ご予定は……

文字数 1,937文字

「美佳ちゃん。今後一年の間に妊娠する予定ある?」
 職場のパソコンでデーター処理をしてたら、開発プロジェクトのリーダーをやってる先輩の一人がそんなことを聞いてきた。
「セクハラっスか、受けてたちますよ」
「女性がメインの職場だからね。この話題をセクハラって言われたら、総合職にまわせないよ」

 総合職。チャンスだ。

「一年間は無いです。夫が子ども欲しい人なので、いつかは産みますが」
「ちなみにリミットは?」
「三十ですかね」
「まぁ、そんなところだろうね。出産後は続ける?」
「当然です。続けている先輩方は、私の憧れです」
「まぁ、よいしょは良いとして……。じゃ、課長に話通しとくから、明日から来てくれる?」
「もちろんです。ありがとうございます」
 じゃね。って先輩は、足早に去って行った。

 よっしゃ、明日から商品開発に関われる。
 やった~、うれしい。


「美佳ちゃん。何か良いことあった?」
 越して来たばかりのマンションで、ルンルン気分で料理してたら拓海くんから聞かれた。
「あのね。私、開発の方にまわされたんだ」
 てへへって感じで報告をする。

「すごいじゃない。おめでとう」
 拓海くんは、自分のことのように喜んでくれる。
「でもね、一年かかるから、その間は妊娠できない。そうリーダーから言われちゃって」
「今更だろう? 別に良いよ、今まで通りだし。それにしても、すごいねぇ」
 そう言って、拓海くんはとっておきのお酒を出してきた。

 本当に喜んでくれるんだ。


 ベッドで、拓海くんが寝ている。
 私もその横に転がってるけど……。
 一年かぁ。これが男だったら悩まないんだろうな。
 
 拓海くんは、どう思っているんだろう。
 って言うか、拓海くんって『子ども欲しい』って言いながら理性的だよね。
 今流行(はやり)のそういうの面倒くさいタイプ?

 …………そういえば、拓海くんから誘われたこと、一度も……ない。
 基礎体温の情報とか生理とか、危険日とかの情報共有してるハズなのに……。

 一度も、無い……事も無い……か。
 高校生二年の時、私がまた家にいるようになって、拓海くんがやってくるようになって。

 なんか、変な雰囲気になったんだよね。
 私の部屋で勉強終って一息吐こうって時に、いきなり……いや、ゆっくりだけど押し倒されて、キス……も二度目で、なんか手が……。
「や……いや。拓海くん」
 一生懸命押し返そうとしても、力強くて思わず
「こわいっ」
 って言ったら、拓海くんの手が止まって私の上からどいてくれて
「ごめんね」
 力無く笑っていた。
 
 あれから、ずっと結婚するまで何も無かったんだよね。
 結婚してからも、やれ危険日がとか、今日は生理だから……とか。
 そりゃ面倒くさくもなるか、もともと淡泊な方なのかも知れないし。
 アホなこと考えてないで、早く寝よう。明日も仕事だ。


 うちはプロジェクトに参加したからといって、残業が多くなるわけじゃ無い。
 女性が多く小さな子どもがいても、保育園の送迎に余裕で間に合う。
 ただし……保育園に入れれば……の話だけど。

 新しい仕事に紛れて……というか、色々考えた結果、私は拓海くんを夫婦の営みに誘うのをやめた。

「それ、いつまで保つんだかね」
「私……が、ですか? 新しく覚えることで頭いっぱいで、そっちまで気が回らないですよ」
 同じ会社と言っても、部署が変われば人間関係も変わる。
 うちは元々、理系女(リケジョ)が多くてさっぱりしてるから、どの部署にいても会話はこんな感じだけど。
「いや、夫殿」
「え~、無いですよ。誘うのいつも私っすよ」
「三ヶ月保ったら良い方だと思うけどね」
 なんか、ニマニマしてるよ、リーダー。
 賭けてますね、人ん家の……。何かあったとしても、言いませんからね。絶対。





「はい。ええ……。すみません。明日には行けると思いますので。ありがとうございます」

 だるい……身体がすごく。
 拓海くんが、うちの会社に電話するのを阻止できなかった。
 だから会社行くって言ってるのに……。

「なんだか、美佳ちゃんとこのリーダーの人? すごく快くお休みくれたよ。
 良かったねぇ。良い会社で」
 拓海くんは、会社に着ていくスーツに身を包み上機嫌で言っている。
 心なしか肌が艶々しているように、見えるよ。
「それじゃ、お昼ご飯。冷蔵庫に入れてあるから起きられるようになったら、食べてね」
 そう言って、唇に触れるだけのキスをして、会社に行ってしまった。

 結論から言うと昨夜、私は襲われてしまっんだ。拓海くんに……。
「ねぇ。僕の我慢も限界なんだけど」
 って言われて。
 誰が言ったんだ、淡泊な方だって……、私か。

 リーダー、賭に勝ってホクホクだよね。

『何かおごって貰おう』そう心に決め、昨夜取れなかった睡眠を取るために目を閉じたのだった。
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