水火風龍剣

文字数 2,669文字

「メガネ君、これを受け取って!」

 天龍の甲板に現れた雛御前が紅い剣を投げた。
 今日の出で立ちは(きら)びやかなミニスカ十二単衣(じゅうにひとえ)である。
 安部清明の式神だけあって、自分の身長の倍ほどあろうかというボトムストライカー用の剣も軽々と扱っている。何か陰陽道の術を使ってるのだろう。

 メガネはブーメランのように飛来する剣をボトムストライカーの左手で受け取った。

「火龍剣です。清明さまからの贈り物ですよ。それを使って倒しちゃってください」

 と気軽に言い放つ雛御前である。
 とりあえずやってみるか!と開き直るメガネである。

「火龍剣!」

 水龍剣を背中の鞘に仕舞い、右手に火龍剣を構えて炎を放つ。
 当然ながら、瞬時とはいかないが、じわじわと炎龍が氷結していく。

「ダメじゃん!」

 黄金色の狼男姿の≪犬神(いぬがみ)≫が突っ込みを入れる。

「こりゃ、あかんわー」

 ニセ関西弁で嘆くのは猫娘姿の使い魔である≪猫鬼(びょうき)≫である。
 黒いおかっぱ頭に可愛らしい小さな(ツノ)が生えている。

「やっぱり、ダメだったかな」

 雛御前は黄金色の瞳を細めて残念そうな表情である。

「わかっとったら、渡すな! 何か他のものはないのか?」

 メガネは完全に雛御前の宝貝(パオペイ)、秘密兵器頼りになっている。

「では、仕方ないわね。さあ、風龍剣よ、受け取って!」

 メガネは風龍剣を左手で受け取ったが、右手の火龍剣が邪魔である。

「それ、合体機能があるから、水龍剣と一緒にまとめちゃって」

 雛御前が解説する。
 メガネが火龍剣と風龍剣を重ね合わせると、ゆっくりと融合していく。
 それと背中の水龍剣をまた融合させるとひとつの剣となった。

「三龍剣と呼べばいいよ。風龍剣を使いたい時は<風龍剣>と叫べば機能が切り替わります」

「なかなか便利だな」

 メガネは三龍剣を構える。

「風龍剣!」

 と叫ぶと風龍が現れて、魔導師レッセ・テスラに襲い掛かる。 
 さすがに、風龍を凍らせるのは不可能らしく、レッセ・テスラは空を滑るように遠くに逃げ去る。

「うわぁ!」
 
 メガネが悲鳴を上げる。
 レッセ・テスラの放った氷龍がメガネのボトムストライカーに巻きついて締め上げていた。

「メガネ、大丈夫か?」

 信長がひとごとのように訊いてくる。
 まあ、他人事だが。

「大丈夫ではないです。機体が凍り始めてます」

「困ったわね。さて、どうしたものか」

 雛御前は腕組みして考えている。

「早くしてください! や、ば、い、で、す」

 マイナス10℃。
 メガネは下がり続けるコクピット内温度に思考さえも(こご)えはじめてるようだった。

「仕方ないか、火炎陣!」

 雛御前が白羽扇(びゃくうせん)を一振りすると、火炎がレッセ・テスラの氷龍を焼き払う。
 氷龍が一瞬で消滅した。

「清明様からメガネ君を鍛える言われてたのに、困ったものね」

 雛御前は小声で愚痴ったが、幸い、メガネ君には聴こえてないようだった。
 
「助かりました」

 メガネは虫の息である。

「やれそうか、メガネ?」

 信長が訊いてくる。

「大丈夫です。やります」

 何の根拠もないが、気合で言ってみる。

「では、任せる」

 信長は言い切った。

「さて、どうしたものか」

 とは言ったものの何の策も思い浮かんでいなかった。
 メガネは思考を組み立て始める。
 水龍、火龍剣は効かないし、風龍剣は通用するが破壊力はないし。
 中途半端だな。
 いや、使い道はある。
 上手く組み合わせれば。
 
「水龍剣! 火龍剣!」

 メガネは水龍と火龍を同時召喚してレッセ・テスラに叩きつける。
 が、瞬時に凍りはじめる。

「風龍剣!」

 メガネは凍ってしまった水龍と火龍を風龍に乗せる。
 氷龍と化したふたつの龍は、氷の槍となって風の翼を得てレッセ・テスラの氷龍を砕く。

「名づけて<水火風龍剣>かな。<水火風龍剣>、乱れ撃ち!」

 メガネは水火風龍を連続生成して、レッセ・テスラを圧倒していく。
 心なしか、魔導師の黒フードの奥の紅い目に焦りが見えた。

 圧倒的な数の氷槍がレッセ・テスラの氷龍を砕き尽くし、レッセ・テスラの身体にも氷の槍が突き刺さる。
 メガネはトドメの一撃を浴びせるためにレッセ・テスラに突進した。
 
