第2話 相似惑星系

文字数 2,926文字


 この宇宙は広く、
 我々は、未だに自らが存在する天の川銀河の全容でさえ、その全てを把握し切れていない。

 私は、自らの死後、素粒子転送装置(トランスファー)記憶(ダイレクトリンク)させていた意識を銀河の深遠へと転送し、幾億もの星雲や銀河の中心から延びる星々の腕(スパイラルアーム)を越え、万有の理と出会いながら、その途中で様々な場所に拠点を構築し、未知の何かを求める探索の歩を進めていった。
 しかし、その星々の大海では私が求める地球を救う

に出会う事は無く、幾つかの可能性と遭遇をしたが、そのほとんどは宇宙の密度が変化すると共に原子崩壊を起こすと、私の手のひらから消え去ってゆき、改めてこの宇宙には我々が知る物理法則が及ばない領域がある事を思い知らされた。
 
 そして、私はその探求の果てに、その希望と崩壊を繰り返すことで、
 ある一つの考えをより強く求めるようになっていった。


〘 高度な文明を持つ未知の知的生命体なら、それを持ち得ているのではないか 〙


 組成変化を起こしてしまうほどの不安定な物質であるのならば、地球の宙域で存在するのは到底不可能である。しかし我々以上の叡智を持つ高度な知的生命体なら、

を制御し、原子崩壊を抑え、その手に収めているかもしれない。
 私は、その可能性を求め地球と同じ宇宙密度を持つ宙域を探索し彼らとの出会いを求めて、更に宇宙の深遠へと探査の歩みを進めてゆき、その中で幾つかの希覯な古代文明による遺跡を発見したが、彼らはもう消え去り、幾つかの現存する文明も発見したが、

を持ち得てはいなく、
 幾億もの星雲を旅し、数々の星々の腕(スパイラルアーム)を越え、

を持つ文明を求め探訪の限りを尽くしたが、彼らに出会う事は無かった。

 そして、残された領域は、天の川銀河の中心を挟んだ太陽系の反対側、ケンタウルス・アームにある不可視領域、人類が観測しきれていない宙域のみとなった。

私は間もなく、その未知の宙域に突入する

地球再生の可能性を求めて







 ジェフリー博士の意識体は、トランスファーと拠点の構築を繰り返し、地球から見えざる宙域へと向かって行った。
 博士が向かう宙域は、銀河の中心を挟んだ太陽系の反対側、人類が観測しきれていない不可視領域であったが、天の川銀河の渦形状がほぼ同じである為に、太陽系と同じ様な惑星系が存在し、同程度の宇宙密度を有しているのではないかと推測されている領域であり、最後の希望の領域であった。

 ジェフリー博士は、地球が存在するオリオンアームの反対側、ケンタウルス・アームの不可視領域へと突入すると、長い年月を掛け太陽系とほぼ同じ位置に存在する、宇宙の密度が地球と同程度で、濃い星雲が佇む惑星系に辿り着くことが出来た。
 博士はその未知の惑星系を確かめるべく、惑星系の外苑部(オールトの雲)に拠点を構築すると、同じく構築をした小型の探査船でこの惑星系の中心へと向かってゆき、徐々に明らかになってゆくその光景に、博士は驚愕をした。

「こ、これは…

 その惑星系内には、美しく整然と並ぶ奇跡の丸い希望(惑星)が存在し、今までの惑星系とは違う秩序を感じさせる光景が広がり、しばらくの間その惑星達を観察すると、その惑星の配置に、懐かしい記憶が蘇ってきた。

「あぁ… 太陽系と  同じではないか!」

 その未知の惑星系は、あまりにも太陽系と酷似していた。

 その未知の惑星系は、太陽とほぼ同じ質量の恒星を中心に9個の惑星を従え、水星から木星に至る惑星達の並びは、まさに太陽系のそれであり、博士は急ぎその生命居住可能領域(ハビタブルゾーン)に近付くと観測を開始し、未知の知的生命体の存在を探し始めた。

