03

エピソード文字数 7,849文字

 目を覚ますと見慣れない部屋にいた。覚醒と同時にずくずくと左肩が痛み、目を向けると清潔な包帯が巻いてある。腕には点滴針が刺さっていて、それから伸びているチューブの先には空になりかけの輸血パックが、壁に刺さしたピンに引っ掛かっていた。
 昨晩、ディーノが呼びつけた医者は深夜近くにも関わらずすぐに、ディーノの部屋に駆け付けた。骨は砕かれていなかったが弾は体内に止まったままで摘出しなければならず、麻酔を打たれたことを思い出し、溜息が出た。
 窓からは燦々と朝日が差し、ドアの向こう側からは料理の匂いが漂ってきている。昨晩のことがまるで嘘みたいに穏やかな目覚めだった。
「起きてたのかい。ちょっと待っててくれ」
 起きるかもう少し眠るか思案していると軽くドアが開き、顔を覗かせたディーノはすぐに引っ込んだかと思ったら、皿を片手に戻ってきた。
 皿の中では真っ赤なトマトスープの中に、細かく切った野菜と、何やらぐちゃぐちゃと荷崩れを起こし、原型を留めていない物体が浮いている。鼻をひくつかせてみても甘酸っぱいトマトの匂いしかせず、肉料理なのか魚料理なのか、パスタなのか全く判別がつかない。
「パッパ・アル・ポモドーロ。パン粥って言えばわかるかな。バゲッドを使ってみたんだけどチャバタの方が良かったかい?」
「ああいや、お粥って言ったら米ばかりで、パンを粥にするなんて発想は持っていなかったから……なんだか、とても新鮮に感じたんだ」
「そう言うことか。こっちでは割と、離乳食としてポピュラーでね。あぁでも、味付けは濃い目だし、ニンニクも多めに効かせてあるから香りも強い。パプリカで深みを出して、ブラックペッパーの辛味も加えたから大人の舌にも合うと思うよ」
 聞き返して来たディーノの口調は、僕が知っているいつもの彼にすっかり戻っていて、現実感の無さに拍車が掛かる。ほら、と差し出された器が手のひらで暖かい。スープをたっぷりと吸い、薄紅色に染まっているパンを掬って口に入れた端からじんわり溶ろけ、トマトの酸味と野菜から出たブイヨンに混ざった小麦の甘味がどこまでも優しく、腹の中に落ちるとポカポカと熱を帯びるのがわかった。
「ん……美味いな、これ!」
「だろう? とっつぁん直伝のパン粥だ。作り方もとても簡単。ブロードにトマト缶を開けて、みじん切りにしたニンニクやら人参やら玉ねぎやらと一緒にパンを煮込み、バジルで香りづけしたら塩胡椒で味を整え、オリーブオイルを掛けてやればいい」
 しっかり喋れているし、麻酔の影響は残っていないみたいだね、と僕を気遣うディーノは努めて明るく振舞っているようにも見えるし、僕との距離を図っているようにも見える。不自然さを感じないようにするほど、嫌でも違和感が強くなっていくのは昨晩、車を走らせカジノからディーノの部屋に行く道すがら、僕らに明かされた彼の過去が原因だった。
 ディーノの両親は生まれてすぐに離婚し、彼は母親に育てられた。母親は水商売を営んでいたが優しく、逞しかった。しかし、自分の想像を超えることをディーノがやろうとするのは不安だったらしく、そんな親心を無下にできなかったディーノはいつも母親の言いなりだったし、性格も内気で友達と言えば、自由奔放な五つ年上の従兄弟だけだった。
 従兄弟は両親から虐待を受けていたが活発で、内気だったディーノが思い描く自分の理想像を体現していた。母親に縛られていては幸せにはなれないと気づいた彼は、従兄弟に憧憬を抱くようになり、十代前半辺りになると二人で一緒に色々と悪さをし始めた。
 従兄弟が二十代半ばに差し掛かると悪い奴らと関係を持つようになり、あっという間に自分も引き込まれ、マフィアの一員としてシノギを手伝うことになった。最初こそ、強くて悪い自分に誇りを持っていたが、実際は悪ぶっているだけで満足していた。
