第82話 寝耳に水ならぬ、寝起きに某幼馴染-別視点-
文字数 4,636文字
昨夜はなんだか、いい夢をみた気がする……。
まぁ、そもそも昨日の出来事自体が、夢のようだったからな。
リアと街に行ってデートをして、更に一緒にダンスまで……ああ、あの時のリアは本当に美しくて、女神のようだった。
……いや、むしろ本当に女神なのでは?
呪われてからというもの、神の存在などすっかり信じていなかったが、もし彼女が女神だというのなら……また神を信じられる気がする、むしろ毎朝毎晩祈りを捧げることだろう。
ああ、リア……好きだ……。
今朝の私は早めに目が覚めたため、散歩がてらに一人で城内を歩きながら、とりとめもなくそんなことを考えていた。
そうしてエントランスに差し掛かったタイミングで、ちょうど玄関の扉が開きだして思わず足を止めた。
むむ……な、なぜ玄関が勝手に?
「あっ!! アルフォンス様、おはようございます」
警戒する私の前に、ひょっこりと玄関から姿を現したのはリアだった。
なんだリアだったか……ん、あれ、そう言えば先日もこんな光景を見た記憶が……。
まぁ、それは別に構わないか。彼女にも何かしらの理由があるのだろう。
「ああ、おは……」
そうして私も彼女に挨拶をしようと思ったのだが、その瞬間目にしたモノに思わず言葉を止めてしまった。
「もしかして今しがたのお目覚めですかー? ん、あれ、アルフォンス様…………」
急に黙った私を不審に思ったのだろう、リアは不思議そうな顔で私の視線の先を確認して、ようやく「あっ、そうだった」と納得した様子で頷いた。
「ご紹介しますねー!! ついさっき合流した私の幼馴染のカイく……いえ、カイアスです」
リアがそう言って手で示した先には、一人の男が立っていた。
彼女より頭一つ分程度背が高く、真っ赤な髪が特徴的で、がっしりとした体付きをしており……そして、なぜかリアと手を繋いでいた。
……まっ待て、状況が予想外過ぎて一瞬固まってしまったが、なぜいつか話に聞いたリアの幼馴染がいきなり出てくる!? なぜ彼女と手を繋いでいる!! そんな羨まし……ではなく、合流とはどういうことだ……!?
私が混乱して、考えもまとまらないままその男を凝視していると、そいつは爽やかに笑みを浮かべながら、こちらへ軽く頭を下げた。
「お初にお目にかかります殿下……私が彼女と同郷 のカイアスです、以後お見知りおきのほどを」
カイアスと名乗ったその男は、一見丁寧な口調と態度でオマケに笑顔だったが、私はなんとなくそこに嫌なものを感じ取った。
いや、ただの気のせいかもしれないが……。
「あ、あぁ……」
とにかくその時は動揺が収まらず、どうにかそんな言葉を絞り出すのがやっとだったのだが……。
そしてそこから、どうしてこうなった。
私は今、リアとカイアスという男と対面でソファーに座っている。
あの後、リアに「実はアルフォンス様に色々とお話したいことがあるのですが、立ち話もなんなので何処かに移動しませんか?」と言われたため、つい適当な部屋へ案内してしまったのだが……。
正直、案内してる間も二人の様子が気になって仕方なかった。
さすがにもう手は繋いでいないが、代わりにここに来るまでの間に二人でコソコソ喋っていたのが物凄く気になるし……。
そもそも、リアとの距離が近いのも気になるし……。
二人の関係性はなんなんだ、幼馴染って本当にそれだけか? もうなんだが、色々気になって気になって仕方ないのだが……!?
