一話完結
文字数 1,456文字
どうやって見つけたのか分からない。ただ、今でも脳裏に残っている映像がある。
生放送だった。ネットが世に普及し始めたくらいの時期である。
その映像の中に一人の男がいた。その男は頭に血管を浮かせながら、常に怒りっぽく、どことなく辺りに目を向けながら叫んでいる。何を言っているのか分からない。言葉にならない叫びが部屋に響き渡った。それから静寂がやってきて、男は着ている服を両手で裂いて、ポケットに手を突っ込み、そこから幾つもの宝石を取り出した。粗い映像からでも、ダイヤモンドやアメジスト、エメラルドなどといった高価な宝石だった。それらを裂いた服の中に包み込み、それを両手で持ちながら映像の外へ歩き出した。
数十秒して、画面外から男の叫び声が聞こえた。今度ははっきり聞こえた。
違う、違う、俺じゃない。
それから、また数十秒の沈黙。ザッザと這うような音の後に、男が映像の中に戻ってきた。手に持っていた宝石はない。代わりにそこに散弾銃を抱えていた。男は青白かった。あんなに膨らんでいた血管も縮んでいて、口もわずかに震えている。口を開けて、何かを言おうとするが、すぐに口を閉じる。それを何度も繰り返していた。目線はずっとカメラにあった。どれだけ足や腕を動かしても、目線だけは確かだった。
二分ほど、そうして退屈な時間が流れていた。わたしも飽きてきて、視聴を止めようと思ってマウスに手をのばしたら、
いくぞ、俺はいくんだ。
はっきりとした声の後、男は銃口を口にくわえ、そのまま引き金をひいた。
一瞬の出来事だった。白い壁に鮮血やどす黒い個体がへばりつき、男の顔は原型を失って、スイカが破裂したようにぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。男の頭上、脳みそと真っ黒な血が混ざりあっている中に光る物体が見えた。白く、青く輝く宝石たち。変わらない画面の中の銃口からゆらゆらと白い煙が漂っているのを見ると、これは現実なんだと訴えられた気分だった。
その現実に目が釘付けになった。頭の中から目を背けろと警笛されても、手が動かない。好奇心とは違う、心からの恐怖が頭を支配して、何かするのも阻んだ。
五分。確かに五分。わたしは映像を見ていた。何も変わらない画面。
突然、ぷつんと映像が暗転した。音もなく、カメラの電源が切れたように。
配信は終了しました。画面からは淡白な文字が現れた。
映像は、ここで終わっていた。
後日談になるが、自分で生放送をしてみたいと思った時期があり、試しにカメラとマイクを購入して始めてみたのだが、これが難しかった。どれだけ一人でしゃべっても、誰も見に来る人がいないのだ。それでも、めげずに一人、テレビゲームをしたり、雑談をしたり、なんとか人を集めようと躍起になった。そのおかげか、一か月ほどで三人くらい見に来てくれる人が現れた。それが嬉しくて、よく来てくれる人と会話を楽しんだ。むこうはチャットで、こっちは口で。
そんなある日、わたしはカメラのコードを誤って抜いてしまったことがある。わたしの古いカメラは電池を内蔵しているわけでなく、すぐに電源が落ちた。それに気づいて慌ててコードを繋げ直すと、カメラの再起動とともに、画面にわたしが移された。ホッとしていると、一人の視聴者から、画面が真っ暗になったけど大丈夫?と心配された。わたしは汗をぬぐいながら大丈夫と答え、
「そっちこそ、配信が突然とまって焦ったんじゃない?」
なんて笑いながら聞くと、彼はすぐに返信をしてきた。
画面が真っ暗になっただけで、配信は切れてなかった。
生放送だった。ネットが世に普及し始めたくらいの時期である。
その映像の中に一人の男がいた。その男は頭に血管を浮かせながら、常に怒りっぽく、どことなく辺りに目を向けながら叫んでいる。何を言っているのか分からない。言葉にならない叫びが部屋に響き渡った。それから静寂がやってきて、男は着ている服を両手で裂いて、ポケットに手を突っ込み、そこから幾つもの宝石を取り出した。粗い映像からでも、ダイヤモンドやアメジスト、エメラルドなどといった高価な宝石だった。それらを裂いた服の中に包み込み、それを両手で持ちながら映像の外へ歩き出した。
数十秒して、画面外から男の叫び声が聞こえた。今度ははっきり聞こえた。
違う、違う、俺じゃない。
それから、また数十秒の沈黙。ザッザと這うような音の後に、男が映像の中に戻ってきた。手に持っていた宝石はない。代わりにそこに散弾銃を抱えていた。男は青白かった。あんなに膨らんでいた血管も縮んでいて、口もわずかに震えている。口を開けて、何かを言おうとするが、すぐに口を閉じる。それを何度も繰り返していた。目線はずっとカメラにあった。どれだけ足や腕を動かしても、目線だけは確かだった。
二分ほど、そうして退屈な時間が流れていた。わたしも飽きてきて、視聴を止めようと思ってマウスに手をのばしたら、
いくぞ、俺はいくんだ。
はっきりとした声の後、男は銃口を口にくわえ、そのまま引き金をひいた。
一瞬の出来事だった。白い壁に鮮血やどす黒い個体がへばりつき、男の顔は原型を失って、スイカが破裂したようにぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。男の頭上、脳みそと真っ黒な血が混ざりあっている中に光る物体が見えた。白く、青く輝く宝石たち。変わらない画面の中の銃口からゆらゆらと白い煙が漂っているのを見ると、これは現実なんだと訴えられた気分だった。
その現実に目が釘付けになった。頭の中から目を背けろと警笛されても、手が動かない。好奇心とは違う、心からの恐怖が頭を支配して、何かするのも阻んだ。
五分。確かに五分。わたしは映像を見ていた。何も変わらない画面。
突然、ぷつんと映像が暗転した。音もなく、カメラの電源が切れたように。
配信は終了しました。画面からは淡白な文字が現れた。
映像は、ここで終わっていた。
後日談になるが、自分で生放送をしてみたいと思った時期があり、試しにカメラとマイクを購入して始めてみたのだが、これが難しかった。どれだけ一人でしゃべっても、誰も見に来る人がいないのだ。それでも、めげずに一人、テレビゲームをしたり、雑談をしたり、なんとか人を集めようと躍起になった。そのおかげか、一か月ほどで三人くらい見に来てくれる人が現れた。それが嬉しくて、よく来てくれる人と会話を楽しんだ。むこうはチャットで、こっちは口で。
そんなある日、わたしはカメラのコードを誤って抜いてしまったことがある。わたしの古いカメラは電池を内蔵しているわけでなく、すぐに電源が落ちた。それに気づいて慌ててコードを繋げ直すと、カメラの再起動とともに、画面にわたしが移された。ホッとしていると、一人の視聴者から、画面が真っ暗になったけど大丈夫?と心配された。わたしは汗をぬぐいながら大丈夫と答え、
「そっちこそ、配信が突然とまって焦ったんじゃない?」
なんて笑いながら聞くと、彼はすぐに返信をしてきた。
画面が真っ暗になっただけで、配信は切れてなかった。