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文字数 2,617文字
そこには白髪のイケメン――同居人の一人、アルカード卿(通称アルさん)の顔があった。事態を飲み込んだ俺は、枕元に置いてあったスマホで時間を確認した。
時刻は十一時三分。ああ、そりゃアルさんが起こしに来る訳だ。久々の朝寝坊だもんな。……と、ぼんやり考えている俺の額に指を押し当て、アルさんは言った。
アルさんはブチブチ言いながら、ベッド脇の小机に置いてあった包帯を俺に手渡してきた。
アルさんとはもういい加減長い付き合いなので流石に慣れたが、いやはやそれにしてもお節介なことオカンのごとしである。……いや、アルさん男だし、俺には母親いないし、実際のオカンがどうなんだかよく分からないけど。
顔を上げると、アルさんの姿はもう無かった。階下から、他の同居人を呼ぶアルさんの声がする。やれやれ、家の中なのに随分忙しい人だ。フルタイムの仕事って大変なんだろうな、と思う。
全身の包帯を巻きなおし、服を着直して自室の戸を開けると、
さっきの「鬼」の紅葉ちゃんもそうだが、ここの住人はみな人間じゃない。
俺を起こしに来たアルさんは「吸血鬼」だし、この俺は「ミイラ男」。ほかのみんなも人間じゃない。
……で、結局ここが何かっつーと――まあ、行き場を無くした怪物たちを支援する、ある種の福祉施設みたいなものだと思ってもらえればいい。たぶんこの説明がいちばん正解に近いと思う。
アルさんが一緒になって何やら箱をいじっている。
やれやれとは思ったけど、まあ二人とも楽しそうだからいいのかな。
それにしても、……
流石に、寝起きにこのテンションはちょっとキツい。
騒ぐ二人をよそに、俺は冷蔵庫の中を探った。
今日のおやつは……あった。ややお高めなピーチゼリーだ。朝飯としては心許ないが、もうすぐ昼飯だと思えば我慢できる。
顔を上げると、相変わらずアルさんとロカちゃんが何やら騒いでいた。ルールブックを見て、なるほどーとかそういうことかーとか何とか、いちいち歓声をあげている。……アンタら歳いくつだっての。
でも、やっぱり楽しそうにしている様子ってのは気になるもので、俺はピーチゼリーを食べながらまた二人に近づいた。
なるほど、どうもすごろくのようなものらしい。
アルさんとロカちゃんはきゃいきゃい騒ぎながら遊び始めた。マジで歳いくつだ、コイツら。子供か。
しかし俺は、なんだか……なんだか妙な感覚に陥った。
何か、モヤモヤする? というか、何というか……何か、何かが引っかかるのだ。喉に魚の小骨が引っかかったような、すっきりしない感覚。これは――
俺は頭が追い付いていなくて、つい眉間に皺を寄せてしまった。
少し、当惑していた。
どうして俺は、この『セネト』とかいうゲームのルールを知って……いや、
“覚えて”いたんだろう。