお」
「ありがとうございます」
代金を払い、自転車に乗って帰った。タイヤがパンとしたのでペダルが軽い。
 帰宅してもう1回シャワーを浴び直すと、早々にコンビニ総菜で夕食を済ませる。加古は明日の朝があるので、まだ22時だったが電気を消しベッドに横になった。どちらかと言えばロングスリーパーで、最低7時間半寝ないと寝不足感が残る。寝起きも決してよくはないほうで、外出の1時間半前には起きないとボーっとする。
 明日はここ一番の服装を決めて行きたいし、8時半にはレンタカーショップに行って車に乗りたい。少し迷ってもナビがあるから9時前には三鷹のマンションに着く。にゃあこと小一時間費やしても、明大前には10時半に余裕で着くはずだ。まあ、週末だから渋滞しても知れたものだろう。
 あれやこれやを考えていると、ややテンションが上がって眠りそうで眠れない。そのうちに、慶菜のことを考えて股間が疼き出した。今晩は我慢に決まっている。だが白い肢体が網膜にちらつく。
 仕方なく彼は、キッチンの棚からウィスキーを手に取り、濃い目の水割りを一気飲みした。フワッといい気分になる。ようやく眠れそうだ。無意識に時計を見ると23時半。いつも寝る時間と大して変わりはない。目覚ましを7時にセットし直した。

 目覚ましのアラーム音とスマホの目覚ましで、やっと加古は気がついた。7時5分。5分ほどベッドでボーっとしながらテレビを見る。特に気になるニュースは流れていない。野津が刺された事件も30秒ほど報道されたが、それはもう知っている。
 コーヒーメーカーをセットし、オーブンレンジでトーストを焼く。そしてバナナを1本。彼の朝のルーティンである。『どれを着て行こうか』と少し考える。選択肢はあまりない。『やっぱり、いつもは見せてない黒のサテンパンツで、上はアンシンメトリー柄のグレーカットソーかな』と思う。加古の貧しいワードローブでは、値段が高い部類の服だ。
 コーヒーを飲みながらトーストを齧る。
「昨日、十文字光さんの葬儀が行われ…」とアナウンサーの声が。『あっ』と思った。行けば何かが違うわけでもなく、香典も用意できない身だが、失礼をしてしまったと悔いた。
 まあ、遺体の写真も見ていたし、頭部も解剖したので、親ですら遺体の顔を見ていないようだ。思い出は、毎週通ったあの家での会話と梶谷の表情が山ほどある。最終的に一番接していたのは自分だったな、と思いつく。子供に会いに行くのも毎週ではなかったし、時間的にも加古と一緒に過ごしたほうが長い。
 とにかく、原稿打ちの合間に、必ず習作の短編を見て貰い、散々けなされては時折褒められた。
「ここはいいんじゃないの」とぼそっと言われるのが嬉しかった。ちょっと京都訛りがあるので柔らかい口調だ。滞在時の飲食の面倒もある程度はさせて貰った。「飯炊いてくれる?」「コーヒー飲みたい」。そんな簡単な御用だった。
「きみはどうして小説書きたいの?」そう聞かれたことがある。
「それはもちろん、書くのが好きで、職業にしたいからです」
「なら需要があるものを書かないと、飯は喰えないなあ。『プロールの餌』を書いても仕方ないけどね」
「ジョージ・オーウェル『1984』ですか?」
「うん。無益な小説はウケても金になるだけで虚しいからね」
「はい」
「何かしら読者に爪痕を残し、かつ売れるものがいい。難しいけど」
そのときの声音すら思い出せる印象的な言葉だった。
 ふと気がつくと8時を回っている。加古はそそくさと歯を磨き、パジャマ代わりのスウェットから決めた服に着替えた。寝癖を整髪料で直し、スマホの充電を確認して、念のため予備バッテリーを持った。財布の中身は寂しい限りだが、学生でも持てるクレジットカードでなんとか乗り切るつもりだ。プリペイドマネーも3000円分はある。きょうは一般道だけを走り、江ノ島と鎌倉に行くプランだ。道の混雑状況では海のほうだけでもいい。海辺のカフェもネットで予約済み。
