第10話 ルシル島で

文字数 1,317文字

『だからさあ、あんちゃんのいう通り、あっしらはもう自分の身の振り方は弁えてるんよ。記憶は消えても罪はきえねえ。ここでは恩赦もねえ。こんな人世の愁嘆場で生きられると俺もこいつもあいつらも思っちゃいねえ。でもな信じてる馬鹿がいた。馬鹿だからな。罪を犯そうが人を殺そうが、まだ希望があると信じてる天性の馬鹿たれがいた。仲間だ。あんちゃんにとっちゃくだらねえかもしんねえ。でも、あの子があんたのようなつまらねえ業と違うれっきとした業を持っていたとしても、あっしらが虫けらにみえても、一つあっしらは決めてることがあった。それは何があっても、ここじゃ死ねねえってことさ』
 深夜のルシル島の鉱山裏。彼女と別れたあとにひっそりと、勘と本能で向かった先に彼らは待っていて、そう言って、彼らが渡してきたのは僕の想定外の物だった。
「マクイの始祖の在処といえばわかるだろ」
 とたん、思わず穴が開く程みつめた。
 “鉱石分布図”とだけ殴り書きされた地図。ただし印がいくつもついている。
「一番古いやつが、一本線。新しくなるごとに線が増える。最新の位置は」
「何故これを?」
 すると男は頭をかいて、バツが悪そうにした。
「いやね、こりゃ盗品なんだわ。昔ここにきて死んだ囚人がいた。そいつの持ち物だよ。しかし、なんとまさか、不思議や不思議」
 その先は大体想像がついたが、
「こりゃね、勝手に印が更新されるんだよ。何もしてねえのに。魔法……呪いの地図でっせ」
 つまり、これと彼らの命を交換しろと暗に言っていた。
 何故、あの彼女の地図とわかったかについては、単純に、地図の左端に王国の紋章と、家系図が記され、ある部分でまた×がつけられていたからである。
 そこが誰の席か、レングランドの人間ならだれもが知っている。
「エドガー・ルカナビア国王が愛した七人の子が一人。第六王女、マクイ・ルカナビア、だったか。なんでここだけこんな妙な名前にしたのかわからねえと一時期話題になった。女性らしくないだろうとな」
 まあ、物事には何にだって理由があるというが、想像で補完するしかない時は大抵個々人の妄想だったりする。
「まあとにかくこれがあっしらの最後の命綱だ。それに対してあんたは何を提供してくれる?」
 答えはわかりきっていた。彼女を助ける、いつか助けると胸に誓いながら、薄っすらそれを諦めていた自分の愚かさに嫌気がさした。だから当然、もう一つしかない。
 僕はしばらく紙片に頭を当てて、祈るように呟く。顔をあげ、
「計画ってほどじゃないが、あるにはあるさ。それにはあんたらにも少し手伝ってもらわなきゃならない。一足飛びにはいかないが、それでもいいなら」
「首を振るわきゃあるかい。決まりだ。すぐ実行に移そう。信頼してるぜ。あんちゃん」
 今日会った話したばかりの人間の何を信用するのかしらないが、こんなところで明日もない暮らしをしていればそれも麻痺するのかもしれないと、そんなふうに思った。
 夜が明け、作戦は決行された。そして、少なくとも、僕ら二人は無事脱出に成功した。
 他の者がどうなったかは知る由もない。
 そんな非情さも、この世の常、なのである。
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登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

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