 初めて殺しをした時に、良心の呵責に苛まれ、三日間眠れなかったくらいに、料理上手の母からしっかりと愛されて育ったディーノは、喧嘩や万引き程度のお遊びならともかく、肝心要の本当に悪いことができる性分ではなかった。
 しかしそれでも、組織の為に働かなければならず、従兄弟に引っ張られあの手この手で人を追い詰めては嬲り、痛めつけ、殺していくうちに自分でも訳が分からなくなり、気づいたら教会に駆け込んで、これまで全く信じていなかった神様に救いを求めていたそうだ。
 癒しといえば少しでも上納金の足しになるよう、リストランテで下働きをしている時であり、その間は少なくとも、悪いことを考えなくても良かった。更に言えば、組織内で高齢の親父に変わる後継者争いが激化していて、どこにいても居心地が悪かったから、そんなものとは無縁の厨房は安心でき、安らぎはいつしかマフィアなんかよりも料理人の方がずっと、自分に向いているという確信に変わっていった。
 ある時、一人のマフィアが話題に上った。自分たちのシマを荒らしているらしく、制裁を下すよう兄貴分から命令が下り、彼らはコンドミニアムの地下駐車場で待ち伏せをしていた。
 深夜、マフィアの車が戻ってくるなり予定通り、襲撃を仕掛けたのだが、マフィアはドレスを着た女と一緒だった。恐らく商売女で、マフィアとは直接的な関係は持っていなさそうだし、マフィアを殺せば女は騒ぐ。無実の女を殺すのも、殺しの現場が人目につくのも避けがたく、従兄弟に出直すように提案したが、それは聞き入れられず、従兄弟はマフィアを撃ち、止むを得ずディーノは女を撃ち殺してその場を去った。
 次の日の夕方には殺した二人が新聞に取り上げられていた。自分が関わった殺しが報道されることはままあり、罪がバレないかと冷たい手で心臓を鷲掴みにされるような感覚は、マフィアになったばかりの頃よりもマシになっていたが、リストランテの先輩から見せられた記事は最後まで読み切ることができなかった。昨晩、確かにディーノが撃ち殺した商売女の顔写真の下には、自分の母親の名前と共に確かに、殺害されたという記載がなされていた。
 殺しを行う直前、男と商売女は大声で話していて、普通の状態のディーノならば絶対に気がついていたはずだった。しかし、意識は殺しに集中していたし、従兄弟の発砲で撃たないという選択肢は潰えてしまった。ディーノはこの出来事を、今まで悪いことばかりしていた自分に罰が下ったんだと、仕方が無いこととして納得していたが、強張った表情からは未だに自分の中で消化できずにいることが伺えた。
 当時のディーノは、毎日金と命のやり取りによる極度の緊張にさらされ、マフィアの仕事を金の為と割り切って考えられていなかった。精神が疲弊していただけでなく、リストランテの仕事で肉体的な疲労も重なり、慢性的な躁鬱状態から抜け出せずに苦しんでいた。そんな精神が衰弱した状態では、自らの手で母親の命を奪ってしまったという、大きな打撃に耐えきれず、心はいとも容易くへし折れた。
 あれは事故だった。そもそも殺しが悪事であるということは除いて、誰がどうというわけではなく時と場所と居合わせの全てに運が無かった。リストランテの仕事を放り出し、教会に駆け込んで号泣しながら慈悲を乞うているところに現れたのが、マリオだった。
 尋常じゃない有様にどうしたのか聞いてきたマリオに全てを打ち明けると、マリオはディーノが所属していた組織の親父に掛け合い、ディーノに罪を償わせ、自分の元に置く算段を取ってきたそうだ。
