第17話 プラスとマイナス

文字数 1,664文字

「何か色々な事が一気に判明したから、まだ頭の中が混乱してるよ」
「そうですね……」
弓月はそう言うと、パタっとその場に座り込んだ。
「おい、どうした弓月!」
「大丈夫です……。ちょっと力が抜けただけなので」
「そっか。弓月は良くやったもんな。まあ急がずゆっくり行けばいいさ」

弓月の横に座り込むと、視線に合わせて正面で見据える。

「この先もマイナスの感情を抱く事もあるし、思い悩んでしまう事もあるだろう」
「でもそんな時は塞ぎこまず俺を頼ってくれ」

「俺はどちらかと言うと前向きに考えて行動をするタイプだから、

 弓月のマイナスは俺が打ち消してやる。これでプラマイゼロ、だろう?」

「ふふ、プラスとマイナス。なかなか良い組み合わせな気もしますね」

「最初は大変だし、勇気もいっぱい必要だけど、

 一度施設に帰ろうかと思うのですが、どうでしょうか?」

「おお、それは良い考え方だな。それなら、これを渡しておこう」

俺はポケットから例のハンカチを手に取り出し、弓月に手渡す。

「何かが包まれていますね……これは、桔梗の花ですか?」
「そうだ。桔梗の花には、『友の帰りを願う』と言う意味も込められている」

「弓月のペースで良いから前に進んでいけば、

 施設のみんなも弓月の事を待っててくれるはずだ」

「綾瀬さん……ありがとうございます。
 桔梗に込められた気持ちを忘れずに歩いて行こうと思います」
「綾瀬さんが良ければ、時々遊びに来ていいですか?」
「時々じゃなくて、好きな時に遊びに来るといいよ」
「俺も桔梗の花言葉と同じく、この家で弓月が来るのを待っているからさ」
「分かりました。綾瀬さんのパワーをもらいに遊びに来ますね!」

弓月が浮かべる満面の笑みは、これからが楽しみになるくらい最高のものだった。


思わず弓月の頭を撫でようと、手を伸ばす。

「ん、誰かから電話か?」

スマホから流れる着信音で我に返り、ポケットから取りだすと、

液晶画面には「皇社長」と表示されていた。

「おいでなすったな、真打ち」
「真打ってなんですか?」
「悪い、ちょっと待ってな」
出した手を引っ込めて、立ち上がると電話に出る。

皇社長

「もしもし。そちらの方はどんな具合だ?」

「社長のおかげで当初の問題は解決できたと思います」
「まさか社長が鳳グループを取り仕切っている方だとは思いませんでしたよ」

「ははは。私としては話しても良かったんだが、

 あまり情報が広まると厄介な事になるので、

 表舞台には出ないよう言われているんだ」

「それで名取 愛花って言うのは、名取グループの名取 愛花で良かったのか?」
「はい、社長の読みどおり俺が知りたい人物でした」
「夢に出てきた人物の名前を、何となく口に出しただけだったので驚きました」
「夢に出てきた人物か。少し事情を説明してもらってもいいか?」
弓月と名取のこれまでの経緯を皇社長に話した。

「ふむ、そう言う事態になっていたのか。
 これは私の想像だが、綾瀬が見た夢は弓月君が見た夢で、

 隣にいた綾瀬に伝播したんじゃないかと」

「夢が伝播した、ですか」
「人の感情は周りに落ち込んでいる人がいたら、何となく重たい空気になるし、
 喜んでいる人がいたら、明るい雰囲気になったりするだろ?」
「なので長年マイナスのエネルギーを溜め込んできた弓月君の気持ちが、
 他に伝わるのはありえなくもないと思うんだ」
「そう言う事ですか。
 でも夢がきっかけで今に至れるので、その点はよかったですね」
「何事もプラスに考えられるのが、綾瀬の良い所だな」
「長年蓄積した気持ちはすぐには消えないと思うので、
 これからも弓月君を支えてやって欲しい」
「弓月の事は俺にまかせてください。
 いつも笑顔を絶やさないような女性にしてみせます」
弓月を見つめながら決意を固く誓う。
「おお、一気にプロポーズの言葉まで行くとは、綾瀬は男だな」
「あ、いやそう言う意味で言った訳ではなくて……」
「ははは、冗談だ。最後に私からプレゼントを用意した」
「管理人に机の上に置いてもらったので、確認してくれ。ではまたな」
小声で頑張れよと社長が言い残し、電話を切られた。
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登場人物紹介

綾瀬 亮介(あやせ・りょうすけ)

大学2年生。

相棒の猫・ルキアと心で会話する能力を持ち、また力を合わせる事で、

他者の心の状態を『色』で判別する事ができる。

謎の少女

亮介の自宅に突如現れた少女。


ルキア

亮介の家に住み着く猫。

亮介と会話をしたりする事ができる。

まさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブの髪と

青みがかった瞳が印象的で、ボディーガードを連れている。

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