 服装をチェックすると、まだキレイなほうのバッグを持って自転車に跨った。ジャスト8時半にレンタカーショップに着く。
「おはようございます」と女性店員。
「あの、フェアレディを予約した加古です」
「あ、はい。いま出して来ますのでちょっとお待ちください」
朝早いので一人らしく、彼女は店の裏へと入って行った。
 2分ほどでシルバーのフェアレディZを運転して通りに出してくれた。
「受け取りのサインだけ頂きます」と言われて書類にサインして、
「今晩中には返すつもりです」と言う。
「いってらっしゃいませ」店員はそう笑顔で言って、見送ってくれた。
久し振りの運転。しかもマニュアル車なので、少しだけ緊張した。すぐにカーナビで三鷹のにゃあこのマンションを検索。道が空いているほうなので9時よりかなり前に着きそうだ。10分ほどで吉祥寺周辺を通過。ここを直進して三鷹駅手前で左折。そこから2度路地を曲がる。
 カーナビ通りに走ると、目的のマンションを通過してしまった。後方確認をしてバックし、地下の駐車場に入った。両隣に車がいない場所を選んで停める。8時52分。スマホできょうの天気を再確認した。大丈夫、東京も神奈川も晴れだ。あちこちに桜が咲き始めている。五分咲きらしいが人を華やいだ気分にさせて、いよいよ春到来だ。
 9時ちょっと前に、にゃあこに電話。
「おはようございます」とすぐ出た。
「何番に停めました?」
「えーと、15番という柱の所です」
「すぐ行きますね」
 彼女は本当に1分ほどで駐車場に来た。最初はいつものマスクをしていないので?となったが、目や髪型でわかった。思った通りかなり美人だ。助手席のドアを開けると、
「加古さんですか?」
「ええ」
そっと乗ってきた。
 ベージュの前がファスナーのコーデュロイワンピだ。画面越しにも見たことがある。
「あの、きょうはこの後デートですよね?」
「はい」
「じゃあ、ちょっと言いにくいなあ…」
「なに?」
「情報代ってわけではないんですけど」と躊躇う。
「最近全然Hしてなくて、できればここでしたいんですけど」と俯いた。
「ええっ!それは困ったな。この車でデートするのに、ここでって」
「そうですよね。でもそこをなんとか」と手を合わす。
「いまゴムもないし、カーセックスなんてしたことないし」
「それは大丈夫です。実は生理が不規則過ぎてピル飲んでいるから妊娠の心配ないんです。で、加古さんは下だけ脱いでくれればわたしが服で隠します」
とワンピースのファスナーを自分で全部下した。なんと中は何一つ身に付けていない。全裸にワンピースだけ着てきたのだ。
「すいません。変態の欲求不満で」
 加古は美人の裸を目の前に見てしまい、つい体が反応した。抵抗はあったが、人気がないのを確認して、急いで下だけ脱ぐ。
「わたし24なんできっと加古さんより上ですよね」そう言いながら加古のを弄ぶ。
「4コ違いですね」と答える間もなく、にゃあこは加古に跨った。
「加古さん、周りを一応見ててください」と言いつつ腰を動かす。
お互いに息遣いが荒くなり、加古も下から腰を遣った。
「きもち、いいとこ、に当たる」とにゃあこは喘いだ。
5分と持たずに二人とも限界になって、
「中に、中に出してくださいっ」と言われて、そのまま同時に果てた。
「まだ、すぐ、抜かないで」と言ってにゃあこは抱きついてきた。
『こんなことして、匂いとかで慶菜にバレないかな』と思う。
「いま、ちゃんと始末しますから」
 そう言って、にゃあこはゆっくり加古から離れ、用意していたらしいタオルで自分の股間を抑えて、二人の分泌液を拭き取り、加古のは口でしゃぶってから拭いてくれた。
そして
「念のため」と言って小さな消臭剤を車内にスプレーした。
慣れているのか準備も手際もいい。
「本職は介護でまったく出会いがなくて、彼氏も半年いないんですよ」