 従兄弟が殺したマフィアは同じ組の人間で、親父が信頼を置く仲間の一人でもあった。優秀な従兄弟は時期後継者の座を狙う兄貴分に目をつけられていて、今よりも好待遇で使うことを条件に自分の側につくよう促していた。従兄弟はそれを承諾していて兄貴分側に着く条件が、親父が信頼しているマフィアを始末することだったと知ったのは、全てが終わってからだった。
 ディーノが従兄弟から何も聞かされなかったのは、自分と従兄弟を拾った親父を裏切ると知ればm必ず拒否するだろうと踏まれていたからで、いくら自分にはその気がなかったとしても、マフィアはディーノと従兄弟の襲撃によって死に、裏切りはなされた。
 親父はそんな人間を、ましてや精神を半壊させて直らないかもしれない子供の面倒を見る気は無く、ディーノはその日中に自首し、出所後は身柄をマリオへ預け、ドン・ドニーノで料理人をやることになった。
 淡々と語られたディーノの話に僕もヨキも口を挟めず、突然重たい打ち明け話を聞かされることになったジジだけが置いてきぼりで、一人キョトンとしていたのを覚えている。
 なんにせよ、僕とヨキが襲われた以上、ディーノももう黙ってはいられなくなってしまったのだろうが、散々の忠告を聞かずに僕とヨキが突っ走ってしまったせいで、ディーノには嫌な過去を思い出させる羽目になったのは後悔している。
「なぁ……怒ってないのか?」
 掬いかけたパン粥を皿に戻して、横目で彼の様子を伺う。ディーノは表情こそ穏やかではあったが、飛び出た言葉は、そんなわけないだろう、という正反対のもので、罪悪感に体が強張るのがわかった。
「言いたいことは山とある。だけどやっちゃったものは仕方が無い。ひと段落いたからこうして料理を作って自分を落ち着かせていたところだよ」
「もしかして、寝ていないのかい?」
「眠れなかったんだ。僕以外全員、怪我してるんだもん」
「悪かったよ……助けてくれて本当にありがとう。……よく、あそこにいるってわかったね」
「場所はわかっていたからね。ろくな目に合わないとも思ってたし」
 さっさと素性を話せばよかったと後悔しているディーノに、彼が口を噤んだ原因であるタトゥーについて問うと、これはオメルタだ、とぼやいた。
 ディーノが所属していた組織には、組織の掟であるオメルタを体に彫り込む習慣があり、ある意味それが、構成員となる儀式のようなものだった。掟を破った人間はすべからく、碌な死に方をせず、所属したばかりの頃、調子付いた構成員が掟を反故し、リンチの果てにコンクリートで固められ、海中に沈められた光景がトラウマになっているとディーノは漏らした。
「僕はもうマフィアを辞めたけど、抜けた時に関係者だったと話さない盟約を交わしたから、公言したくなかったんだ。話が漏れれば、疑われかねないからね。……君たちのことをそこまでは、信用していなかったんだ」
 マフィアは俗にいう秘密結社だ。組織を構成する人間も多くなく、末端まで徹底的な秘密主義の下で動いている。ディーノは組織を抜けてカタギになったが、組織の内情を知ってしまっている。監視や盗聴をされているかもしれないし、そもそも後ろめたい過去を公言することに強い抵抗感を抱いていたと、心境を吐露する彼はとても悲しそうな目をしていた。
 きっと、ディーノの感覚は今も狂ったままだ。悪いことは向いていないし関わりたくもないと、過去を明かすついでに自分の性格のことを語っていたが、殺し、殺され、騙し騙されが日常的に起きている環境に身を置いていると、その場を離れたとしても、マフィアになる以前の状態には戻れないのだろう。
 だからこそディーノは昨晩、僕とヨキを襲撃した二人を、感慨も無く殺すことができた。彼を昔の状態に戻してしまった。歩んできた過去を払拭できないのは人の性かもしれないが、世話になっている人間に酷なことをしでかしてしまい、胸が痛い。
