第70話  夜の訪問 3

エピソード文字数 3,836文字

楓蓮。どうしたの? ちょっと……
 しばらくして聖奈が異変に気が付いたのか、必死に何かを訴えているが、その内容までも把握できなくなってくる。

しっかりしなさいっ! 楓蓮! 

 そう言ってるのが分かると、俺はしきりに「入れ替わる」と繰り返した。意味が通じているのかどうか分からないが、もう限界だ。頭痛だけじゃなく、全ての機能が著しく低下するんだよ。



 俺は目を閉じてリラックスすると、徐々に頭痛は和らぎ、意識がハッキリしてくると、身体が男へと変化しているのが分かる。

蓮……大丈夫なの? 返事してよ!

 ちょとまてよ。そんな大声出すなって。


 リミットギリギリで入れ替わった場合、身体が動くようになるまで暫くかかるんだ。

 意識はあるが身体も口も動かない。



 ああっ。ちょっと待てって。顔に抱きつくなよ。

 触られているっていう感覚はあるんだから。

聖奈。ちょっと離れてくれ。もう大丈夫だ

 顔に密着したお前の胸で窒息しそうだったぞ。


 ようやく目を開けて、ゆっくりと座りなおすと、そこにはめちゃくちゃ心配してそうな聖奈の顔があった。

もう……大丈夫なの?
ああ、平気だ。ったく入れ替わった瞬間から元気になるんだから。詐欺みたいな身体なんだよ

 入れ替わり体質の弱点とも言えるリミット限界。こうなっちまえば俺達は何もする事が出来ない。


 この前、華凛が保健室に行った時も、こんな感じだった。


 だから俺達は入れ替わる瞬間なんて、外部の人間には絶対見られてはいけないんだ。 

これが無ければな。本当に凄い能力だとは思うんだけど
おいおい聖奈よ。そんなしょぼくれた顔すんなよ。
すまんな。化粧出来なくなっちまった

 そう言うと「男でも出来るわよ」とか言い出すので、俺は丁重に「マジでごめんなさい」と謝るのだった。


 お前の場合だけは心配してそうな顔よりも、そっちの意地悪顔の方がやりやすい。

ねぇ。入れ替わっている間って、何も出来ないの?

入れ替わったタイミングにもよるけどな。

普段だったらもっと早いけど、十秒くらいは完全に何も出来ん

何も抵抗出来ないって訳ね?

 ああ、そうだなと言う前に、やたらニヤニヤする聖奈の顔に少しながら恐怖しつつ、うんと頷く。


 何となくこいつの考えてる事が読めてくると、こちらからあっさり暴露する。

つまりお前が好き放題しても、俺はただ寝てるだけだ。

だからさ……昔のお前も入れ替わる瞬間は、大好きだったみたいだぞ

うん。その気持ちすっごい分かるわっ
そりゃそうだろ。同じ人間だからな。
で、どんな事されてたのよ?

あ~そりゃ色々だな。

服を引っぺがされたり、顔を落書きされたり、ロクなこと無かったぜ

ふ~ん。そのくらいは想像出来るけど……その程度?
いやいや待てよ。十分極悪だろ?

本当はもっとエグかったけどな。

エグいというか、とてもじゃないが聖奈には言えない事があるんだよ

ん? 今あんた。何か思い出したでしょう?

他に何かあるんじゃないの?

ちょ! な、何もないって!

 何で分かったんだよ。

 俺の何処からそんな情報を入手したってんだマジで!

何よ。ちゃんと教えなさいよ。

それともまだ何か言ってない事があるんじゃないの?

あ、いや……これわ。

な、何もないって。ホントだ。

これは? って何よっ! 言いなさいっ!

 必死にいい訳を考えようとしたが、目の前に見える聖奈のジトっとした目に捕まると、俺は震え上がってしまった。

ちょ! こらっ!

 やはり、こいつに色々とされてたのは身体が覚えているらしい……ってこら! やめろ! 引っ付いてくるな! 

ちょ。待てって! おまっ

おい! 今の俺は男だぞっ!

言いなさいよ。ちゃんと正直に喋りなさい

 き、聞いてねーー!


 聖奈のドアップ顔に、黒目が無くなりそうなほどブルった俺はまず「怒るなよ。本当の話なんだから」と震え声を出していた。

早くいいなさい。怒らないから

 ようやく離れた聖奈だったが、すげー威圧的な顔をぶつけてくる。


 観念した俺は、こいつの顔を見ずに、こう言った。

先に断っておきますが、お前もそれなりのダメージを受けます。

それでもいいですか?

ふふっ。何よそれ。いいから教えてよ。

どんなことでも良いって、前に言ったでしょ?

 分かった。それなりの覚悟があるなら、言ってやる。
入れ替わってる間、ほぼ毎回。お前にキスされてました

 今度は聖奈がアホ口を開ける番になっていた。

 どうやら今のこいつには予想しえなかった展開らしい。

ぐっ……
うわっ。怒ってるのか、悔しがっているのか分からんが、とにかく恐ろしい顔が、引きつってるようにも見える。

も、もう忘れよう。それに小学生に上がる前の話だし。そんな怒らないでくれ。


そ、それに、キスしてんのは、俺が男から女になる時だけだし……

 ちょっとでも怒りを鎮めてもらいたいので、俺なりにフォローを入れる。いれまくる。
それにさ、お前に言ってなかったんだよ。入れ替わってる間も意識があるって。
何で教えてくれなかったのよ!