何より、今までなるべく直視しないようにしていた事実だが……改めてしっかり対面してしまうと、どうしても意識してしまうことがある。
そう、このカイアスという男なんというか顔がいい。
ややきつい印象だが、リアと並んでも見劣りしない程度には整った顔立ちをしている。
前提としてリア自身が物凄く可憐で美しいことを考えると……うん、つまりそういうことだ。
まぁ、それはそれとして理屈抜きにただ気分が良くないので、リアにあまり近づくのはやめて欲しいし、あまり親しくしないで欲しい……。
…………今の私にとってこの男の存在は、それ自体が毒だ。全てがよろしくない。
「あー、それでリア、話しというのは……」
だから私はカイアスから目を逸らしてリアに顔を向けたのだが、その瞬間彼の方からピリッとした何かを感じて思わず視線を戻した。
……だが、そこには先程と何も変わらない、笑顔のカイアスがいるだけだった。
な、なんだ……いや、だが今何か確かに……。
「はい、アルフォンス様ご説明いたしますね~」
こちらの困惑が収まらないうちに、リアが話を始めてしまったため、私はその疑念を振り払って彼女の方を向いた。
ひとまず、今は彼女の話に集中しよう……。
「彼が同郷の幼馴染だということはお話したかと思いますが、私の方で調査を進めた結果、今回の件にはもう少し人手が必要そうだと判断いたしました。そこで少々連絡を取って、彼に手伝いに来てもらったと言うわけです」
「そ、そうなのか」
連絡を取った、いつのまに……? 手伝いに来てもらったというが移動手段は? 一体どこからどうやって来たんだ!? と、今のリアの発言についても色々と気になるところだらけではあるが、考え出すとキリがない疑問をどうにか押さえ込んで、私は彼女の言葉に頷いた。
「ええ、そうなんです」
「でもそれならば先に、相談してくれればよかったのに……」
そう、気になる部分も多いが、せめてそこくらいはどうにかして欲しかった……。
そんな思いから私はつい、そう口にしてしまっていた。
「まぁまぁ、そこには色々と事情がありまして」
だから色々とはなんだ、そこを詳しく説明してくれないか!? などと思うものの、とても口に出すことはできず。
もやもやとした気持ちを抱えながら、何も言えずにリアを見つめていたところ……。
今までの会話に参加してなかった、カイアスが「少々よろしいでしょうか」と言いながら、私の方を向いてすっと手を挙げた。
「……なんだ」
まさかカイアスの方から声を掛けられるとは思ってはおらず、警戒しながら私がそう返すと、彼は笑顔を浮かべたままこちらに向かってこう言った。
「いえ、別にたいしたことではないのですが、う ち のリアが大変お世話になったとお聞きしましたので……私からもお礼が言いたいと思いましてね」
「う、うちの?」
「はい、う ち のリアに良くして下さり、本当にありがとうございます」
「……」
う、う、う、うちのリアとはどういうことだ!?
しかも何故か、この男『うちの』という部分を妙に強調していた気がするし……なんだこれは一体どういう意味だ!?
「……一応幼馴染とは聞いたが、君たちの関係性は実際どうなっているんだ?」
どうにか心を落ち着かせて、なるべく冷静な声を出すように意識しつつ、私はカイアスにそう問いかけた。
すると彼は、どこかわざとらしさを感じさせられる、やや困ったようなそぶりを見せながら口を開いた。
「そう言われますと、なかなか答えるのが難しいのですが……一応彼女の家族から常々『リアのことを頼む』と言われている程度の関係性ですかね」
か、か、家族から頼まれているだと!?
私は衝撃のあまり、思わず椅子から立ち上がってしまった。
だってそれでは、家族公認の恋人みたいなものではないか……!! ま、ま、まさか本当に…… 。
「アルフォンス様、大丈夫ですか!?」
動揺する私へ、そのように心配そうな声を掛けてくれたのは、突然立ち上がった私に驚いた様子のリアだった。その表情には私を心配してか、どこか不安もにじんでいる。
しまった……。
「あ、いや、少し立ち上がりたい気分になってな……」
っっ!! そうだ、一番肝心なのはリア自身がどう思っているかではないか!?
彼女の顔を見てそう気付いた私は、言葉を取りつくろう余裕もなく彼女に問いかけた。
「リアの方はどうなんだ?」
「へ?」
「君の方はカイアスのことをどう思っているんだ、聞かせてくれ」
リアは一瞬呆気に取られた様子だったが、ややあって質問の趣旨 をようやくのみ込んだのか、コクンと頷いて口を開いた。
「あっはい、カイく……いえ、カイアスのことですか?」
「そうだ」
彼女が何度も言いかけてる『カイく』も正直気にならないでもないが、今は一旦置いておく。
「そうですね……彼は私の家族というか親友みたいな存在ですかね」
「っっっそうか」
家族と親友っ!! つまり恋人ではない……!!
よ、よかったぁぁぁぁ!!
「ねぇ、カイくんなんで急に肘 でつっついてくるの……?」
「たまたま当たっただけだ、気にするな」
「えぇ、噓だぁ……」
安心する私をよそに、また二人がコソコソと話をしている様子だったが……まぁいいだろう。
家族で親友らしいからな。そう、家族で親友……!!
