前世譚5 ❀ 空から届いた手紙

文字数 925文字

春に先輩のシスターが去り、やがて長い夏が訪れた。

(暑い…。どこか風に当たれる涼しい場所はないかしら。そうだ、あそこなら……)

アリエッタは、修道院の一番高い塔へのぼった。


塔のてっぺんに着くと、心地よい風に迎えられた。

なんて涼しいのかしら。

それに、ここからだと遠くまで見渡せるのね……

修道院の周りに広がる森や、近くの町を望遠する。


雨に濡れた森や町は、太陽の下で輝いていた。

綺麗な世界……。

外を見るのは久し振りだわ。

両親や、シスター・ガブリエラは、今どうしているだろう?

自ら望んで、祈りの箱庭に入ったアリエッタ。


その心がふたたび、外の美しい世界へ向いた瞬間……。

(どうして、こんなに切ないの?)

アリエッタの目から涙があふれ、頬を伝った。

リカルド……

彼を失って、彼女の世界はずっと色あせていた。


世界があざやかに見えた瞬間、心が俗世に還った。

本当はあなたと、この綺麗な世界を生きたかった……

展望台で一人、膝を崩して泣いていた。


どれほど時間が経ったろう。


ふいに空から羽音が聞こえたので、顔を上げる。

鳩……?
その白鳩は、アリエッタのそばに舞い降りた。
………
一声も鳴かず、小さな黒い目でアリエッタをただただ見つめ、そばを離れない。
あなた、もしかして……

彼の友だちでは?


そう言いかけて、かぶりを振ったが。

あなたの足についているのは……手紙?

鳩の足についた、細長い金筒だ。


ふるえる手で、筒から丸められた文を出す。

愛しい君へ。


どうか怖がらないで。


君に告白していないことがありました。

この字……見覚えが……
僕は本当に魔法使いなんです。

魔法使いさん……。まさか本当に……

アリエッタ、君を見つけましたよ。 


リカルドより

どこにもその姿は無かった。


けれど使いの鳩が、アリエッタを見つめていた。

リカルドは生きているのね! 

どこに?

私の近く? それとも遠いところ?

くるっぽぅ

私も魔法使いなら、あなたとお話できたのに

会いたい……話したいの。

どうすれば……

鳩は、リカルドの手紙を、くちばしでそっとつついた。

私、返事を書くわ。

魔法使いさんに届けてくださる?

その不思議な鳩は、アリエッタの言葉を理解したのか、うなずくような仕草をした。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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