第3話

文字数 705文字

それにしても、頭がぼんやりする。

どうもおかしい。



彼がかつてのライバルだという記憶はあるのだが、本当にそうだという実感がわいてこない。

本当にこいつは友人なのだろうか。

いや、むしろ、私は本当に、この男の友人なのだろうか。

「おまえ、大丈夫か。ぼーっとしているぞ。まだ、体調は万全じゃないのか」

体調?

私は、具合が悪いのか。とくに体の調子が悪いような気はしないのだが。

ただ、頭にもやがかかっているような感じだ。このぼんやりとする感覚が、どこか体の調子が悪いということなのだろうか。

「おまえは、おれのことを田舎でくすぶってるばかなやつだと思っているだろう。全くそのとおりだが、ばかみたいな人生もなかなかいいぞ。じゃあ、おれはそろそろ帰らないと」

そう笑いながら、友人は帰って行った。

喫茶店を出ると、あたりはすでに暗くなっていた。

「あいつ、なんだか生き生きしていたな」

前はあんなににこやかなやつではなかったような気がする。

とはいえ、どんなやつだったのかはっきりと思い出せない。昔から知っているはずなのに、はじめて会ったような気がする。

友人という情報だけを持っているような無機質な感覚。

自分の感覚に違和感を覚えながら、うす暗い道にはいる。

ふと、ベッドの下に落ちていた不吉な紙きれのことを思い出した。

「おまえをころす、か。やれるものならやってみろ」

そのときだ。



シュッ 。

突然、暗闇から何かがとびかかってきた。

私はとっさに身をよけた。

その何かは、私の肩をかすめて、地面にべちゃりと落ちた。

怖くなり、かけあしで部屋にもどる。

「なんだったんだ、今のは」

部屋に着いてジャケットをぬぐと、手にぬめっとしたものが触れた。

「なんだこれは……」




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