物語の裏側で何が起きていたのか? ①

エピソード文字数 4,407文字

 紀元前から哲学者、戯曲家、叙事詩人が物語の作法について様々な観点から述べており(そしてその作法を記した書物は今でも多くが伝わっている)、議論となると何事もそうであるが多くの賢人たちのあいだでもその見識は互いに矛盾したり反発したりしているものの、一致している意見が一つだけある。
 それは物語が佳境に入ったとき、これまで築き上げた物語の構造を打ち崩すように、加速度的に展開を畳みかける、というものである。この物語――つまり『東京ファナティックス 第一部「ペストの時代の愛」』――も佳境に入ったわけだが、私は偉大な先駆者の見識を無視して、この個所で物語の時間を止めて長い挿話を入れなくてはならない(この作品は全八部を予定しており、その点から言えば、まだまだ明かされていない謎も多く、光文学園を巡る物語はまだ全体の導入と言えるが)。
 大室綴、常盤七星、守門恒明を殺した殺人犯は埜切秋姫だと判明したが、秋姫は表舞台で目立った行動を起こしておらず、その異常な心理、また物語の途中で数度見られた不合理な行動の原理についてはまったく描写されなかった。よって秋姫がどのような人間であるかについて、読者諸君に正確に理解していただくため、私はここで物語を置き去りにしてまでも、秋姫についての長い挿話を入れるのである。この挿話はほとんど独立した章としても扱ってもよいもので、仮に一つの章として秋姫のことを描写するならば、その章の名前はこうなるだろう。第*章「埜切秋姫という少女」。
 秋姫はこれまでに従順で、献身的で、気弱な少女として描写されてきた。確かにその性格も秋姫の一側面である。ところが秋姫は同時に猟奇殺人犯としての異常な精神を併せ持っている。何よりも秋姫は常軌を逸するまでの保身的な考えの持ち主だった。自分の身の安全を守るため、またその異常性の高いコンプレックス『フルメタル・ジャケット』を隠すためなら、全財産を乞食に施しを与えるようにあっさりと手放すし、親友や家族さえも平気で見限った。
 理事長から生徒会に特例として所属する話を持ち掛けられたときも、異議を唱えることなく賛成したのは保身のためだった。学園が封鎖されている期間、理事会側につくならば、身の安全は確実に保証される。また理事長を殺害したのは自分のコンプレックスを知っている人間を一人でも多く消し去るためだった。理事長は政府から派遣された人間とはいえ、組織の末端の人間であり、報復を受けることはないだろう、という打算があった。
 秋姫は人を殺すためだけに自分に授けられたような『フルメタル・ジャケット』を忌み嫌っており、数々の保身の中でもコンプレックスを知られることを最も恐れていた。理事長が殺害されてから数日後、理事会よりも上の組織、つまり政府から派遣されてきたという男が秋姫の部屋を訪ねた。その男は奇妙な格好をしており、厚手のコートを三枚重ねていたために身体が膨れて見え、黒いニット帽を目深に被り、さらに黒いマフラーと黒い手袋を着けていたために、ほとんど肌が見えなかった。冬に厚着をするのは普通のことだが、その男の防寒衣の量は度を過ぎていた。
 秋姫は自分の目論見と違い、男がわざわざ理事長の報復のために訪れてきたのではないかと危惧した。ところがその異常な寒がりの男(そのように秋姫は判断した)は改めて秋姫に理事会の傘下に下る申し出をした。あくまで学園側、率いては政府側は秋姫に対して下手に出た。それほどに秋姫のコンプレックスは稀有だった。もちろん秋姫はその申し出を受け入れたが、その男を殺害することはしなかった。政府の直轄に属するほどの人間を殺害したとなれば、自分が見せしめに暗殺されることは明白だったからだ。