「あ、それとアルフォンス様にお願いしたいことがございまして」
「なんだ?」
「さっき言った通り、手伝いのためにカイアスもこの古城に滞在してもらいたいので、その許可と空き部屋を貸して頂ければと」
え……嫌なんだが。
いや、確かに彼はリアの幼馴染で家族と親友的な存在かも知れないが、それはそれとして、リアの側に同年代の……しかも容姿が整っている男なんて、わざわざ置いておきたいわけがない。
そう、絶対に近くにいて欲しくはないぞ……!?
くっ、どうにか理由をつけて、この男だけ追い出せないものか……。
「いやいや、何を言ってるんだよリア」
私が真剣に追い出す方法について考え始めたところで、突然カイアスが私にも聞こえるくらいの声でそんな風に喋り出した。
いや……えっ、さっきまでリアだけと話すときは小声だったではないか? それになんだ、その口調の変わりようは、確かにアレが素だとは思ってはいなかったが……。
「お前から散々聞いたが、アルフォンス殿下は寛大で慈悲深く心優しい方なんだろう? なら、わざわざ答えを聞くまでもなく、返事は決まっているじゃないか」
っっ!?
待て、リアはどんな風に、カイアスへ私のことを話したんだ!? さ、流石にそれはおかしいだろう!!
……まさか本当にそう思っているのか?
「確かにそうだけど、ほら一応聞くだけは聞いておかないと……」
あ、リアの返事を聞く限り、実際にそんな風に話していそうな雰囲気が出ている……。
いつのまにか、リアから物凄く信頼されてる……。
ちょうど今、そいつを追い出す算段を立ててたというのに……!!
なんとも言えない気持ちで、リアのことを見つめていたところ、すっと視線をこちらに向けた彼女と目があった。
「それで……あの、いかがでしょうか?」
リアは控えめに伺うような表情で、でもどこか信頼を感じられる目で私のことを見つめてくる。
もしここで、彼女のそれを裏切るような言動をすれば一体どうなることだろうか……くっ。
「……ああ、もちろん構わない」
こうなったらもはや断ることなどできない。
私はどうにか感情を表に出さないように、気を付けながらそう答えたのだった。
「ありがとうございます!!」
お礼を言ってくるリアの明るい笑顔も、今回ばかりは恨めしい。
ああ、なんで……なんで、こんなことに……!!
心のなかで頭を抱える私とは逆に、いい笑顔を浮かべたカイアスはリアの顔を覗きながら「な、言っただろ」などと口にして、彼女の肩をポンポン叩いていた。
やめろ、私の前でベタベタするなっ!! ぬぐっ、ぬぐぐぐ!!
まぁ、そもそも昨日の出来事自体が、夢のようだったからな。
リアと街に行ってデートをして、更に一緒にダンスまで……ああ、あの時のリアは本当に美しくて、女神のようだった。
……いや、むしろ本当に女神なのでは?
呪われてからというもの、神の存在などすっかり信じていなかったが、もし彼女が女神だというのなら……また神を信じられる気がする、むしろ毎朝毎晩祈りを捧げることだろう。
ああ、リア……好きだ……。
今朝の私は早めに目が覚めたため、散歩がてらに一人で城内を歩きながら、とりとめもなくそんなことを考えていた。
そうしてエントランスに差し掛かったタイミングで、ちょうど玄関の扉が開きだして思わず足を止めた。
むむ……な、なぜ玄関が勝手に?
「あっ!! アルフォンス様、おはようございます」
警戒する私の前に、ひょっこりと玄関から姿を現したのはリアだった。
なんだリアだったか……ん、あれ、そう言えば先日もこんな光景を見た記憶が……。
まぁ、それは別に構わないか。彼女にも何かしらの理由があるのだろう。
「ああ、おは……」
そうして私も彼女に挨拶をしようと思ったのだが、その瞬間目にしたモノに思わず言葉を止めてしまった。
「もしかして今しがたのお目覚めですかー? ん、あれ、アルフォンス様…………」
急に黙った私を不審に思ったのだろう、リアは不思議そうな顔で私の視線の先を確認して、ようやく「あっ、そうだった」と納得した様子で頷いた。
「ご紹介しますねー!! ついさっき合流した私の幼馴染のカイく……いえ、カイアスです」
リアがそう言って手で示した先には、一人の男が立っていた。
彼女より頭一つ分程度背が高く、真っ赤な髪が特徴的で、がっしりとした体付きをしており……そして、なぜかリアと手を繋いでいた。
……まっ待て、状況が予想外過ぎて一瞬固まってしまったが、なぜいつか話に聞いたリアの幼馴染がいきなり出てくる!? なぜ彼女と手を繋いでいる!! そんな羨まし……ではなく、合流とはどういうことだ……!?
