17.グール化したかかし娘を洗ってみる

文字数 1,746文字

 ノーム王の大迷宮を目指して、俺たちは黄色いレンガの道を、キッドに乗っかって順調に進んでいた。
 食料も酒も沢山積んできたし、ビビが毎晩旨い料理を作ってくれるので、ドラゴンと一緒にたき火を囲んで酒盛りをするのが日課となってしまった。
 クーガとフランカーとその部下達も参加して、一応、歩哨は交代で立てつつも、どんちゃん騒ぎである。
 たき火で焼いた熱々の赤身肉を細切りにして、それを穀物の粉で作った薄いパンに、タマネギ、ピーマン、香草と一緒に巻いて食べるトルティーヤ。
 川で釣った魚をフライパンで揚げ焼きにして、トマトとバジルのソースをかけた白身魚ポワレ。
 ピリ辛でニンニクと生姜の香りがたまらない、挽肉のたっぷり入ったチリビーンズ。
 どれも、ワインとビールが進む進む。
 そのおかげでドラゴンも最近、ご機嫌である。
 フランカー達もようやく宮仕えの呪縛から解き放たれたのか、なんだか自由な雰囲気になってきたね。
 そうそう、途中、綺麗な湖があったので、クーガを洗ってみることにした。
 なんせ、グール化しているものだから、腐った藁の臭いが車内に充満してしまいひどい臭いなのだ。
「くさいわ!!ボケッ!」
 俺は一方的に切れて、鬼滅な感じのくちかせを付けられたクーガを抱え上げると、湖に放り込み、ジャブジャブと洗ってやった。
 キッドに積まれていた洗車用の洗剤ぶっかけて泡立てると、出るわ出るわ。なんか、黒いタールのような液体で湖の水が染まっていく。
 一回、洗って干してみたのだが、臭いが取れないので、今度はフランカーに頼んで、近辺の農家から藁をもらってきてもらい、クーガの中身を詰め替えることにした。
 なんせ、かかし王の呪いのせいで藁人形になっているものだから、中身も藁なのだ。
 ビビが器用に縫い目をほどいてくれたので、腐った藁をすべてだしてしまい、布の部分をもう一度洗剤をつけて湖で丁寧に洗ってきた。
 そして、お日様の光を沢山浴びて、太陽の臭いのする藁を沢山詰め込んでやったのだ。
 頭には、かかし王の例にならって、飼料と針とピンを混ぜたものを詰め込んでやった。
 始めはグール的なうなり声を上げて暴れていたクーガだったが、藁を詰め替えて、ビビが丁寧に縫い合わせる頃には、すっかり大人しくなってしまった。
「あれ、死んじゃったかな?」
 流石に心配して見守っていると、突然、
「ギャアアアアア!す、スパイク!宇宙が、宇宙が落ちてくるよぉおおおっっっ!!」
「!?」
 強化人間的な感じで頭を抱えて叫びだした。
「私の記憶を!記憶を返してぇ!」
 フォー・ムラサメかよ。
 やべぇ、飼料と針とピンがまずかったかな。
 俺たちが慌てて取り押さえようとすると、するりと躱して、こちらに向き直った。
「うそだよー!スパイク!おかげですっかりいい気分なのだ!」
 晴れ晴れとした笑い声を上げた。
 大きなクリクリの眼に意思の光が宿っている。どうやらかかし状態にはもどったようだな。
 そして、クーガがなにやら呪文のようなものを唱えだした。
 完全復活されるとまずいな。
 しかし、しばらく呪文を唱えてみても何も起きなかった。
「さすがに魔法はまだ使えないのだ。かかし王の呪いは解けてないしな」
 独り言のようにつぶやく。
「スパイク、良くやってくれた。苦しゅうないぞ」
 以前のクーガにすっかり戻ったようだ。
 俺はつかつかと近づいていって思い切り頭をはたいた。
 そして、ピンクのツインテール顔を近づけてクンクンと臭いを嗅いでみる。
 グールの腐敗臭がすっかりとれて、洗車用洗剤の匂いがした。
「な、なにをするんだ」
 赤面して後ずさるクーガ。なに恥ずかしがってんだ?
「わ、わたしだって、魔力が戻れば、お前が、その、気を遣ってくれるくらいの女にはなれるんだぞ」
 わけの分からないことを言い出す。
 俺はもう一度頭をはたいてやった。
「まったく。昼飯にしようぜ」
 まあ、元に戻って良かったわ。
 俺は、クーガのツインテールのついたピンクの頭をゴシゴシとなでてやった。
「てへへー、まあ、よかったのだ」
 嬉しそうにしてクーガついてくる。
 ドラゴンが微妙な顔をしてあくびをした。
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