「また、会いましょう」

 レッセ・テスラはそんな言葉を残して空中に消えた。
 後には血のついた魔導師の黒フードが残されていた。
 かなりの深手を負っているはずだ。

「空間転移か?」

 メガネは呆然と空を見上げた。

「見事な戦いだったな。メガネ」

 信長はそう励ましてくれたが、何ともほろ苦い勝利であった。

  
 
 
      †




 その頃、石井山の裏手から夜桜とハネケが秀吉の本陣に迫っていた。
 
「ハネケさん、もうすぐ本陣です」

 漆黒のニンジャハインドを駆る夜桜に、迷彩装甲(ステルス)仕様の元は桜色のボトムドールが付き従っている。
 機体は周囲の景色に溶け込んでいて、無音ホバー航行で気づかれずに本陣に近づいていた。

「メガネ隊長は勝ったみたいね」

 ハネケは薄氷の勝利とはいえ、少しほっとしていた。

「何よりです。しかし、あの雛御前という式神さん、相当な力を持ってるな。さすがに安部清明様の一番の式神と言われることだけある」

 夜桜も実況モニター越しに雛御前の実力を知った時点で勝ちは見えていたが同じく安堵していた。

「信長様の意向で、豊臣秀吉は殺さずに生け捕りにするのが基本だけど、どんな男なのかな?」

 ハネケが訊いてくる。

「猿に似ているとうことだけどな」

 夜桜機が停止した。
 ハネケもそれに倣う。
 秀吉の本陣の上空に小型ステルスドローンを飛ばして様子を探る。
 カメラが秀吉らしき人間の表情を捉えた。

「あれ、何か爬虫類みたいで気持ち悪い。目なんかダークグリーンよ」

 ハネケは悪寒を覚えて鳥肌が立ってきた。

「―――これは、不気味な風体の男だな」

 夜桜も背中に冷たいものが流れるのを感じた。
 秀吉の映像は信長たちにも送られている。

「猿から蛙にされてしまったか」

 信長も高性能異世界通信スマホで秀吉を見ながら、魔女ベアトリスの関与を感じていた。
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登場人物紹介

 安東要(あんどうかなめ)


 東日本大震災後、名古屋に新政府を移し復興に務める若き民政党の総理。
 陰陽師、安倍清明の転生術で35歳→24歳に転生し過去に戻り、東日本大震災を防ごうと悪戦苦闘する。

 月読波奈(つくよみはな)

 通称≪ブスメガネ≫。今時、珍しい牛乳瓶の底のような丸いメガネをかけている。
 安東要が通う名門大学のラノベサークルの後輩で大学二年生の20歳である。

 安部清明(あべのせいめい)

 名護屋の清明神社で安東要の前に現れ、東日本大震災を防ぐという願いを叶えると約束する。

 神沢優(かみさわゆう)


 公安警察、秘密結社<天鴉(アマガラス)>のリーダー。

 メガネ君


 巨大小説投稿サイトのバイトリーダーメガネ君。
 秋葉原で安東要たちの戦いに巻き込まれ、行動を共にする。
 ネットゲーム<刀剣ロボットバトルパラダイス>の人型機動兵器<ボトムストライカー>の操縦に長けていたため、オタクたちと大活躍することになる。

 織田信長(おだのぶなが)

 某戦国武将だが、秘密結社<天鴉(アマガラス)>の剣の民でもある。

明智光秀(あけちみつひで)

本能寺変後に死ぬはずが命拾いし、僧となり<天海>と名を改める。

ザクロ

メガネ隊の副隊長で<刀剣ロボットバトルパラダイス>の廃課金プレーヤー。
メガネ君と共に人型機動兵器<ボトムストライカー>を駆って活躍する。

ハネケ

メガネ隊の新人。<刀剣ロボットバトルパラダイス>のプレーヤー。
金髪碧眼のオランダ人ハーフ。 

夜桜(よざくら)

メガネ隊の新人。<刀剣ロボットバトルパラダイス>のプレーヤー。
黒髪に黒いくさび帷子を愛用。 

カトウ

神沢隊の副隊長で<刀剣ロボットバトルパラダイス>の微課金プレーヤー。
たまに出てくるがさほど活躍しない。

雛御前(ひなごぜん)

安部清明の式神衆筆頭、ミニスカ十二単衣の美少女。

猫鬼(びょうき)

雛御前の使い魔で猫娘姿のコスプレをしている。

犬神(いぬがみ)


雛御前の使い魔で狼男のコスプレをしている。

魔女ベアトリス

見かけとは違う、この世界をも滅ぼすほどの強大な魔力を持つ。
媚術を使って人を虜にし操る。

リカウド・バウワー

魔女ベアトリスの親衛隊である<薔薇十字騎士団>の団長である。
めんどくさい性格でどこかユーモラスな所があるが侮れない力をもつ。

マリア・アドレラ

魔女ベアトリスの親衛隊である<薔薇十字騎士団>の副団長である。
秘剣<十字剣>の使い手。

魔導師アリス・テスラ

時空間魔法を使うチート魔導師。

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