 日本政府の中に自分のコンプレックスを知る人間が複数いる事実は秋姫の心の平穏を激しく乱したが、身の安全を図る保身から言っても、実務的な処理から言っても、政府の人間を殺すことはできなかった。このことに秋姫は折り合いがつけられず、自分のコンプレックスを把握している見知らぬ人間がどこかにいる事実に苦しめ続けられることになる。しかし秋姫は政府の人間に対して気を揉む前に自室に上がりこんできた奇妙な男と協定を結ばなければならなかった。その協定は簡潔なものだった。奇妙な男の方から出された条件は秋姫が生徒会暗殺に就き、政府が指示した学園内の人間を殺害することだった。奇妙な男が伝達役を担い、殺害の指令が下りるたびに秋姫を訪ねるとのことで、その会合には決して第三者の目に触れないように留意すると約束した。
 当たり前だが、政府の直轄に属する男は封鎖されている期間でも学園を自由に出入りができ、会合のときには秋姫は学園の外に連れ出され、そこで次の殺害対象を教えられた。秋姫の方からも一つ条件を出し、それは自分の正体が判明しないように可能な限り取り計らってほしい、というものだった。その条件は仇討ちをされないためという保身から出たものであり、暗殺という役職に就く以上、秋姫でなくても多くの人間は同じ条件を出しただろう。このようにして秋姫は生徒会暗殺に就いた。
 秋姫の性格は保身を何よりも優先したが、同時に劣等感の塊でもあった。癖の強い猫っ毛が嫌いだった、軽度の漏斗胸が嫌いだった、低い身長が嫌いだった、そしてそのすべてを差し置いても自分のコンプレックスが嫌いだった。秋姫にとって、銀太、紅月、綴の三人は自分の劣等感を助長する存在でしかなかった。
 この三人は生に対して真摯であり、誠実であり、ときとして執念すら見せ、秋姫からすれば、自身の内側へと埋没して死にゆく自分とは対照的な存在だった。しかし秋姫がこの三人に殺したいほど憎悪を抱いていたというわけではない。秋姫は綴のことを本物の親友だと思っていたし、銀太のことを一人の男として愛していたし、紅月のことを妹のように可愛がっていた。
 秋姫は三人に対して、愛情と劣等感を同時に抱いていた。この二つの感情は矛盾するものだと人は口々に言うが、実は共存するものである。秋姫が普段から善良な振る舞いを取るのは、自分の本当の性格を隠すためというよりも、自分の代わりに他人から生への肯定的な態度を引き出すためであり、三人への愛情は他人を愛することによって、自分を愛することのできない精神的な欠落の補償をするためだった。
 学園の封鎖政策が実行に移されたとき、まず秋姫が為すべきことは学園内にいる自分のコンプレックスを知っている人間を殺害することだった。その人間は一人しかいなかった。秋姫は人生で初めてできた親友に対して、劣等感を抱きながらもこれ以上ないほどに心を開いていた。よって秋姫は自分のコンプレックスを絶対に他人に隠すという主義を例外的に捻じ曲げて、綴に『フルメタル・ジャケット』の詳細を教えていたのだ。
 ところが自分の主義を曲げて起こした行動は悪い結果を招くと相場が決まっている。秋姫は綴に自分のコンプレックスを教えたために、親友を殺さなくてはならなくなった。『フルメタル・ジャケット』の能力を知っている綴ならば、生徒会暗殺が誰なのか見破ることは容易いことだっただろう。秋姫が綴を殺害するとき、まったく葛藤がなかったとは言わない。紅月と清美が殺し合いをした日の夜、四人でベッドに入り、銀太に抱きしめられながら秋姫は愛情と劣等感と保身が入り混じった感情が大嵐のように渦巻き、目を瞑ることもできなかった。
