2020年5月19日

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2020年5月19日
 この2010年代、日本の「右傾化」がメディア上で指摘されてきたが、実際にはパターナリズム化である。従来沈黙していた人たちが政治発言をすると始まるバッシングはそれをよく示している。『朝日新聞』が口を開いた有名人をめぐる痔記事を掲載している。2020年5月18日11時30分更新の有名人の政治発言、米国では普通 攻撃多い日本との違い」並びに2020年5月19日12時00分更新「『黙れブス』物言う女性に攻撃激化 罵声だらけのSNS」がそれだ。前者は竹花徹朗記者による町山智弘へのインタビュー、後者は伊藤恵里奈の署名記事である。

 検察庁法の改正を始め政治的・社会的問題に対する意見を主張したら、その有名人への罵詈雑言がSNS上で広がる。特に、女性に対して激しい。日本お有名人は、従来、そうした態度表明をしないことがほとんどだったが、パンデミック下で知れが変わりつつある。ところが、そのアンガージュマンを黙らせようとする動きがSNS上で始まる。他方、米国の有名人が政治発言をすることはよくある。もちろん、それに対する非難もあるが、支持の声も広がる。

 もっとも、アメリカでも1960年代に入るまでは有名人が政治発言をすることは稀である。エルヴィス・プレスリーは、異議を申し立てることなく、招集令状に従い入隊している。それが60年代に入ると変わる。公民権運動やベトナム反戦運動など少数派や若者を中心に社会的異議申し立ての声が大きなうねりになると、有名人もそれに加わる。モハメド・アリは入隊を拒否、刑務所に送られる。60年代以降、有名人は自身の活動が社会の中にあることを自覚、社会的責任を果たすための行動をとるようになっていく。

 日本の有名人が政治発言を避けてきたというのは正確ではない。パターナリズムの声高な主張をスポーツ紙などが好意的に取り上げることも少なくない。おまけに、所属事務所がその行為を必ずしも咎めない。そうしたタレントの名を何人も挙げることができる。自由主義的な政治発言を有名人が黙り、表明すると、バッシングが始る。

 特に、自由主義的な政治発言をする女性に対するバッシングが汚い。それはフェミニズムとパターナリズムを比べると、わかりやすくなる。

 フェミニズムは近代本流思想のリベラリズムの一種である。それは近代の最も基礎的な原理の公私分離を私の側から再検討する。家事や育児、介護などの分担は私的領域に属し、各家庭の選択に本来委ねられている。だが、実際には、そうした私的領域に公的な関係や構造が影響を及ぼしている。近代の原則を実現するために、社会的認識を改め、権利を保障するための法制度を制定する必要がある。

 一方、家父長主義とも訳されるパターナリズムは関係を上下で認知し、下の同意を得ぬまま相手の利益になるとして上が干渉する思想である。上は下に対して裁量権を持っている。それを下のために行使しているのだから、上は尊敬されねばならない。温情主義やおまかせ主義であり、自由で平等、自立した個人という近代の原則を許容しない。当然、公私分離も守らない。近代の原理を足場にしていないので、その主張はしばしば合理性を欠く。だから、批判に対しては往々にして感情的な罵詈雑言しか口にできない。

 政治発言を避けることはリベラリズムを抑圧、パターナリズムを増長させるという政治性がある。それは政治的中立ではなく、反近代的政治への退行にすぎない。

 ネット上の誹謗中傷は日本だけでなく、「『黙れブス』物言う女性に攻撃激化 罵声だらけのSNS」が述べる通り、世界的な問題である。だからこそ、リベラリズムに対するパターナリズムから捉える必要もある。

 こう考えてくると、世界的に女性首脳の国や地域がパンデミック対応に比較的成功している理由も理解できる。

 沢田千秋記者は、『東京新聞』2020年5月9日更新「<新型コロナ>女性首脳、際立つ存在感 台湾、NZ、ノルウェー…封鎖、検査を徹底」において、女性首脳の活躍について次のように伝えている。

