刑務所

エピソード文字数 417文字

 ここは悪くはない。
 衣食住はすべて保証され、強盗や詐欺師もやってこない。事故の心配もなく、床屋や医者もそろっており、見栄を張って金を使わなくてすむ。おまけに冷暖房つきで、誕生日にはイチゴショートケーキ、お盆には特上のうな重、お正月には美味しいお雑煮まで振るまわれる。ラッシュアワーの苦しみもなく、交通事故にあう心配もなく、自爆テロの臨時ニュースを聞いてもへいちゃらな顔でいられる。たまにお笑い芸人やミュージシャンがここにやって来て、シャバとはひと味ちがう最高に面白いライブをやってくれる。猫なで声の女から「先生、たまにはいらしゃってよ」との電話もかかってこず、原稿締め切りの催促にも平然としていられる。ここで、執筆できたら、リチャード・マシスンの『激突!』とまでいかなくても、相当な傑作を書けるにちがいない。ここに入った当初は、気のあわない囚人たちや厳しい看守たち、そして番犬や金網や高い塀を憎んだものだが、ここは悪くはない。
 
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