夫の思い

文字数 609文字

この度は、誠に残念です。
いえ、先生……大変お世話になりました。

進一さん、ミナから手紙を預かっているわ。


……読んでもいいかしら?

手紙……ですか?
ミナさんは……数日前の昏睡状態になる前日に、お姉さんに代筆をお願いしていらしたんです。

ミナは、自分の腕が動かなくなってから、やっぱりどうしても進一さんに伝えたいことがあるって思ったそうなの。

だから、これは私がミナの代わりに書いた手紙なんだけど……。

ミナが俺に、どうしても伝えたかったこと……ですか。
読むわね。

進一さんへ


まさか結婚して五年足らずで、病気になり、進一さんより先に旅立つとは思っていませんでした。

男やもめに蛆がわき女やもめに花が咲くと言いますが、進一さんは大丈夫ですね。

私、長く入院してしまったから、私がいなくなっても困ることは少ないでしょう。


進一さんは、私ともっと一緒にいたかったと思ってくれていますか?

私はもっと、進一さんと笑い合う毎日を過ごしたかった。

妻として、もっと側にいたかった。


でも、これからは。

天国で進一さんのことを見守っています。

いつでも会えると思えば、これからが楽しみだとも思えそうです。


これからも元気に過ごして下さい。

それだけが、私の願いです。


ミナ

……。

ミナ……。

そんな風に思っていたなんて……。

もっと、一緒にいてやればよかった……。



……すみません、ふたりきりにしてもらえますか。

ええ、そうね。

失礼するわ。

ゆっくりミナと話してあげて。

失礼します。
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登場人物紹介

ミナ


病で入院中。

入院前、夫にDVをされた日々を思い出す。

姉に夫にあてた最後の手紙の代筆を依頼する。

姉/お姉さん/お姉ちゃん


ミナの姉。

妹が昔から大好き。

先生


ミナの主治医。

進一


ミナの夫。

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