 僕が言えたことではないが、できるならディーノには料理人のままでいて欲しいし、一介の料理人として厨房に立っていて欲しい。昨晩のような人を撃ち殺す環境よりも、忙しくも平和な日常に身を置いている方が似合っている。
「僕とヨキの荷物はどうなった?」
 ディーノの過去を知ってしまった以上、彼の側にいるのは迷惑だと思った。残ったものの、もう国に帰る時が来たのかもしれない。幸い、僕は他の国の言葉を話せる。文法は怪しいが、日常会話程度なら造作も無い。探せば働き口なんていくらでも見当がつく。また一からやり直しなんて面倒だし、上の人間に媚びる一方で理不尽に振り回されるのも癪だが、着実にこなしていけばなんとかならないこともない。
 ピンと来ていないが、生計を立てていくうちに自ずと居心地が良くなっていくかもしれないし、居場所もできるかもしれない。そうすれば、今は見失ってしまっている希望だって見えてくるだろう。これ以上、ディーノにもドン・ドニーノにも甘えているわけにはいかないと思った。
「ここに移してあるよ。昨日、とっつぁんの遺品整理をしている時に届いたんだ」
「そうか……。やっぱりもう、帰らなきゃならないみたいだ。君に恐れを抱いたからではないし、なんならドン・ドニーノに居続けたいけど、君を困らせるのなら身を引くよ」
「別にここに居られるのは迷惑でもなんでもないよ。ドン・ドニーノはとっつぁんの置き土産だ。閉店する気は無いけど僕一人じゃ切り盛りできない。人手がいると思っていたんだよね」
 意外な返答に思わず、手元のパン粥の皿を溢してしまいそうになった。まじまじとディーノの顔を見た限り、決して冗談を言っているような気配は無い。
「これだけ厄介ごとを持ち込んで、君の過去も知ったんだぞ! 信用できないんじゃなかったのか!?」
「厄介ごとに関しては君たちに悪意は無いし、信用できなかったのは昨日までのエイジとヨキは冷静じゃなかったからだよ。昨日の一件ですっかり嫌われてしまったかと思ったけど、居続けたいと行ってもらえて光栄だ。目の前で人を殺した挙句元マフィアなんて、普通の人間なんか近づきたがらないよ。でもまぁ帰るというなら、誰か探さないとな」
「ま、待て待て! やっぱり無し、帰らない!」
 いらぬ騒動を持ち込んでマリオの死を無駄にしかけ、ディーノに嫌な過去を思い出させた罪悪感や、お荷物という自負に、脳内に様々な言葉が浮かんでは消えていく。しかし、もう嘘はつけなかった。もはや理屈や道理ではない。偽ろうと思っても、マリオに拾われ、出会ったドン・ドニーノが素敵だな、と思ってしまった時から心に嘘はつけなくなっていた。
 母国よりもここにいたい。ドン・ドニーノの一員となった場合の、自分の人生に興味がある。だからここにどうにか留まるに足りる理由を探していたが、それに囚われるあまり、僕はディーノに直接、本心を伝えることを怠っていた。
「君の料理は大好きだし、手伝えてとても嬉しかった。まだ給仕とか皿洗いしか満足にできないかもしれないけど、君みたいな料理を作れるようになりたいとも思ってる。ドン・ドニーノにいると僕は楽しくあれるみたいなんだ」
 僕にとってドン・ドニーノは素晴らしくて、ヨキが良い友達で、ディーノの側が居心地がいいとなると、それは何も間違ってなんかいない。僕はこの集団に属していたい。さして感銘を受けているわけでもない社長や尊敬できない上司の為に、自分を受け入れそうにない会社の為に、考え方を変えてまで尽くして端金を稼ぐのは真っ平だ。
「素直にそう言えばいいのに。やる前から色々考え過ぎだし負い目を感じ過ぎなんだよ。慎重なのはいいけど、思考に囚われるのは愚かだ。前向きになれないのなら、そんなもの、さっさと止めて行動するなり、要望を伝えるなりした方がいい」