私が混乱して、考えもまとまらないままその男を凝視していると、そいつは爽やかに笑みを浮かべながら、こちらへ軽く頭を下げた。
「お初にお目にかかります殿下……私が彼女と
カイアスと名乗ったその男は、一見丁寧な口調と態度でオマケに笑顔だったが、私はなんとなくそこに嫌なものを感じ取った。
いや、ただの気のせいかもしれないが……。
「あ、あぁ……」
とにかくその時は動揺が収まらず、どうにかそんな言葉を絞り出すのがやっとだったのだが……。
そしてそこから、どうしてこうなった。
私は今、リアとカイアスという男と対面でソファーに座っている。
あの後、リアに「実はアルフォンス様に色々とお話したいことがあるのですが、立ち話もなんなので何処かに移動しませんか?」と言われたため、つい適当な部屋へ案内してしまったのだが……。
正直、案内してる間も二人の様子が気になって仕方なかった。
さすがにもう手は繋いでいないが、代わりにここに来るまでの間に二人でコソコソ喋っていたのが物凄く気になるし……。
そもそも、リアとの距離が近いのも気になるし……。
二人の関係性はなんなんだ、幼馴染って本当にそれだけか? もうなんだが、色々気になって気になって仕方ないのだが……!?
何より、今までなるべく直視しないようにしていた事実だが……改めてしっかり対面してしまうと、どうしても意識してしまうことがある。
そう、このカイアスという男なんというか顔がいい。
ややきつい印象だが、リアと並んでも見劣りしない程度には整った顔立ちをしている。
前提としてリア自身が物凄く可憐で美しいことを考えると……うん、つまりそういうことだ。
まぁ、それはそれとして理屈抜きにただ気分が良くないので、リアにあまり近づくのはやめて欲しいし、あまり親しくしないで欲しい……。
…………今の私にとってこの男の存在は、それ自体が毒だ。全てがよろしくない。
「あー、それでリア、話しというのは……」
だから私はカイアスから目を逸らしてリアに顔を向けたのだが、その瞬間彼の方からピリッとした何かを感じて思わず視線を戻した。
……だが、そこには先程と何も変わらない、笑顔のカイアスがいるだけだった。
な、なんだ……いや、だが今何か確かに……。
「はい、アルフォンス様ご説明いたしますね~」
こちらの困惑が収まらないうちに、リアが話を始めてしまったため、私はその疑念を振り払って彼女の方を向いた。
ひとまず、今は彼女の話に集中しよう……。
「彼が同郷の幼馴染だということはお話したかと思いますが、私の方で調査を進めた結果、今回の件にはもう少し人手が必要そうだと判断いたしました。そこで少々連絡を取って、彼に手伝いに来てもらったと言うわけです」
「そ、そうなのか」
連絡を取った、いつのまに……? 手伝いに来てもらったというが移動手段は? 一体どこからどうやって来たんだ!? と、今のリアの発言についても色々と気になるところだらけではあるが、考え出すとキリがない疑問をどうにか押さえ込んで、私は彼女の言葉に頷いた。
「ええ、そうなんです」
「でもそれならば先に、相談してくれればよかったのに……」
そう、気になる部分も多いが、せめてそこくらいはどうにかして欲しかった……。
そんな思いから私はつい、そう口にしてしまっていた。
「まぁまぁ、そこには色々と事情がありまして」
だから色々とはなんだ、そこを詳しく説明してくれないか!? などと思うものの、とても口に出すことはできず。
もやもやとした気持ちを抱えながら、何も言えずにリアを見つめていたところ……。
今までの会話に参加してなかった、カイアスが「少々よろしいでしょうか」と言いながら、私の方を向いてすっと手を挙げた。
「……なんだ」
まさかカイアスの方から声を掛けられるとは思ってはおらず、警戒しながら私がそう返すと、彼は笑顔を浮かべたままこちらに向かってこう言った。
「いえ、別にたいしたことではないのですが、
「う、うちの?」
「はい、
「……」
う、う、う、うちのリアとはどういうことだ!?
しかも何故か、この男『うちの』という部分を妙に強調していた気がするし……なんだこれは一体どういう意味だ!?
