第26話 ウイルスの変異株:2023年2月

文字数 727文字

(ニューギニアで、ウイルスの変異株が発生した)

2023年2月。パプア・ニューギニア。ポートモレスビー。

「え、なんだって。ワクチンが効かないって。そんなことが、あるものか」
佐々波は、怒鳴っていた。
「先月、ポートモレスビーで、うちのワクチンを2回接種した人は、2000人います。そのうち、半数の1000人は、2週間以上経っていますから、免疫ができているはずです。昨日、その接種者1000人の追跡調査のデータが上がってきたので、現在、分析をしています。その前の時のデータは、接種者と非接種者の比較で、接種者の感染率と死亡率はともに、非接種者の10分の1くらいで、ワクチン接種の効果が明確に確認されています。ところが、今週のデータは、先週とは、全く違います。接種者の方が、非接種者よりも、感染率と死亡率が高いんです。つまり、これだけ見れば、接種するより、接種しない方が安全になってしまいます」
「変異ウイルスの可能性は」
「もちろん、その可能性は、あります。昨日のフライトで、分析出来る施設のあるメルボルンに、サンプルを送ってあります。今、10時ですが、午後2時には、結果が出ると思います」
4時間後。

「連絡がありました。やはり、変異株が発生しているそうです。ワクチンの接種は続けますか。データを見る限り、ブレークスルー感染が拡大して、ワクチンは効いていないようにみえますが」

「ワクチンを接種すると感染が増加しているので、ウイルスが接種会場を通じて拡がっている可能性がある。それを考えると、このまま接種を続けることは難しいだろう。
わかった。ワクチン接種は、一旦、中止して、しばらく、様子を見るしかないだろう」
こうして、T商事のワクチン・ビジネスは、中断に追い込まれた。
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