4 書状

文字数 538文字


 
 在原業平は、困っていた。
 もう宮仕えはしていない。
 女たちや、親しい者との交流は続いていたが、都を離れ、西山に隠棲の身である。
 それがどうしたことか、帝の鷹狩に出仕せよという。
 始まりは、兄である行平(ゆきひら)からの書状であった。
 
  帝に、住吉大社の神が現れ、鷹の姿をお示しになった
  鷹狩をせよとの神の示しとして、帝は心に留めておられる
  高齢で即位し、御自身の治世は長くないとお思いか
  この師走にも鷹狩すると決めて、世の名だたるものを呼び寄せている
  お前の名も挙がっている、何とか善処するよう
 
 ぜひとも、狩りへの参上を求める、兄の願いだった。
 兄の行平は、宮廷人として、いまだ現役だった。
 弟の自分が参加しないために、兄に迷惑をかけるつもりはない。
 
 それにしても。
 もうすぐ十二月、冬場の大鷹狩である。
 気候もさることながら、今さら公の場に身をさらすこともためらわれた。
 野外とはいえ、宮廷の行事であるから、それなりの準備もしなければならない。
 追って、帝からも使者がきた。
 業平は、心を決めた。
 参上する、と返事した。
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