「……一応幼馴染とは聞いたが、君たちの関係性は実際どうなっているんだ?」
どうにか心を落ち着かせて、なるべく冷静な声を出すように意識しつつ、私はカイアスにそう問いかけた。
すると彼は、どこかわざとらしさを感じさせられる、やや困ったようなそぶりを見せながら口を開いた。
「そう言われますと、なかなか答えるのが難しいのですが……一応彼女の家族から常々『リアのことを頼む』と言われている程度の関係性ですかね」
か、か、家族から頼まれているだと!?
私は衝撃のあまり、思わず椅子から立ち上がってしまった。
だってそれでは、家族公認の恋人みたいなものではないか……!! ま、ま、まさか本当に…… 。
「アルフォンス様、大丈夫ですか!?」
動揺する私へ、そのように心配そうな声を掛けてくれたのは、突然立ち上がった私に驚いた様子のリアだった。その表情には私を心配してか、どこか不安もにじんでいる。
しまった……。
「あ、いや、少し立ち上がりたい気分になってな……」
っっ!! そうだ、一番肝心なのはリア自身がどう思っているかではないか!?
彼女の顔を見てそう気付いた私は、言葉を取りつくろう余裕もなく彼女に問いかけた。
「リアの方はどうなんだ?」
「へ?」
「君の方はカイアスのことをどう思っているんだ、聞かせてくれ」
リアは一瞬呆気に取られた様子だったが、ややあって質問の
「あっはい、カイく……いえ、カイアスのことですか?」
「そうだ」
彼女が何度も言いかけてる『カイく』も正直気にならないでもないが、今は一旦置いておく。
「そうですね……彼は私の家族というか親友みたいな存在ですかね」
「っっっそうか」
家族と親友っ!! つまり恋人ではない……!!
よ、よかったぁぁぁぁ!!
「ねぇ、カイくんなんで急に
「たまたま当たっただけだ、気にするな」
「えぇ、噓だぁ……」
安心する私をよそに、また二人がコソコソと話をしている様子だったが……まぁいいだろう。
家族で親友らしいからな。そう、家族で親友……!!
「あ、それとアルフォンス様にお願いしたいことがございまして」
「なんだ?」
「さっき言った通り、手伝いのためにカイアスもこの古城に滞在してもらいたいので、その許可と空き部屋を貸して頂ければと」
え……嫌なんだが。
いや、確かに彼はリアの幼馴染で家族と親友的な存在かも知れないが、それはそれとして、リアの側に同年代の……しかも容姿が整っている男なんて、わざわざ置いておきたいわけがない。
そう、絶対に近くにいて欲しくはないぞ……!?
くっ、どうにか理由をつけて、この男だけ追い出せないものか……。
「いやいや、何を言ってるんだよリア」
私が真剣に追い出す方法について考え始めたところで、突然カイアスが私にも聞こえるくらいの声でそんな風に喋り出した。
いや……えっ、さっきまでリアだけと話すときは小声だったではないか? それになんだ、その口調の変わりようは、確かにアレが素だとは思ってはいなかったが……。
「お前から散々聞いたが、アルフォンス殿下は寛大で慈悲深く心優しい方なんだろう? なら、わざわざ答えを聞くまでもなく、返事は決まっているじゃないか」
っっ!?
待て、リアはどんな風に、カイアスへ私のことを話したんだ!? さ、流石にそれはおかしいだろう!!
……まさか本当にそう思っているのか?
「確かにそうだけど、ほら一応聞くだけは聞いておかないと……」
あ、リアの返事を聞く限り、実際にそんな風に話していそうな雰囲気が出ている……。
いつのまにか、リアから物凄く信頼されてる……。
ちょうど今、そいつを追い出す算段を立ててたというのに……!!
なんとも言えない気持ちで、リアのことを見つめていたところ、すっと視線をこちらに向けた彼女と目があった。
「それで……あの、いかがでしょうか?」
リアは控えめに伺うような表情で、でもどこか信頼を感じられる目で私のことを見つめてくる。
もしここで、彼女のそれを裏切るような言動をすれば一体どうなることだろうか……くっ。
「……ああ、もちろん構わない」
こうなったらもはや断ることなどできない。
私はどうにか感情を表に出さないように、気を付けながらそう答えたのだった。
「ありがとうございます!!」
お礼を言ってくるリアの明るい笑顔も、今回ばかりは恨めしい。
ああ、なんで……なんで、こんなことに……!!
心のなかで頭を抱える私とは逆に、いい笑顔を浮かべたカイアスはリアの顔を覗きながら「な、言っただろ」などと口にして、彼女の肩をポンポン叩いていた。
やめろ、私の前でベタベタするなっ!! ぬぐっ、ぬぐぐぐ!!