ショコラ編②笑顔を護るための、優しさの象徴

エピソード文字数 2,507文字


「母を殺した、漆黒の騎士テリーヌ。彼は 《翼装備》を操り、黒い 《神威の翼》を生やしたと言います。プラリーネちゃんからは、黒い魔力が見えるんです。黒くて、だけど回復魔法に特化した、珍しい魔力。あの子が魔法生物に愛されるのも、彼の特製を継いでいて」
「人の魔力と得意な魔法が見える。ラミントンちゃんも言っていました。この間言っていた、マガンというやつですか?」
「……はい」
 私、そんなこと言ったかしら?
 ほんと、エレーヌさんの前だと調子が狂う。
「だから、わかるんです。赤子だったプラリーネちゃんを孤児院に捨てたのは、多分……」
「たとえプラリーネさんの父親がテリーヌだとしても、あの子の家族は、貴女とクーベルさんです。プラリーネさんが間違った道に進むなんてこと、ありませんよ」
「ええ。もちろん、プラリーネちゃんのことは信じていますよ」
 そう、それはわかってる。
 心配なのは、プラリーネちゃんが優しい(・・・)から。
 自分の前世を冥府の騎士だと信じているプラリーネちゃん。彼女の記憶が、多くの人を殺した犯罪者の、幼き日に見たであろう父の姿だと知れば、ショックを受けてしまうかもしれない。
 かっこいいと思っていた人物が、私の母を殺した男だと知れば、“私の前でそれを口にした”自分を責めるかもしれない。
 プラリーネちゃんには、なんの罪もないけれど。
 それでも、そうなってしまうのが怖い。
 それとも、私はあの子を信じて、打ち明けるべきなんだろうか。
 わからないよ、お母さん。

「……一つだけ、きいてもいいですか?」
 エレーヌさんがメモ帳を取り出した。
「ええ……」
「あなたにとって、魔法武器とは?」
 そんなの、決まってるわ。
「優しさです」
「というと?」
「使う人のことを考え、想い、創るもの。笑顔を護るための、優しさの象徴です」
「戦うためのものではなく、誰かを護り、笑顔にするための道具だと?」
「そうです」
 私は強く、頷いた。

「なるほど。ラミントンちゃんも、そう言っていました。そうだ。写真があるんですよ。見ますか?」
「もしかして、そのペンダントの中に?」
「ええ」
 エレーヌさんは頷いて、首のロケットペンダントを開いた。
 中身は、笑顔を浮かべる二人の少女の写真だった。
 オレンジ色の髪をしたお母さん。今の私とよく似ている、ような気がする。その隣で肩を組んでいるのは、若い頃のエレーヌさん。
 動く写真の中で、二人は談笑しあっている。
「お母さん、すごく楽しそう」
 きっと、幸せな時間だったんだろうな。
 お母さんが楽しい毎日を生きていたと知れて、嬉しいわ。
「ショコラさん。優しさというのは、時に苦しみを生むものです。それでも、大丈夫ですよ。プラリーネさんだけが優しんじゃない。ショコラさんも、クーベルさんも優しいんです。だから、大丈夫ですよ」
 エレーヌさんが笑った。
 彼女に言われると、本当に大丈夫な気がしてくるわ。


 お昼。
 今日は定休日なので、時間を気にせずゆっくりサンドイッチを食べる。食べながら、クーちゃんは言ったわ。
「なにか、みんなが楽しめるイベントをしたいね」
「……イベント?」
 私が聞き返すと、サンドイッチをもぐもぐさせながら、言う。
「うん。ノエルちゃんと知り合って、全然関係なさそうなことも魔法武器に関係してるって知ったんだ。それでさ、逆に魔法武器に興味がないって人にも、魔法武器を知ってもらって、楽しんでもらえるようなイベントが出来ないかな~って思って」
 クーちゃんらしい発想ね。
 イベントかぁ。
 考えたこと、なかったな。
 最近二人で勉強してると思ったのは、この話だったのかぁ。
「というわけで、広場で露店を開き出張販売というのはどうであるか?」
 と、今度はプラリーネちゃん。
「これなら、クレープ屋さんの隣で開けば、お客さんもたくさん来ちゃうね!」
 クーちゃんも推していく。
 二人で考えた案なのかな。
「ついでにクレープを食べれば、美味しいし一石二鳥である!」
「さすがプラリーネちゃんだよ!」
 なんて盛り上がるわ。
 二人でアイディアを出してくれるのは、とっても嬉しいこと。でも、お店としてやるからには、中途半端には出来ない。
 きっちり詰めていかなくちゃ。
「面白いアイディアだけど、うちはオーダーメイドのお店よ? そこでなにを売るの?」
 注文を受けないと、売るものがないわ。
「えっ? そっか。あ、じゃあその場で具を選んでもらって、お好みのクレープ?」
 クーちゃんが目をパチパチさせた。
 あらあら?
 急に脱線しちゃった。
「それならクレープ屋さんじゃない?」
「ふにゅぅ……。その通りです」
 クーちゃんが肩を落とした。
「露店というのは面白いわ。そのうちやってみましょ」
「う、うん。あっ、じゃあ外で受注受けるのは?」
「それでは、魔法武器に興味のあるいつものような客しか来ぬな」
 今度はプラリーネちゃんが突っ込んだ。

「ううっ、難しいなぁ。お姉ちゃんはなにか、アイディアない?」
「そうねぇ」
 魔法武器に触れたことのない人たちまで、笑顔にさせちゃうイベント。もちろん、私たちがやるんですもの、まったく魔法武器に関係ないイベントじゃ意味がないわよね。
「ちょっとすぐには、思い浮かばないわね」
「お姉ちゃんでもダメかぁ」
「誰に対して、どんなイベントを行うか、よね。お姉ちゃんも考えてみるわ」
 可愛い妹たちが提案した、楽しいイベント。実行させたいもの。
「ショコラ姉、ミルクおかわり」
 プラリーネちゃんがコップを突き出したわ。私は立ち上がって、冷凍食料ボックスの中を確認。
「あらあら? ミルクがもうないわね」
「なぬっ。なら我が買いに行こう」
「あっ、じゃあ私が」
 二人が同時に立ち上がる。
「いえ、お姉ちゃんが行くわ。せっかくの定休日ですもの。二人はゆっくりしてて?」
 だけど、私はそれを制した。
 外をぶらぶらと歩けば、なにかいいアイディアが出るかもしれないもの。


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