第4話 足つぼアミューズメントパーク
文字数 1,792文字
晴れ渡る青空。天気記号で言えば〇。色で言えば空色。
こんないい天気なのに外に出なきゃ罪ってもんだ。
私はインドアなので、自身の身勝手な発言により罪を背負うことになった。何が起きるか予想のできない世の中だ。
重い腰を上げて足つぼアミューズメントパーク「フットポン」に松島と行くことにした。腰が上がってくれたのは晴天のせいだけじゃないだろう。
電車に揺られること40分。最寄り駅のフットポン前駅から歩くこと25分。「フットポン」の外観が見えてくる。ゆっくりと回る観覧車のようなものが見えた。ようなものと言ったのには意味がある。普通の観覧車はゴンドラが丸に近い形をしているが、ここの観覧車は縦に長い直方体で、風の影響を受けていてゆらゆらと揺れていた。遠目では回っているかも定かではない。観覧車にスリルは求めない派なので、私は冷めた目で見上げていた。
「お待たせ」
時間ぴったりに松島は小走りで入場ゲートにやってきた。
「本当に現地集合で良かったの?」
私たちは駅で集合することもできたはずだ。できたのにしなかったと言い張るのは言い訳みたいだが、事実そうなので仕方ない。
「みいこが現地集合って言ったんじゃん」
松島は足つぼアミューズメントに来るに相応しい服装をしていた。それがどんな服装なのかは皆さんの想像力が試される。逃げ? ふむふむ。これを逃げと捉える人もいるのか。
足つぼアミューズメントには全エリアに共通する一つルールがある。それは靴下を履くこと。こんな非日常の空間で考えたくないが水虫の問題があるからだ。その辺はしっかりしている。
入口に立っていた受付の方に靴下を履いているかチェックされて、オシャレを足先まで心がけなかったことを悔やんだ。点線に沿ってもぎり取られたチケットを見て、何かに似ているような気がしたが、現実での比喩癖をなくそうキャンペーン中の私は考える時間を話す時間で埋めようとした。
「乗りたいアトラクションある?」
松島はいつの間にか入手した園内マップを広げて腕を組んだ。
松島の腕が四本あるのか、松島に物体を宙に浮かせる能力があるのか、そこには言及しない。
「ううん、むずいな。名前からアトラクションがどんなものなのかが推測できない」
私も松島が見ているマップを覗き込む。ふりをして松島を見つめる。
「たしかにカタカナの名前多いから分かんないね」
「私を見ないでマップを見てもらっていい?」
「一生のお願い?」
「違う」
松島はサイドステップで私を避けた。その足さばきを見て、これならこの足つぼアミューズメントパーク内でやっていけると思った。そう私は彼女の健康状態に懸念があった。彼女は夜な夜な浴槽に水を溜めて、大量の砂糖を入れて、湯かき棒でグルグルグルグルグルグルかき混ぜてはやめ、やめてはかき混ぜる趣味があった。それを2時までやるらしい。開始時間は皆目分からないのだが。こうなると健康状態に問題がない方が心配だった。この話を問い詰めると、松島は自分の家に湯かき棒がないと主張して自身の潔白を訴えた。しかし、私の家にも祖父母の家にも湯かき棒がなく、銭湯でのバイト経験もない私が、湯かき棒という存在を知っているのは、松島から聞いたからとしか考えられない。そうでなければ、他に誰と湯かき棒の話になるというのだ。私には分からない。どういう話の流れを経れば湯かき棒の話を友人とできるのか。自分の所有する湯かき棒の形状についての美醜を語れるのか。教えてよ、ねえ、教えてよ。
そうだ、たしかこの話を初めてされた時に私は疑問が生まれて、松島に聞いたんだった。なぜ、湯かき棒を買おうと思ったのか。それを聞いた記憶が蘇ってきた。その答えの内容は覚えていないが、質問をしたのは確実だ。夢ではない。
「みいこはやりたいアトラクションあるんじゃないの?」
松島の声で我に返った。考える時間を減らそうとしていたのに、この体たらくだ。
哲学者も揃いも揃って言っていたではないか。今を生きろと。私は松島との今を楽しむために生きていることを忘れていた。
「大事なのは何のアトラクションに乗るかじゃなくて、誰と乗るかだから」
私は物語を閉じる締めの言葉を口にしたつもりだった。
「そんなこと分かってるよ。みいこと乗るならどれでも楽しいから、迷ってるんじゃん」
