3-3こんな所にも獣機が!
文字数 1,895文字
二度目の嘔吐は残存物が少ないおかげで軽い。ほぼ胃液。だからって気分が良い訳じゃないが、復調は早かった。
ふしゅっ。
最後の一吹きを景気良く鼻から吹き飛ばすと、ミレはようやく顔を上げた。
円辺はしみじみと見る。目をすがめて、オイルまみれのJKを。己より頭二つ分は低い少女を、すみからすみまでじっくりと。
縁日のお面みたいにガスマスクをひっかけて、腕組みして両足踏ん張り仁王立ち。鋭い眼光はゆるぎもしない。
円辺は笑った。感嘆の声とともに口元をほころばせた。
やむなく伏せる。二人の体があった空間を、びゅんっと高速で金属が通過! ががっと壁に穴が空く。
ネジだ。高速で打ち出されたネジの来し方は、斜めになった回転木馬!
ぎち、ぎち、めきり。
動いている。木馬の一つが、動いている。本体を支える丸い金属柱……クランクシャフトが天井を割って枝分かれ。ぐねぐねと四肢に巻き付き、ずぶりと首に侵入する。
べきばきと折れた足の内部から、強引に作り上げられた関節が飛び出す。内側から押し広げられ、口ががばっと割れ裂けた。
この時点でようやく円辺が気づく。
ミレが噛む。黒革の手袋の指先を、白い犬歯でぎちりと噛む。ずいと引き抜いた右手には、鈍く銀色に光る小指!
おお神よ! 何たることか!
彼女の右手の小指は、機械仕掛けの義指ではないか!
鼻先で笑い飛ばし、ぴっと小指を立てる。
心なしか詠唱は早口。何故なら木馬型獣機がシャフトをひきちぎり、今、まさに床から解き放たれんとしているからだ。
発光、変形、小指が変わる。機械仕掛けの義指を拠点に出現したのは、小型のネイルガン! 女性にも扱いやすいハンディサイズ。ねらいを定め、スイッチオン。極限まで圧縮された空気が、50mmの釘を高速で撃ち出す。セーフティは無い。
ガガガガガガガガガガ! 100本の釘が撃ち込まれ、木馬の頭が吹っ飛んだ! 飛び散るオイル。砕けるシャフト!
ガガガガガガガガガガ! 100本の釘が撃ち込まれ、木馬型獣機の足を床に打ち付ける。動けない!
工具使いは手をゆるめない。とびかかり、馬乗りになって裂け目に銃口をねじ込む。容赦無し!
ちゅいんっ!
ネジが右頬をかすめる。うっすら一筋赤い傷。だが、この程度ではひるまない。
がつっと鞍を蹴って宙返り。
地面にひざまずき、くるりとネイルガンを回す。
直後。
ずどぉん!
木馬型獣機に撃ち込まれた釘が! 釘が全て! 巨大化!
内側から外側に向かって突き抜ける、2500mmの釘! 釘! 釘が700本! まるで針の山、いや剣の山だ。
ひゅんっとネイルガンが縮み、小指に戻る。かすかに震える左手が胸元をまさぐる。指先が銀色の十字架を探り当てる。ふっと安堵の息をつき、握りしめる。
釘は消え、木馬型獣機は残骸となって崩れ落ちた。
ぎりっと歯ぎしり、拳で頬を拭う。
立ち上がり、視線を転じた先にはアルパカ。
近づき手をさしのべる、が。
つばを吐かれた。
がっくりと肩を落とすJK。やはり女子である。
ぽん、と円辺はオイルに濡れた肩をたたく。
風呂! この状況下ではあまりに魅惑的な一言。逆らえるだろうか? 否、逆らえるはずがない。