4 ドライブデート
文字数 1,534文字
「あのままつきあっていたら、奏斗は何処へ連れて行ってくれる予定だったの?」
二人が紡いだ時間はそんなに多いとは言えなかった。
高校を卒業し大学生になって、たくさんの時間を共有するという未来。
未来には何の約束も保証もないものなのだなと思った。
「愛美は何処に行きたかった?」
優しい奏斗のことだ、行き先なんて愛美に合わせるつもりだったのだろう。
「わたしは奏斗と一緒だったら、何処でも良かったわ」
そうなのか? というように、彼かチラリとこちらに視線を向けた。
運転中は危ないわよ、と愛美が注意をすると苦笑いを浮かべる彼。
もっと早く再会していたなら、こんな風に一緒にいられただろうか?
大川結菜よりも先に出逢っていたならば。
「でも温泉旅行は行きたいな。ねえ、今度行こうよ奏斗」
「え?」
恋人のいる相手を泊りがけで誘うのは常識的に考えてオカシイことくらい、わかってはいる。彼だって『YES』とは言わないだろう。
しかしそれをYESと言わせるのが腕の見せ所と言うヤツだ。
「卒業旅行。行けなかったし、それくらいなら良いでしょう? 約束」
愛美にとってそれは『特別な約束』だった。
奏斗に初めてを捧げる覚悟を決めた特別な旅行。なんとか言いくるめて実行に移したいところだ。
奏斗は自分に対し弱みがある。
だからこんな風に誘われればOKをするのだろう。そして、性的な奉仕を拒まないのだろうとも思う。
もしかしたら何か算段があってそうしているのかもしれない。
だがそうであるならば、それを利用するまで。
──二度と奏斗を手放したりなんてしない。
取り返す、必ず。
過去の愛に執着しているだけなのだと言われたら、その通りなのかもしれない。だから否定はしない。
けれどもこれだけは言える。
奏斗が好きな気持ちは変わらない。
寸分たりともあの頃と変わらないし、むしろもっと好きだと言える。
──奏斗が拒まない理由が好意だと信じたいの。
欲情に濡れた瞳で自分を見つめる彼が愛しい。
それでも理性を手放さない彼が。
いつかその理性を崩壊させたい。
「卒業旅行か……」
信号で停車させた奏斗はハンドルに覆いかぶさると、ぼんやりと前を見つめて呟くように零す。
「うん。楽しみにしてたんだよ?」
極めて明るくそういうと、彼は何故か優しい目をしてこちらを見た。
まるで昔に戻った錯覚に陥り、愛美の思考は停止する。
奏斗はいつだってどこか大人の雰囲気を纏っていた。
大笑いするような性格ではなく、どちらかというと静かに笑みを浮かべる様なタイプ。見た目とのギャップに夢中になったのは自分の方。
それでいていつも妹に振り回されている。
そんな奏斗だったから大好きだったのだ。
ぽんっと唐突に頭に乗せられた彼の大きな手。
「行こうか、卒業旅行」
まるで子ども扱いするかのような、その仕草。
「いいの?」
予想外過ぎて愛美は戸惑った。
「約束したし。楽しみにしてたんだろ?」
奏斗は再びハンドルに手を戻ると、アクセルを踏み込む。
「うん、してた」
愛美の言葉にフッと笑う彼。
「でも、泊りがけだよ?」
「ああ」
「後でやっぱり無しとか言わない?」
「言わない」
彼が何を考えているのか分からない。
でも、約束を取り付けた。そのことが愛美を強くする。
「襲うかもしれないよ?」
「……ッ」
そこで奏斗は吹いた。
「あ、まあ。覚悟はしとくよ」
「何笑ってるの?」
奏斗は口に拳をあて、笑っている。
「いや、普通そういうこと言わなくね? と、思って」
どんな心境の変化があったのか分からないが、彼の言葉からは『一線を越える覚悟はある』と受け取れた。
それならこちらに分がある。愛美は一旦深く考えることを放棄し、ドライブデートを楽しむことにしたのだった。
二人が紡いだ時間はそんなに多いとは言えなかった。
高校を卒業し大学生になって、たくさんの時間を共有するという未来。
未来には何の約束も保証もないものなのだなと思った。
「愛美は何処に行きたかった?」
優しい奏斗のことだ、行き先なんて愛美に合わせるつもりだったのだろう。
「わたしは奏斗と一緒だったら、何処でも良かったわ」
そうなのか? というように、彼かチラリとこちらに視線を向けた。
運転中は危ないわよ、と愛美が注意をすると苦笑いを浮かべる彼。
もっと早く再会していたなら、こんな風に一緒にいられただろうか?