 しかし本来の性質である保身が萌え出し、残りの二つの感情を押しつぶすのはあまりにも早かった。秋姫は殺人に傾倒する性質はなかった。むしろ正常な人間と同じく、嫌悪すら感じていた。それでも秋姫は自分の身を守りたいという欲求に抗うことができず、綴の殺害を決心した。その夜、二人はベッドから抜け出すと、銀太の部屋に向かった。無論、綴は親友である秋姫から大事な話があると言われ、銀太の部屋に連れていかれても何の警戒もしなかった。むしろ学園封鎖という異常な状況下に急かされて銀太と秋姫はようやく恋人同士になったのかと予想して、上機嫌なほどだった。
 綴が藤椅子に座ると、秋姫は即座にシンボルのバタフライナイフを投げた。それは相手の腹部に刺さり、綴が驚きの声を上げる前に『フルメタル・ジャケット』の能力により、小さな傷口は縦に開かれ、綴の身体は真っ二つに切断された。綴を殺したとき、秋姫には親友を殺した罪悪感も、互いの愛情を裏切った嫌悪も、劣等感の対象の一人が取り除かれた会心も、一人の人間を殺害した達成感もなかった。ただ自分の身が守られたという保身から来る安心だけがあった。そして紅月の部屋に戻り、再び銀太の腕の中に収まり、安堵から深い眠りについた。
 学園の中から自分のコンプレックスを知る人間がいなくなったことにより安らぎの眠りについたわけだから、綴の死体が発見され、同時にそのシンボルの豆本まで発見されたとき、秋姫はひどく狼狽した。綴が『バベルの図書館』に自分のコンプレックスを書き留めているのは十分に予想できることだったが、そのシンボルが死後にまで残り続けるのは思いもよらないことだった。秋姫はコンプレックスを専門とした学問を修めているわけではなかったが、それでも死後も残り続ける能力というものは聞いたことがなかった。
 銀太と紅月が豆本の中から、『フルメタル・ジャケット』について書かれた項目を見つけ出す前に豆本を消し去らなければならなかったが、そのシンボルの存在を知っている人間が三人しかいない以上、性急に事を運ぶのは危険だった。綴のシンボルは三人だけが知っている秘密であるにも関わらず、その豆本が消滅したとなれば、身内に疑いの目が向くのは当然のことだからだ。よって秋姫がどのような手段で綴のシンボルを処分するか思案を巡らせているうちに、銀太が豆本を何者かに譲渡したと聞かされたときは焦燥に襲われた。自分の目が届く場所から豆本が離れていったために、その処分はますます困難を極め、さらにその豆本を譲渡された人間を探し出す工程まで増えた。
 しかし秋姫には銀太が姉の形見を渡すほど心を許している人間に当てがなかった。ましてやその相手が宿敵である恒明だとは思いもよらなかった。銀太自身にも予測していない幸運だったが、不承不承ながらも恒明に姉の形見を渡したことによって、秋姫は豆本への手がかりを失った。
 ところで秋姫は自分のコンプレックスを『ダンサー・イン・ザ・ダーク』と偽っていたが、その能力は『フルメタル・ジャケット』の一部である。『フルメタル・ジャケット』はそのシンボルでつけた傷でなくとも、小さな傷ならばわずかに開閉できた。秋姫が『ダンサー・イン・ザ・ダーク』と偽って人前でその能力を使用するとき、必ずシンボルのバタフライナイフは見せなかった。
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登場人物紹介