ちがうんだっ!

だってあの頃の聖奈に……そんな事喋ってみろよ。絶対怒るだろ?


だから俺は、ずっと言い出せなかったんだ。

……じゃあ。その頃の私って、意識があるとは知らずにあんたにキスしまくったわけ?

言おうとしたんだけどな……

だけど絶対ボコボコにされると思って、言いだせなくて。すまん。

 ちっちゃい頃の俺はマジで弱かったからな。

 今の俺から想像出来ないチキンぶりだった。


 そこまで言うと、聖奈はそれ以上何も言わず、怒りの表情は消えたと思えば急に表情が暗くなった。

蓮。前にも言ったじゃない。あんたが知ってる事は教えて欲しいって。


それがどんな思い出でもいいって。言ったのに

聖奈……
あんただけ。知ってるのはずるい
……ごめん

 正直な気持ちが勝手に出ていた。


 聖奈からすれば、俺に言った通り、どんな事でもいいから教えて欲しかったのだ。それが例えトラウマ級の出来事だったとしても、知っておきたかったのだろう。



 何だか悪いことをしてしまった。そう感傷的な気持ちに浸っていると、むすっとした顔になっちまった聖奈はこんな事を言うのだ。

じゃあ、あんたとやってた遊びでも教えなさいよ
ええっ?

平八が「何とかごっこ」って言ってたでしょ?

あれを実際やってみようじゃないの

ちょっと。ダメだって! あんなもん出来るわけねーだろ!

 慌てて制止するも、聖奈のキレ顔を見るなりこりゃ無理だと思った。

 だが俺は必死にいい訳をするのだった。

だからなんなのよ! やるって言ったらやるのよ
お前は恥ずかしくねぇのか!

 そう叫んだ瞬間、無意識に聖奈の身体が目に入ってくる。それはもう昔と違った、一人の女性としての身体つきをしており、とても悩めかしいものであった。


 プロレスごっこ。裸プロレスごっこ。

 寝取られ奥さんごっこ。雪山登山遭難ごっこ。


 このメインの四つは軽く十八禁になっちまう!

今更恥ずかしくないわ。それよりも知っておきたいのよ

 そう零した聖奈は、一瞬だけ表情を変えた。

 

 いつもの自信満々なニヤけ顔は観測されず、眉尻をさげ、少しばかり顔を赤らめた。そんな気がした。



 そんな意味不明な顔は0、3秒程で消えると、今度は昔見た聖奈とそっくりな顔へと変貌すると、俺を指差して叫ぶのだった。

ちゃんと全部話すって言ったのに、約束を破ったらこうなるのよっ!

 あぁダメだ、このパターン。


 昔に散々植えつけられたトラウマは、未だに残ってるらしく、俺がどれだけ強くなったとしても、心底恐怖を感じるのであった。



 だが……ここで状況は一気に急変する。


 怒りを露にした聖奈がハっと何かに気づくと、振り上げた拳を納め、座りなおしたのだ。

 意味がわからない俺は、聖奈が口を開くのをずっと待っていると、

ごめん。その顔見てると……小さい頃の私って相当怖かったのね
あ、ああっ……それはその……わりと

都合が良いって思われるかもしれないけど、本当に覚えてない。

だけど、あんたにトラウマを作ったのはやっぱり本当だったのかなって今思った。


ごめんね。もう昔みたいに虐めたりしないから

 うっ。うぉ~~~! 聖奈!



 お前やっぱり変わっちまったんだな。さっきまで死を覚悟した俺が馬鹿みたいだぜ。 

 本当にこいつは「綺麗すぎる聖奈」へとクラスチェンジしていたとは。

ありがと。そー言ってくれると助かる。
 などとクールに受け答えする俺であった。
で。どーする? もう遅いし横になる?

そうだな。結構遅いし、寝よっか。


じゃあお前はこの部屋で寝ろよ。俺は華凛の部屋で寝るから

なんで? 一緒に寝ないの?

ほわっ? いやいやいや……どうしてそうなるの?

楓蓮ならまだしも。今は男なんですけど

え? あんた私に気使ってるの?

そんなの気にしないわよ。別に一緒に寝るくらいいいじゃない

いや、よくねーだろ。

男と女だぞ。それはもう一緒に寝れないだろ?

蓮は楓蓮でもあるんだから、私は平気よ。

それよりも、そんなに私の事意識してるの?

そりゃ意識するだろ?
ふ~ん。

 え? ふ~んで終わり? なにその薄っすいリアクションは。



 そして聖奈は立ち上がると、勝手に俺のベッドに乗っかって寝転びやがった。

華凛ちゃんが言ってたわ。

あんたと一緒に寝ると、凄く気持ちよく寝れるらしいわね。


だから早く来なさいよ。

 おかしい。 

 さっき「綺麗すぎる聖奈」だと思ったが、気のせいだったようだ。

 

 ってか。本当に一緒に寝るの? そんなの寝れるわけねーだろ!

――――――――――――――――


次回 美神聖奈視点 一番大事なこと 1

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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