フロムビャーネ編(7)

エピソード文字数 2,000文字

ラキュース湖から始まったフロムビャーネの厳冬化は、再びラキュース湖から降り注いだ暖かい雨によって瞬く間に解けて行った。

フロムビャーネを覆った雲は、雨となって降り注いだ後はちぎれるように消え、約10ヶ月ぶりの青空と太陽を大地にもたらした。
不思議な雨水は凍りついていた地に次々と緑を芽吹かせ、凍み枯れていた木々も競うように新芽を突き出し葉を開き、全ての生き物が、取り戻した生命エネルギーをもどかしく持て余すように、いきいきと甦って行った。

長い厳冬の中で押し殺されるように過ごして来た人々も、澄み渡る青空と太陽に声を上げ涙を流して歓喜した。街に笑い声が蘇り、人々は競って外に出た。

人々が活発化することによって、情報も加速度をつけて拡散した。
ベリテートが流した、フロムビャーネ厳冬化のカラクリ、ノートンが記録していた、アイスドラゴンの画像。勇気ある青年達の死と、アンタッチャブルにされていたコア・ステーションの建設。

建設途中だったコア・ステーションは、その大部分を粉と化し、墓標のような残骸だけを遺していた。警備員もいなくなってしまったことで、ジャーナリスト達は次々と現場に入り、ここが何であったかを暴露して行った。

特殊警察はアンタッチャブルを盾にこれらの動きを弾圧しようとしたが、流れ出した情報はもはや止めようがなかった。

そしてベリテートは、諸悪の根源であるアンタッチャブルの法律自体を今こそ葬ってしまおうと、国民に呼びかけ始めたのであった。


フロムビャーネ政府総提督のドンドロは頭を抱えた。
彼らにとって都合の良かった吹雪が雲散霧消し、肝心のコア・ステーションすら残骸と化してしまったのだ。

改めてコア・ステーションを建設しようにも、ネズミ、つまりベリテートの連中が勢いづいている。

とにかく、一刻も早くベリテートの奴らを捕らえねば。特殊警察長官に緊急指令を出そう。ドンドロは電話を取る。しかし。

「アナタの従僕ならここにいるけど」

いきなり声がして、ドンドロは驚いて顔を上げた。

来客用のソファーに、
黒いドレスの少女が座っていた。

つんとした顔、頬にコウモリの形のタトゥ。

そして、彼女の後ろに白い少女が立っている。もう一人、おどおどした白い少女とは反対に、黒いドレスの少女同様、堂々としてドンドロを睨み据える男。

男のことは知っている。憎きベリテートのジャーナリスト・ノートンだ。黒と白の少女も、ベリテートの一員なのか?

なんだ、お前らは? そう言おうとして、ドンドロは黒いドレスの少女・リンの前のテーブルに置かれたコップに気づいた。気づいて、

「ひ、ひっ!」

思わず後ずさる。

コップの中に、人がいた。

もがいている。しかし、その人間はあまりに小さくてコップから出られない。

もがいているのは、特殊警察長官だった。

「アナタの忠実な従僕が寂しがってるわ。アナタも入ってあげれば?」

リンは、長官の入ったコップをブラブラ揺らしながら、
悪魔のように、嘲笑した。

「お、お前らもあの方の仲間か!?」

後ずさりし、ドンドロは震える指先をリンに突きつけた。揺らすコップが止まる。リンはドンドロを正視する。

「……あいつがここに来たのね、やっぱり」

「ドンドロ、お前達がアンタッチャブルを好き勝手に利用して悪事を次々行なって来たことは既にわかってるんだ。しかも今回は、モンスターと結託してコア・ステーションを極秘裏に建設しようとしたな。全て白状してもらうぞ」

ノートンが糾弾する。しかしドンドロは鼻で笑う。

「悪事だと? 我々は法に基づいて我が国のための施策を粛々と進めて来ただけだ」

「何が法に基づいてだ。その法律にしたって、勝手に決めたものじゃないか」

「問答は無用だ。政府にたてつく犯罪者め。牢獄に送ってやる」

ドンドロは手を伸ばし、再び電話を取ろうとした。

だが、その電話が消えた。リンがマウスを向けていた。

「あのさ、」

リンが右手のマウスを弄びながら言う。テーブルに左肘をつき頭を乗せて、ナギの位置からも組んだ足の太ももが露わに見えて、ナギはハラハラした。

「グズグズしてる男ってキライなのよね、見苦しくて。早く決めて。コップの中に入るか入らないか」

リンがドンドロに向けてマウスを動かした。二次元結界。ドンドロをクリック、マウスをずらす。それに合わせて彼の身長が縮んで行く。

半分の大きさにされて、ドンドロは絶叫した。もう、机の上にも手が届かない。

「もっと小さくなって、二人仲良くアリさんと一緒に暮らせば?」

リンがドンドロにさらにマウスを向ける。

「わかった!! 全て話す!! 全て話すから、も、元に戻してくれ!!」

ドンドロは、土下座して懇願した。

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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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