トリメタ編(9)

エピソード文字数 1,649文字

ホテル最上階のビュッフェは眺めも良く、街の景色が一望できる。理不尽な旅が始まって以来、食欲もなかったナギだったが、ここからの景色と色とりどりの料理は、そんなナギの気持ちをいくぶんかでも和らげてくれた。

今日はいつもより豪華な料理が並んでいる。ナギ達のために特別に用意されたのだろう。

「私もご一緒させていただきます。さあ、お好きなものをお召し上がりください」

メアリィの勧めに、じゃあお言葉に甘えてとノートンが先に立つ。仕立て屋も皿を手に取る。リンは相変わらず料理の数々には目もくれず、紅いチェラシスの実を皿に取る。ナギはメアリィに勧められてサンドイッチとポテトサラダを皿に取った。

「当店のサンドイッチもサラダも、もちろんそれ以外の料理も、地元で採れる新鮮野菜が評判でした。でもコア・ステーションの事故以来、私達の国で採れる野菜や魚はよその国では売れなくなってしまいました。そのせいで生活が厳しくなった生産者の方々がたくさんいます」

「コアインシストのせいね」

メアリィの言葉にチェラシスをつまむリンが応え、メアリィは頷く。

「でも、もちろんここら南部の野菜はコアインシストに汚染されていません。今でも安全性には自信があります」

「俺はそれよりも、いろんな加工食品に含まれる不自然な添加物の方が気になるけどね」

朝から肉を食いちぎりながらノートンが言う。

「水だって、ここらの水はコアインシストの汚染を受けていません。昔からの森から生まれた、とてもおいしい水です」

ナギは静かにメアリィの言葉に耳を傾ける。ナギの隣では特別に用意された穀物盛り合わせをリョータがついばんでいる。

「しかし、エネルギー源のコア・ステーションを失って、この国は立ち行くのか? まさか、改めてコア・ステーションを作るつもりじゃないだろうな?」

ジャーナリストの発言は辛辣だ。パスタに舌鼓を打ちながらも、メアリィを見る眼差しは鋭い。

「もちろん、私達はあの事故を決して忘れません。コア・ステーションの事故が奪ったものがどれほど大きいか、忘れたくても忘れられません」

「だろうね。でも、他の国じゃまだせっせとコア・ステーションを動かしてるぜ」


「ニンゲンなんてその程度なのよ。浅はかだわ」

リンはそう言い捨てて、チェラシスをまた一つ、口に運ぶ。

「コア・ステーションが事故を起こせば、有害なコアインシストが発生するということを、私たちは身をもって知りました。そんなリスクを負ってまで、私たちはコアエネルギーに頼ろうとは思いません。エネルギーを作り出す方法は他にもあります。私たちは改めて、国のあり方や、エネルギーの使い方について考えて行くつもりです」

みんなが手を止めていた。いや、リンだけが頬杖をつきながら、チェラシスをつまみあげていた。

「やっぱりニンゲンってバカよね。ヤケドしなきゃわからないんだから。アナタの国のおバカさん達はせっせとコア・ステーションを建ててるんでしょ?」

リンはノートンに言う。ノートンはもう食後のコーヒーを飲んでいる。

「情報は国民に一切隠されてるから、みんななんにも知らないのさ。でも連邦政府は着々と建設を進めてるんだ」

「ヘンなのに操られてるってわからないの?」

「残念ながら、そのへんがまだわからないのさ」

ノートンの言葉に、リンは杖を手に取って立ち上がった。

「さ、急ぐわよ。メアリィさん、ごちそうになったわ」

「いえ、どうかお気をつけて」

「フロムビャーネに行くには船が要るけど」 ノートンが言う。

「必要ないわ。ジャーナリストさん、案内して」

ナギもいそいそとメアリィと仕立て屋にあいさつをして、ホテルを出る。既にピンセルの車が玄関に待機していた。リンはノートンに乗るように促すと、ナギとリョータも乗せて、

「ピン。行き先は北の国、フロムビャーネよ」

ピンセルの黒い車は、三人を乗せて北へと向かった。

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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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