満月の夜

文字数 1,371文字

 まっくら森はいつも夜。朝も昼もおとずれません。
 さわざざざざぁーんとうねる木々。枝葉のすき間は(あみ)のよう。ぽつぽつひっかかる星はかすかな白い豆電球。満ちては欠ける月の()は、心もとないカンテラです。

 今夜は満月。まっくら森が最も明るくなる夜です。

 満月の夜は切りかぶだらけのぽっかり広場で大集会が開かれます。

 まっくら森の住人が、広場にわらわら集って、まんなかにある大きな古い切りかぶをかこみます。
 うわさばなしが大好きな聞き耳ウサギは、住人たちの輪の中から、まんなかの切りかぶに向かって耳をぴんとのばしました。
 うさぎの耳のアンテナは、切りかぶの上にいるものしりフクロウとランプ屋のこびとじいさんの会話をぴたりととらえます。

「そりゃもうおどろいたのなんのって!」

 こびとじいさんは言いました。

「わしはランプを作るため、いつものように月見草畑に行ったんだ。夜光蝶(やこうちょう)がまき散らすリン(ぷん)のかかった月見草をせんじて、発光薬を作るためにだ。こりゃわしの長年の研究成果のたまものだ。リンリンうるさいスズランの鈴の鳴り物を取ってだな、花びらの内側にたっぷりと発光薬をぬりこめば、一つらなりのスズランランプのできあがりというわけだ」

 こびとじいさんのいつもの自慢話に住人たちはうんざり顔です。
 それでも途中で話の腰を折ってしまうと、こびとじいさんはつむじを曲げて、それ以上話すのをやめてしまうので、フクロウや森の住人たちは、毎度の話にあきあきしながらも、しんぼう強く聞いていました。
 けれども好奇心旺盛な聞き耳ウサギは、がまんできずに住人たちをかきわけて、前に進み出て言いました。

「それで? 月見草畑で一体何があったんだい?」

 ウサギに先を急かされて、こびとじいさんはちょっぴりムッとしましたが、すでに気はすんでいたので、そのまま話を続けることにしました。
 モモンガとコウモリは、ひまつぶしのケンカをやめて、いよいよ耳をかたむけます。
 みんなの関心が高まる中、こびとじいさんは大げさにせき払いをして、話を続けました。

「月見草畑はいつもより明るく、まぶしいくらいだった。今夜が満月だからという、ただそれだけの理由じゃない……いや、それも少しは関係していたかもしれん。何しろまぶしかったのは、月の光を反射する夜光蝶の羽だったのだから。問題は、その蝶の数だ。そりゃもうたくさんの蝶が飛んでいた。たまげたよ。生まれて初めて見る光景だ。夜光蝶の大群がぶつかりあって、羽がこすれて、青い火花のようにリン粉が飛び散っていた。だが、大量のリン粉が降り注ぐのは月見草なんかじゃない。ありゃ何だ?あれは……あれは……」

「だからそれは何なんじゃ?」

 フクロウは焦れて言いました。

「それがわからんから、ものしりのおまえさんに聞いとるんだ!」

 こびとじいさんは切りかぶの前でぴょんぴょん飛び上がり、フクロウをどなりつけました。

「とにかくそこに行ってみよう」

 聞き耳ウサギはそう言うや、月見草畑に我先にとかけだしました。
 フクロウやほかのけもの、こびとたちもウサギのあとにつづきます。
 妖精たちも、うすいヴェールのような背中の羽を次々さわっと広げると、スズランランプをしゃんしゃんかかげて飛んでいってしまいました。

 広場がしーんとなった頃、ぽっかり夜空にぷかぷかと満月が浮かんできました。

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