大川結菜よりも先に出逢っていたならば。
「でも温泉旅行は行きたいな。ねえ、今度行こうよ奏斗」
「え?」
恋人のいる相手を泊りがけで誘うのは常識的に考えてオカシイことくらい、わかってはいる。彼だって『YES』とは言わないだろう。
しかしそれをYESと言わせるのが腕の見せ所と言うヤツだ。
「卒業旅行。行けなかったし、それくらいなら良いでしょう? 約束」
愛美にとってそれは『特別な約束』だった。
奏斗に初めてを捧げる覚悟を決めた特別な旅行。なんとか言いくるめて実行に移したいところだ。
奏斗は自分に対し弱みがある。
だからこんな風に誘われればOKをするのだろう。そして、性的な奉仕を拒まないのだろうとも思う。
もしかしたら何か算段があってそうしているのかもしれない。
だがそうであるならば、それを利用するまで。
──二度と奏斗を手放したりなんてしない。
取り返す、必ず。
過去の愛に執着しているだけなのだと言われたら、その通りなのかもしれない。だから否定はしない。
けれどもこれだけは言える。
奏斗が好きな気持ちは変わらない。
寸分たりともあの頃と変わらないし、むしろもっと好きだと言える。
──奏斗が拒まない理由が好意だと信じたいの。
欲情に濡れた瞳で自分を見つめる彼が愛しい。
それでも理性を手放さない彼が。
いつかその理性を崩壊させたい。
「卒業旅行か……」
信号で停車させた奏斗はハンドルに覆いかぶさると、ぼんやりと前を見つめて呟くように零す。
「うん。楽しみにしてたんだよ?」
極めて明るくそういうと、彼は何故か優しい目をしてこちらを見た。
まるで昔に戻った錯覚に陥り、愛美の思考は停止する。
奏斗はいつだってどこか大人の雰囲気を纏っていた。
大笑いするような性格ではなく、どちらかというと静かに笑みを浮かべる様なタイプ。見た目とのギャップに夢中になったのは自分の方。
それでいていつも妹に振り回されている。
そんな奏斗だったから大好きだったのだ。
ぽんっと唐突に頭に乗せられた彼の大きな手。
「行こうか、卒業旅行」
まるで子ども扱いするかのような、その仕草。
「いいの?」
予想外過ぎて愛美は戸惑った。
「約束したし。楽しみにしてたんだろ?」
奏斗は再びハンドルに手を戻ると、アクセルを踏み込む。
「うん、してた」
愛美の言葉にフッと笑う彼。
「でも、泊りがけだよ?」
「ああ」
「後でやっぱり無しとか言わない?」
「言わない」
彼が何を考えているのか分からない。
でも、約束を取り付けた。そのことが愛美を強くする。
「襲うかもしれないよ?」
「……ッ」
そこで奏斗は吹いた。
「あ、まあ。覚悟はしとくよ」
「何笑ってるの?」
奏斗は口に拳をあて、笑っている。
「いや、普通そういうこと言わなくね? と、思って」
どんな心境の変化があったのか分からないが、彼の言葉からは『一線を越える覚悟はある』と受け取れた。
それならこちらに分がある。愛美は一旦深く考えることを放棄し、ドライブデートを楽しむことにしたのだった。
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