君が僕のものにならないなら

文字数 1,592文字

君と出会ってから僕の中はよくわからないものでいっぱいだ
どんな名前をつけることもできない
どうせ明日にはまた変わってる
消してしまいたい
全部消してしまいたい
そうだそれがいい
消してしまおう





黒猫はいつも浜辺にいました。
ずっと海を見ていました。
黒猫は海を見るのが好きでした。
一番好きなのは夜の海です。
夜の黒い海が大好きでした。
あの黒い海の中に沈んでいきたいと黒猫は思っていました。
別に死にたかったわけではありません。
溶けていきたかっただけです。

ある日のことです。
いつものように黒猫が夜の浜辺に来ると、先客がいることに気づきました。
白猫です。
とてもとても奇麗な白猫でした。
黒猫はとても嫌な気持ちになりました。
黒猫が好きな黒い世界に奇麗なものが混ざってしまったからです。

黒猫は来た道を戻ることにしました。
すると声がしました。

〃帰っちゃうの?〃
黒猫は驚いて声のする方に振り返りました。
白猫が黒猫を見ていました。
白猫の眼が黒猫の眼を捉えます。
すると黒猫の中に急にたくさんのものが入ってきました。
何が入ってきたのか黒猫には分かりません。
でも確かに今までなかったものが黒猫の中で溢れました。
黒猫はゆっくりと白猫の傍まで歩いていきました。
黒猫の眼はずっと白猫の眼を離しません。

〃私の顔がそんなに珍しい?〃
白猫が微笑みながら話しかけます。
黒猫は慌てて否定しました。

〃じゃあ何でそんなに私の眼を見つめるの?〃
黒猫は上手く答えることができませんでした。
理由なんて分かりませんでした。
白猫は少しがっかりした表情を浮かべました。
黒猫はそれに気づいて、自分の中にまたよくわからないものが混ざってしまったことに気づきました。
黒猫は白猫に別の場所に行って欲しいと伝えました。
ここは黒猫の大切な場所だと。
この黒い海は僕の一部なんだと。
誰にも混ざって欲しくないと伝えました。
黒猫の言葉に白猫は不満げな表情をしました。
白猫は少し考えてから答えました。

〃私もその一部にすればいいんじゃない?〃
黒猫はまた悩みました。
そしてまた黒猫の中に何かが入ってきました。
黒猫はどんどん不安になります。
考えた末に黒猫は答えました。
そんなことはできないと黒猫は言いました。
するとすぐに白猫は理由を尋ねます。
でも黒猫は答えられません。

〃それじゃあ理由が分かるまで私はここにいてもいいよね?〃

それからはいつも、浜辺に白猫が来るようになりました。
黒猫は夜の海を白猫と眺めるようになりました。
白猫と海を眺めるようになってから、黒猫は気づきました。
真っ黒な海の中に光が見えるのです。
黒くて黒くて震えるほど黒かった海の中に光が見えるのです。
黒猫は気持ち悪くて仕方ありませんでした。
余計なものが混ざってしまったのです。
黒猫の好きな黒い海に余計なものが混ざってしまったのです。
黒猫は自分が少しずつ嫌いになりました。
余計なものが混ざっていく自分が嫌でした。
白猫のことばかり見てしまう自分が嫌でした。

黒猫は白猫の言葉を思い出しました。
私もその一部にすればいい、という言葉を思い出しました。
黒猫は決めました。
黒猫はこれ以上、変わりたくありませんでした。
黒猫はこれ以上、自分を嫌いになりたくありませんでした。
黒猫は白猫を黒い海の一部にすることに決めました。

いつものように隣で夜の海を眺める白猫。
黒猫は白猫を押し倒しました。
左手で白猫の首を押さえつけます。
そして黒猫は振り上げた右手を白猫に振り落としました。
白猫の顔をめがけて振り落としました。
でもだめでした。
黒猫の右手は浜辺の砂を叩いただけでした。
黒猫にはできませんでした。
押さえつけられた白猫は怖くて泣いていました。
黒猫の中にまた何かが混ざっていきました。
黒猫は白猫を離しました。
白猫はすぐに走って逃げていきました。

黒猫はまた海を眺めました。
今度こそ真っ黒な海でした。
光のない漆黒の海。
黒猫はその海に沈んでいきました。

おわり
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み