 僕やヨキはこの国から去ってしまえば安寧を取り戻せるが、居を構えて仕事をしているディーノはそういうわけないはいかない。父親代わりのマリオを失い、昨日の一件で自分もマフィアから目をつけられたかもしれないのに、どうして、気丈で寛容な姿勢を貫けるのだろう。
「なんにせよ、その願いを叶えるには君らの問題をどうにかしないとね。とっつぁんは僕を地獄から連れ出し、君とヨキは二度も命を救われた。生かされたからには生きる義務があるし、生きるにしたって生きたいように生きれない人生に価値は無いよ。邪魔する奴が現れたら、そんな奴の為に迂回したり別の道を探すよりも、僕はそいつをぶん殴りに行くよ」
 ああ、そうか。そういうことか。ディーノは不思議と、会った時から信頼できた。それは彼が陽気で優しかったからというわけではなく、何か別の作用が働いていたからだ。直感じみていて、うまく言葉にできないでいたがようやく、腑に落ちた。
ディーノは別に強いわけではないし、僕がディーノを僕が強いと認識している自覚も彼には無いだろう。僕とディーノの決定的な違いは、自らの思考に囚われ何もできないまま愚かでい続けることを止めているかどうか、ということだけだ。
 悲観に暮れて引き籠り、弱みに甘んじるでもない。尊大で嫌味な、生きて行く上で捨てるべきものとはまた別の、自分をたらしめている誇りに忠実であるからこそ、母親と父親が割りのマリオと言った大切な、守るべき人間を失い、厄介な僕とヨキを抱えて窮地に立っていてもなお、安寧を脅かす敵を打ち倒すなんて選択ができるのだ。
「僕は守るべき母さんを殺してしまったし親代わりのとっつぁんも守れなかった。ドン・ドニーノまで潰してしまったらそれこそ、生きる意味を失ってしまう」
 脳内にまざまざと、マリオの死に際の光景が蘇る。事切れてもなお浮かんでいたマリオの微笑みは、決して僕とヨキだけに向けられたものではなかった。マリオは自分の存在の消失が、ディーノやドン・ドニーナへどんな影響を与えるかを完全に把握していて、避けられない自分の死がディーノを傷つけないように、心を折り立ち直れなくならないように、死に様をディーノに晒すことを拒否した。
 何もかも納得している、何の悔いも無い、と強く思い込むことによって燃え尽きる生命の、最後の神経発火を全て、穏やかな死相を形成する為に費やし、残された者への手向けとしたに違いない。マリオはあの瞬間に死んだ世の人間の誰よりも誇り高く逝き、それを継承したディーノもまた誇り高く、賞賛に値する男だ。僕はそんなディーノに惹かれていたんだ。
「……一人で、行くのか」
 ドアの向こうから誰かの声が聞こえ、ジジかヨキが起きたのがわかった。ついつい話し込んでしまったと、部屋を出ようとするディーノの背に言葉を投げると肩越しに振り返り、どうしたんだと彼は目で訴える。
「昨日、マヌエルって男から聞いた場所に一人で乗り込むつもりだろ?」
「ああそうさ。警察に駆け込んでも殺し屋を雇って襲わせた証拠は残していないだろうし、事態は変わらない。それに、犯罪のプロのマフィアが、物件を半額にするなんて雑な条件付で、あんなチンピラに殺しを依頼するなんて不自然だ。それを調べに行く」
「僕も連れていってくれないか。そもそもが僕らの問題ではあるし、幾ら何でも独りぼっちは心細いだろ? きっと、何かの役に立つ」
「撃たれたばかりの怪我人にそんな勇気を持たせてしまうとは、僕の料理ってやっぱり凄いな!」
 申し出に返答する代わりに、満面の笑顔を浮かべてディーノは部屋を出て行く。皿はすっかり冷めてしまっていた。ひとまず、これを片付けて動けるようなら動いてみようと、持ち直したスプーンを口に運ぶ。温もりを失ってなお、ディーノのパン粥は慈愛に満ちていた。
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