松島の突然の素直さにキュンです。
あー。ちょけちゃった。
こんないい天気なのに外に出なきゃ罪ってもんだ。
私はインドアなので、自身の身勝手な発言により罪を背負うことになった。何が起きるか予想のできない世の中だ。
重い腰を上げて足つぼアミューズメントパーク「フットポン」に松島と行くことにした。腰が上がってくれたのは晴天のせいだけじゃないだろう。
電車に揺られること40分。最寄り駅のフットポン前駅から歩くこと25分。「フットポン」の外観が見えてくる。ゆっくりと回る観覧車のようなものが見えた。ようなものと言ったのには意味がある。普通の観覧車はゴンドラが丸に近い形をしているが、ここの観覧車は縦に長い直方体で、風の影響を受けていてゆらゆらと揺れていた。遠目では回っているかも定かではない。観覧車にスリルは求めない派なので、私は冷めた目で見上げていた。
「お待たせ」
時間ぴったりに松島は小走りで入場ゲートにやってきた。
「本当に現地集合で良かったの?」
私たちは駅で集合することもできたはずだ。できたのにしなかったと言い張るのは言い訳みたいだが、事実そうなので仕方ない。
「みいこが現地集合って言ったんじゃん」
松島は足つぼアミューズメントに来るに相応しい服装をしていた。それがどんな服装なのかは皆さんの想像力が試される。逃げ? ふむふむ。これを逃げと捉える人もいるのか。
足つぼアミューズメントには全エリアに共通する一つルールがある。それは靴下を履くこと。こんな非日常の空間で考えたくないが水虫の問題があるからだ。その辺はしっかりしている。
入口に立っていた受付の方に靴下を履いているかチェックされて、オシャレを足先まで心がけなかったことを悔やんだ。点線に沿ってもぎり取られたチケットを見て、何かに似ているような気がしたが、現実での比喩癖をなくそうキャンペーン中の私は考える時間を話す時間で埋めようとした。
「乗りたいアトラクションある?」
松島はいつの間にか入手した園内マップを広げて腕を組んだ。
松島の腕が四本あるのか、松島に物体を宙に浮かせる能力があるのか、そこには言及しない。
「ううん、むずいな。名前からアトラクションがどんなものなのかが推測できない」
私も松島が見ているマップを覗き込む。ふりをして松島を見つめる。
「たしかにカタカナの名前多いから分かんないね」
「私を見ないでマップを見てもらっていい?」
「一生のお願い?」
「違う」
松島はサイドステップで私を避けた。その足さばきを見て、これならこの足つぼアミューズメントパーク内でやっていけると思った。そう私は彼女の健康状態に懸念があった。彼女は夜な夜な浴槽に水を溜めて、大量の砂糖を入れて、湯かき棒でグルグルグルグルグルグルかき混ぜてはやめ、やめてはかき混ぜる趣味があった。それを2時までやるらしい。開始時間は皆目分からないのだが。こうなると健康状態に問題がない方が心配だった。この話を問い詰めると、松島は自分の家に湯かき棒がないと主張して自身の潔白を訴えた。しかし、私の家にも祖父母の家にも湯かき棒がなく、銭湯でのバイト経験もない私が、湯かき棒という存在を知っているのは、松島から聞いたからとしか考えられない。そうでなければ、他に誰と湯かき棒の話になるというのだ。私には分からない。どういう話の流れを経れば湯かき棒の話を友人とできるのか。自分の所有する湯かき棒の形状についての美醜を語れるのか。教えてよ、ねえ、教えてよ。
そうだ、たしかこの話を初めてされた時に私は疑問が生まれて、松島に聞いたんだった。なぜ、湯かき棒を買おうと思ったのか。それを聞いた記憶が蘇ってきた。その答えの内容は覚えていないが、質問をしたのは確実だ。夢ではない。
「みいこはやりたいアトラクションあるんじゃないの?」
松島の声で我に返った。考える時間を減らそうとしていたのに、この体たらくだ。
哲学者も揃いも揃って言っていたではないか。今を生きろと。私は松島との今を楽しむために生きていることを忘れていた。
「大事なのは何のアトラクションに乗るかじゃなくて、誰と乗るかだから」
私は物語を閉じる締めの言葉を口にしたつもりだった。
「そんなこと分かってるよ。みいこと乗るならどれでも楽しいから、迷ってるんじゃん」
松島の突然の素直さにキュンです。
あー。ちょけちゃった。