文字数 296文字

年頃になっても僕の口は爪を噛むためのものだった。
だが、彼女と付き合ってそれは変わった。
彼女に想いを伝え、彼女に微笑み、彼女の唇を塞ぐものになった。
こんなことを意識したのは、親友からの一通の連絡のせいだ。
「結婚するんだって」

大人びた女の子を好きになるのは、15歳だった僕も例外ではなかった。
学級委員で、はっきりした物言いの彼女をなんとか言いくるめて交際するに至った。
高く結んだ長い髪、その横顔を眺めるのが日課になっていた。
風に背中を押されたように、二人の時間は時計よりも早く流れた。

今では僕にも愛する妻がいて、何にも羨ましさを抱かない生活に浸っている。
だがこの時だけは、気付けば爪を噛んでいた。
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