第2話 時の扉

エピソード文字数 2,731文字

疲れてたのかもしれねぇ。
スマホのキーを叩きながら、つい微睡んでいたようだ。

部屋の中で見慣れた景色が揺れる。
揺れて歪み色彩が変化している。

真っ白だった部屋の壁が血色に染まってる。真紅の部屋、粋だね。

キーを叩いていたスマホの画面がだんだん巨大化していく。灰色の画面に小さな灯りが点った。

真紅の部屋の中に巨大な画面。
画面の高さが2mほどになり、画面の中の光も画面いっぱいに広がった。

光の中から現れたのは木の扉だ。
何百年も経過した古いが頑丈な扉。
如何にもいわくありげな扉である。

おい、おい、まずいな。
こいつは、たぶん
あの時の扉じゃねぇか?

わかってるんだよ。俺には・・・・・

今の世界にゃさほど未練はねぇ。
時刻はたぶん魔の1分間だな。

この真っ赤な部屋は時空間の歪みによる混沌に違いねぇ。

ヤバイ、ヤバイぜ。
どっかの世界が俺を呼んでるのか。

この黴臭い扉を開けりゃあ、過去か未来の世界にひとっ跳びってわけだ。

行ってみるかい、跳んでみるかい。
招かれて怖じ気づくほどビビっちゃいねえ。

しかし、この扉を開けちまったら、2度とこの世界には戻ってこらねえかもしれねえな。

どうする? 風介。
跳ぶのか? 跳べねえのか?
おめえビビってるんじゃねえか?

左手に掴んでいた江戸切り子のバーボンを喉に一気に流し込む。

右手の人差し指と中指に挟んだノアールを口元に運び、右の口角で軽くくわえた。

空いた右手で木の扉の古く冷たい金属の取っ手を掴み、一気に扉を開き中を覗き込む。

明るさと暗さが点滅している。
空間が揺れている、蠢いている。
時間も空間も煙のように渦巻いている扉の先に1歩踏み出した。

身体が、心が、渦の中で木の葉のように舞い上がり急降下し、回転し翻弄される。目が回り吐瀉しそうな不快感に思わず目を閉じた。

ほんの数秒かもしねえし、もしかすると数分だったかもしれねえ。

柔道で投げ飛ばされたように、ドスンと腰からどこかに落ちた。

暗い、どこかの森の中みてえだな。
まずは、この時空間が未来なのか過去なのか確かめねえとな。

遠くに灯りが見える。
とりあえず灯りに向かって歩くことにした。

森を抜けて景色が広がっていた。
原っぱみてえな感じだな。

まるで天然記念物に指定されそうな木造のボロ屋が一軒建ってるぜ。

ちっ、まずいな。腹減ってきたぜ。
いつもなら夜中にカップラーメンでも食ってた時間かもしれねえ。

今は2時40分か・・・・・

ちょうど今日は腕に巻いてた時計がコルムのバブルっていうシリーズのモデルのジョリーロジャー。

俺がコレクしてる時計20個位の中でも一番気に入ってるヤツだ。

文字盤にでかいスカルマークが入っていてガラスがドームの様に半円球に飛び出している変わったモデル。

後はポケットにあるジッポのトルネードドラゴンとメンソールタバコのノアールぐらいしかさっきいた世界のものはねえな。

足は裸足。迷彩のハーフパンツに真っ赤なTシャツ。
ちっ、部屋にいたまんまの格好で別の世界に飛び込んだのか。

まあーしょうがねえか。
とりあえず一服してから動き出すとするか。

細身のタバコに火を贈り、ジッポをカチンと鳴らす。いつもと同じだ。
どんな世界かわからねえけれど、やっぱタバコは止められねえな。

空耳かな? 何か聞こえてくるぜ。
動物か、そうだ犬の声だ。

とりあえずこの世界には犬はいるらしいぜ。 できれば人間さまも居てほしいもんだぜ。

人間世界の過去や未来なら、なんとかなるが、恐竜や魔物の世界にでも迷い混んだらちょっとことだぜ。

くわえたタバコを地面に落とした。
裸足の足で火の点いたタバコを踏み消す。足の裏が焦げる臭いがした。

原っぱに一軒だけ建っているあばら家に向かう。強い風が吹けばぶっ飛びそうなオンボロな木造の家だ。

俺の時計では2時48分位を指しているが、この世界では何時なのかは検討もつかねえぜ。

暗い夜空には、月が浮かんでいる。

月や星は、時間を教えちゃくれねえが、たぶん深夜であることには間違いねえようだ。

あばら家の入口らしいボロの木戸の隙間から弱い明かりが漏れている。

「ぐぅるるるー」

闇に響く唸り声。木戸の向こうの大木の根本に紐で結ばれている黒い塊が低く唸った。

秋田犬ほどのデカさだろうか、いやもっとデカい。雲間から顔を出した月明かりの中で、犬が不審者を威嚇している。

ふふふふ、俺は不審者だからな。

紐で木の根本につながれていなければ、俺の喉元にかぶりついているところかもしれねえな。

犬がつながれてるってことは、人が住んでるってことだよな。まさか魔物や獣が犬を飼うってことはねえだろうからな。

近くに落ちていた一握りほどの太さの枝を掴んで犬に近づく。とりあえず枝を噛ませて、唸り声を止めなくちゃならねえからな。

こいつあ、可愛くねえな。鋭い歯を剥き出していやがる。

枝を差し出すと噛み砕かんばかりに食いついてきた。

枝の端を掴んで、ちょいと振るとデカい犬が遥か遠くにぶっ飛ぶ。

ありゃりゃ、どうしちゃった?
いつの間にかスーパーマンみてえに怪力になっちまったのかい。

犬が繋がれていた周囲がゆうに3m程ある大木の根元には、ちぎれた紐のみが残っていた。

ぶっとい幹を軽く殴った。バキャッという鈍い音と共に見事に折れている。

なんかわからねえがメチャクチャ怪力になっているようだ。

樹の横ある高さが2m程の大きな岩を試しに軽く押してみた。

おいおい、まるで張りぼてみたいに軽く動くぜ!

ここの世界はスーパーマンの世界なのかい。

確かに妙に体がふわふわ軽い。
重力がやたら小さいみてえだな。

軽くジャンプしてみた。
ヤバいぜ。まるでロケットみてえに高々と空に舞い上がった。

間違いねえ!この世界はスーパーマンの世界みてえだな。

100m 以上は飛び上がった空から、ひらりと地面に軽く着地した。

笑っちゃうぜ、まったく!
これじゃまさしくスーパーマン。
マンガの世界じゃねぇか。

思いっきり空に飛び上がったら、月まで行けそうな感じだぜ。

しかも高い空から飛び降りても全く足の痛みもねえな。なんか気のせいか身体中に力がみなぎってるぜ。

でもよお、この世界がどんな世界でどんな野郎が棲んでいるのか、

それにスーパーマンの力が俺だけなのか、それともみんながスーパーマンなのか。

まあ、あわてるこたぁねえな。
時の扉から飛び込んだこの世界。

これからわかるだろう・・・・・

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