 テレグラフによると、女性首脳の国では、百万人当たりの死者数が少なく、積極的に検査することで陽性者一人当たりの検査数が多い傾向にあった。なかでも台湾とアイスランドの死者はいずれも十人以下、ドイツは同規模の感染者数がいる欧州諸国と比べ死者数は四分の一程度にとどまる。
 英メディアが「最も成功した首脳」と評するのは台湾の蔡英文(さいえいぶん)総統だ。新型コロナが「世界を破壊し、健康と経済に危害を加えている」と強い態度で臨み、素早い対応と情報公開を徹底させた。アイスランドのヤコブスドッティル首相は、症状がない人にも無料でウイルス検査を実施した。
 ニュージーランドのアーダン首相は、真摯(しんし)な語り口が国民に弱者を思いやる精神を植え付けたと評判。「多くの人が直面する困難を痛感する」と、いち早く自らと閣僚の報酬を半年にわたり二割カットに踏み切った。三十四歳で最年少の現職首相となったフィンランドのマリン氏も会見を続ける姿が好感を呼んだ。
 一方、ノルウェーのソールバルグ首相は子ども専用会見を開き、友達とハグができないつらさを共有。デンマークのフレデリクセン首相が、自宅で皿洗いしながら往年のヒット曲を歌った動画や、科学者であるドイツのメルケル首相が、冷静に封鎖理由と出口戦略を説明する動画は、国民の間で人気を博した。
 テレグラフは「経済への打撃を承知で迅速に封鎖できるかが命運を分けた」として「女性首脳は普段から批判に慣れ、直面した時の対応力があった」と分析。英紙ガーディアンは「そもそも女性首脳は、政府への信頼が厚く、男女の格差が少ない国で生まれがち」として、厳しい封鎖に対しても国民の理解を得やすい素地があったと指摘した。
 英クランフィールド大のディアドリ・アンダーソン上級講師(組織心理学)は「男性なら主張が強いと評価される態度が、女性なら攻撃的と批判される。女性はより振る舞いに注意する必要があり、そこから多くを学んできた」と分析。「コロナ対策での活躍は、普段からリスク回避のため男性よりも客観的データに基づく決断を重視してきた成果だ」と話している。

 これらの国・地域は人間開発指数や民主主義指数などで従来より世界的に概して高く、リベラルデモクラシーが進展していることで知られている。そうした政治文化が女性首脳を生み出している。それは、素早く情報を公開、市民からの信頼を元にコンセンサスを形成して政策を実施していくことを重視する。こうした自由主義的民主主義の姿勢で女性首脳はパンデミック対応に臨み、成果を上げている。逆に、往々にして非自由主義的男性首脳が対策に失敗、感染拡大を招いている。パターナリズムはウイルスに効かない。

 もちろ、そうした国・地域にもパターナリズムによる女性への非難はある。ただ、そういった環境の中で活動してきたので、彼女たちは男性首脳よりも精神的にタフ、でコミュニケーション力も高い。他方、パターナリズムが強いところでは、成功するために女性もその虚偽意識にとらわれることが少なくない。これではタフで教官能力のある女性首脳が育たない。

 夕食には、ハンバーグビーフカレー、ゆで卵、野菜サラダ、ワカメのナムル、セロリとパプリカのピクルス、食後は玄米茶。屋内ウォーキング10157歩。都内の新規陽性者数は5人。

参照文献
沢田千秋、「<新型コロナ>女性首脳、際立つ存在感 台湾、NZ、ノルウェー…封鎖、検査を徹底」、『東京新聞』、2020年5月9日更新
https://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/202005/CK2020050902100016.html
「有名人の政治発言、米国では普通 攻撃多い日本との違い」、『朝日新聞』、2020年5月18日 11時30分更新
https://www.asahi.com/articles/ASN5K7GC1N5KUHBI025.html
伊藤恵里奈、「『黙れブス』物言う女性に攻撃激化 罵声だらけのSNS」、『朝日新聞』、2020年5月19日12時00分更新
https://www.asahi.com/articles/ASN5M351PN5JUTIL01C.html

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