しかし、

「だ、第三惑星が…  赤い…」

 太陽系で同じ位置の第三惑星は、地球である。

 この惑星系での第三惑星は、水を湛える青色ではなく、大地は荒廃し赤く色付き、生命が発するであろう人工の光も灯されていなく、博士が知る第三惑星、母なる地球とは大きくかけ離れた様相の惑星がそこには存在し、その赤色に染まる惑星の存在を確認した博士は深く落胆すると、更に在るべき存在が無い事にも気が付く。

「あの第三惑星には、月すら存在していない」

 地球の衛星であった、月の存在をも確認できなかった博士は、赤く染まった第三惑星を見つめ、月を失った事で同じ赤く染まる星へと変容している地球に思いを馳せると、地球における月の重要性を改めて痛感し、

「あぁ…月よ、我々を育み、貴重な恵みを与える、何とかけがえのない星だったのか」
「我々は愚かな生命体だ、月に生かされていたのにも関わらず、その月を食い物にしてしまった」

「月よ、許してくれ…」

ジェフリー博士は失った月を尊み、その贖罪を更に強く想う様になっていった。

 しかし、この惑星系ではもう一つ大きな違いが存在していた。
 火星と同じ位置にある第四惑星とこの第三惑星の間に、太陽系には無い未知の惑星が存在し、その黒々とした惑星は周囲の宇宙と同化しながら二つの天体の間を単独軌道で周回していた。
 ジェフリー博士は、落胆しながらもその未知の惑星を調査し、一通りこの惑星系を回り知的生命体の存在を探ったが、やはり彼らの痕跡を見つける事は出来なかった。

「残念だが、それだけ我々人類は宇宙文明としても貴重な存在なのだ」
「しかし、だからこそ、私が出会ってきた滅びた古代文明達と同じく、我々が消え去る事は許されない」
「そして

を見つけ届けるのだ」

ジェフリー博士はこの惑星系の星々を見つめ、その渇望を言葉にしていた。



静かに未知の惑星系に奇跡の丸い希望(惑星)が佇み、整然と恒星の周りを公転してゆく



「さて」
博士が、再び探査を始めようとしたその時、

…ピ   ピ  ピ ピ ピ ピ ピ
センサーが何かを捉え反応を始めると、

ゴォォ…
銀河の中心から、天体らしき物体がその姿を現した。

「物凄いスピードだな、恒星間天体か」
観測モニターを見つめる博士。

 しかし、謎の天体は未知の惑星系の外苑部(オールトの雲)を抜けると激しく発光し始め、減速する事なく、浅い進入角で惑星系内に入ってきた。

「まずい! 何処かに当たるぞ!」

―――ゴッォツ!!!!

!――――――――――――――――――――

火星(第四惑星)が!!」

謎の天体は火星(第四惑星)をかすめた!
しかし、謎の天体は減速する事なく、更に惑星系内に侵入。

「あぁぁ!!」

――――――――――!――――――――――

 瞬く間に、第四惑星と第三惑星の間にあった黒い色をした未知の惑星と接触し、
一瞬にして蒸発した未知の惑星と天体は激しい光を放ちながらガスへと変化した。

しかし

――――――――――ゴォォォォォォォォォォォ!!!!

 進入してきた天体の勢いは衰えず、タービュランスを発生させながら、更に激しい光を放ち、その先の第三惑星へと向かって行く。

「まずい!!」

――――――――――――――――――――!

 謎の天体は、第三惑星をかすめ、周囲にガスと岩石を飛散させた。
 それでも謎の恒星間天体の勢いは止まらず、更に激しく発光しながら惑星内の中心にある恒星の引力圏に入ると、天体は大きく弧を描きながら、その引力に引かれ恒星へと向かって行き、

―――――――――――――――――――― …
 恒星は激しく巨大なフレアを発生させながら、天体を飲み込んでいった。
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