第三話「僕は学生、吾輩は猫である」
文字数 3,144文字
久世竜胆は学生である。その正体は環境省特別対策室所属のカミガカリだ。
今日も彼は学生生活をそこそこにして事務所に向かう。
尊敬する卜部に会うために。
ヒールを鳴らしながらパタパタと駆けていく"進藤先生"を横目に事務所へ向かう。
いつもはまっすぐ家に帰っている彼女が教会に呼び出されていたということは何かの任務だろうか、などと思案しているとジャージ姿の女の子にぶつかってしまう。
営業スマイルで謝り、手を差し伸べようとするが、この辺では見ないジャージである。
中学生だろうか。
少女は竜胆から逃げたいように見える。
竜胆はカミガカリとしての直感により彼女からほんのわずかに霊気を感じた。
改めてみると害意は無いものの一般人ではないようだ。
少女はじりじりと後ずさって逃げようとする。
刹那、竜胆は霊視の力を高め、彼女の正体を見破った。
猫の姿のカミガカリが《人型形態》をとっていたようだ。
霊紋が額の真ん中に浮き上がっている。神霊の類だろうか。
猫の名前はウルタールと言うらしい。
道端で猫と話をしていると人目につくので寂れた公園に場所を移した。
その間も猫は家族の愚痴を延々と続ける。
オトンがな、ウチが食後にとっといたデザート勝手に食べとんねん!
むっちゃ腹立つやろ!
そんでしかも謝れへんねん!
そんなに大事なんやったら、名前でも書いとけ ってアホか!
お前ほんならタマシイとかにも名前書いとんのか、っちゅー話やろ?
な? せやろ!?
苦笑いしながら話を合わせる竜胆。
猫は急に声のトーンを落とし、こう言った。
家族内の微笑ましいいざこざに相槌をうっていたと思ったらスケールが宇宙規模になった。
竜胆は自分の思考のはるか上空へ話が飛翔したことを認識した。
その後もウルタールの話は続き、要約すると以下のようなことが起きたという。
1. 家族売却後に宇宙に出るに出られず地球でずっと寝ていたこと
2. 50年前にクトゥルフが目覚めたがどうにかなったのでまた寝たこと
3. 16年前に霊的な波動で目が覚めたこと
4. 旧支配者たちの復活をもくろむ者があり、それを防ぐために活動を始めたこと
猫はどこから取り出したのか赤い本を見せた。
古い本でかすれているが英語で『PEOPLE OF THE MONOLITH(邦訳:モノリスの人々)』と書いてある。
珍しいことに竜胆はクトゥルフ神話に造詣が深かった。
これは間違いなく魔導書の1つ、しかも禁書に指定されるレベルのとびきりまずいタイプの魔導書だ。
一般人が触ったら気が狂って自殺するレベルの。
せやろ! やばいやん!?
ジブンらの……なんか……集まり……部活みたいな……人いっぱいのヤツ……
それがなんか、本のこと調べてどうにかしよ思てるみたいやから、
どんなやつがやりよんやろ! 思て顔みにきてんやん
ウルタールは眷属の猫を使役して様々な所から情報を収集していたようだ。
竜胆としても魔導書を野放しにすることは看過できないだろう。
……わかりました。私の方でも確認を取ってみます。
その上で可能であれば、調査に参加しようと思いますが、ウルタール様は……
……何か連絡を取る手段とかはお持ちですか?
私の方でわかったことなどがあれば、ご相談に上がりたいと思います
竜胆は知る由もないが、竜胆の所属する環境省特別対策室では魔導書事件の担当者として竜胆の名が挙がっていた。
早晩、竜胆が担当することになるだろう。
ウルタールがそう言うやいなや大量の猫がどこからともなく現れた。
中には普通の猫ではない猫又などのモノノケも含まれていたが。
そう言うと竜胆は深々と頭を下げる。
ウルタールも竜胆の態度を気に入ったのか上機嫌だ。
語尾がしぼんだのは自分の力についてだったようだ。
ちなみに日本最大のカミガカリ組織「退魔師協会」は本部を京都に置いている。
十中八九それが原因であると竜胆は考えたが、敢えて何も言わなかった。
そう言って現れたのは体格も態度も表情もふてぶてしい猫だった。
竜胆にとって大事な客猫? である、大事にしよう。
その後、竜胆は特対よりこの街で起きている事件をあらましを聞き、そのまま事件解決の任を受けるのであった。
なお、今回は外部のカミガカリと協力するらしく、
後日指定された場所に集合するらしい。