彼女は言い訳めいた様子もなく呟く。
「加古さん凄い。彼女さん、羨ましい」といつもの声で笑った。
加古はなんとか服を元に戻し、にゃあこもワンピースを着直した。

 5分ほど雑談めいた話をしながら二人は息を整えた。にゃあこは自販機で缶コーヒーを買ってきてくれて、
「お礼っ」と笑って加古に渡す。24歳だとしたら子供っぽいなと感じた。
「9時50分頃ここを出たいので、よろしくお願いします」
「わかりました。そう長い話ではないんです」
「僕の周辺に変な人がいるんですか?」
「その可能性は高いです。明京大って、偏差値高いじゃないですか。そういう大学にフェミニストってゆうか、ちょっと過激な考え方の女性が多いらしくて。わたしの高校の後輩が、明京の4年生だったんですけど『アイグレー』っていう組織の明京の代表者で、その、なんてゆうか、痴漢死ねみたいな、危険なことを言う子なんで。その子が文学部の英文科で、加古さんは国文科ですけど、同じ文学部だし、彼女さんは別として、お知合いとかに『アイグレー』がいたら、加古さん警察側なので、もしですよ、犯人かそれを知ってる人に狙われたら危ないな、と思って」
「『アイグレー』という単語は聞いたことがある。ある場所でね。やっぱり組織、それも女性のですね。それは聞き捨てならないな。狙われているかも知れないことは昨日あったし」
「えっ、なんですか?」
「自転車のブレーキワイヤーを何者かに切られていたんです。まあ、怪我はしませんでしたけど。あと、何かわかってること、ありますか?」
「わたしの後輩はもう卒業したので『アイグレー』の明京大代表はもう他の誰かに引き継がれていると思うんです。あと、これは不確かなんですけど、大学の教授側にも『アイグレー』支持者がいるかも知れないんです。もしいたらですけど、その人物、ヤバくないですか?」
「いや、教授って、女性とは限らず?」
「そうですね。男性かも知れないし、いるかどうかも不確かですけど」
「なるほど。痴漢で辞めた矢野教授の対抗分子的存在ですよね」
「あ、その矢野教授と出世争いをしていた人とか」
「それは警察が隠密に調べればわかりますね。僕はいま聞いたことは知らないフリをしないと余計に危険な状況になりそうだ。だから警察に言う前に僕に?」
「そうです。警察が知っていたとしても加古さんは知らないというフリで。『アイグレー』犯人説って、考えるのわたしだけかなあ」
「考えないことはない。けど、あまりにも説得性がいまのところ、ない」
「証拠がなければ警察も簡単に動けませんよね」
「岩田さんと野津さんに同じことを話してください。で、僕は知らないということにして」
「わかりました。Hしたことも秘密です」とクスクス笑った。
「ホントにピル飲んでますよね?」
「ホントですよ。わたしだってリスク犯したくないです」
「ならよかった。まさかあなたが『妊娠しました』とか言ってこないでしょうしね」
加古もつい笑った。
「無理なお願い聞いて貰ってありがとうございました」と、にゃあこは頭を下げる。
「いや、その、僕も共犯みたいなものですから」と慰めた。
「5分ほど早いけど、もう車出していいですか」
「あ、そうですね。何があるかわからないので気を付けてください。時間も余裕があったほうがいいです。じゃあ」と言って助手席から降りる。
「あなたも事件については程々に。番組であまり言うと危ない」
「はい。それはもう、気を付けてますよ」と、手を振りながら去ってゆく。
 カーナビを明大前方面に切り替えて、慶菜に聞いた地番を検索する。45分あれば余裕過ぎるくらいだ。大通りに出るとナビ通りに走り出す。フェアレディは初めてだが、運転の勘は戻っていた。オートマにするか車種で選ぶか、実は迷った。カッコつけてこの車でよかったと思う。
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