第二部「偉大なる二十世紀」

忍谷夕吉(しのびたにゆうきち)
第二部の主人公。
賭博師を生業としている。コンプレックスを保持していない無能力者。26歳。
千ヶ谷千陰と組んで、封鎖された東京で成り上がることを計画している。
性格は皮肉屋だが、実業的。
職業柄、変わった特技を多く隠し持っている。

千ヶ谷千陰(ちがやちかげ)

第二部のメインヒロイン。
日本でも有数の名家、千ヶ谷家の長女。23歳。
生粋のお嬢様なのだが、普段着がジャージ(光文学園時代のもの)、主食がラーメン二郎など、俗っぽい。
近寄りがたい兄と可愛くて仕方のない妹がいる。
意外にも本職はハッカー。

シンボル:???

コンプレックス:『カラマーゾフの兄弟』

 ???

千ヶ谷絹人(ちがやきぬひと)

千ヶ谷家の現当主。
千一郎、千陰、千五百の父。
現在の政治情勢は千ヶ谷派と宇津木派に分かれている。
忍谷を千陰の恋人ではないかと疑っている。

シンボル:腕時計
コンプレックス:『ガルガンチュアとパンタグリュエル』
 対象を30分以内のある時点にリセットする。
 本人は物理的な状態だけで、記憶や感情など精神的な状態はリセットできないと言っているが……?

千ヶ谷千一郎(ちがやせんいちろう)

千ヶ谷家の長兄。千陰と千五百の兄。26歳。
次期千ヶ谷家当主。
神経質で気難しい。そのために千陰からは苦手意識を持たれている。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

千ヶ谷千五百(ちがやちいほ)

千ヶ谷家の次女。
第二部の時点では行方不明になっている。
千陰は妹を探し出すために忍谷と手を組んでいる。

黒塗ほのか(くろぬりほのか)

日本政府に保護されていた謎の少女。17歳。
「未来を見通す」コンプレックスを保持している。
この能力により、2000年問題を予見していた。
忍谷と千陰のことはなぜか出会う前から知っていた。
はたしてその正体は……?

シンボル:???
コンプレックス:「???」

赤藤詩音(あかふじしおん)

暗殺を生業としている。千陰の大親友。23歳。
光文学園特別科クラスに在籍していたころは、千陰とコンビを組んでいた。
しかし金さえ積めば仕事を引き受ける性格で、政治的には千ヶ谷派、宇津木派のどちらにも属していない。
名前からわかるとおり、第一部に登場した赤藤梨音の実姉。

シンボル:窓
コンプレックス:『月は無慈悲な夜の女王』
 手で触れた場所に窓を作る。
 その窓は通常の窓と同じ性質を持つ。つまり開閉ができ、向こう側が見通せ、ガラスは壊れやすい。

源次郎助(みなもとじろすけ)

上野にある国内最大の国営カジノのオーナー(所有者)。28歳。
本職は権力者向けの金貸し。
商売人として、天才的な能力を持っている。
政治的には宇津木派に寄っている。
権力者のあいだで、「ゲームマスター」と呼ばれるほどあらゆるゲームに精通している。

シンボル:鎖

コンプレックス:『バック・イン・ブラック』

 対象との契約を遵守させる。具体的には対象が契約を違反した場合、損害を与える。その損害の内容は対象の「同意」によって決定する。

五十鈴凪子(いすずなぎこ)


源の右腕。24歳。

堅物で、軍人のような口調をしている。

二色ほどではないが、戦闘能力に長けており、荒事を頼まれることもある。

拳銃を得物とする。


シンボル:風船

コンプレックス:『クロイツェル・ソナタ』

 シンボルの風船は複数出現する。風船に触れた物体は別の風船に転移する。

二色廻(にしきめぐる)

源の側近。源は「秘書のようなもの」と言っている。
無口で無表情。しかし非常に礼儀正しい。意外に気さくらしい。
忍谷はその体つきから、一目で「戦闘タイプ」の人間と見抜いた。

本文ではスキンヘッドになっているのですが、きゃらふとさんの仕様上、再現できなかったので、頃合を見て、キャラデザを作り直します。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

散歩桐雄(さんぽきりお)

上野にある国内最大の国営カジノの経営者。源から業務を委託されている形となる。
現在は経営者として働いているが、ディーラーとしての腕前はまだ落ちていない。
コンプレックスを保持しているかは不明。

森重義生(もりしげよしお)


日本政府に所属する男。立場は源よりも上となる。

日本政府と光文学園の仲介役となるために、源のもとに派遣されてきた。

異常なほどに厚着をしている。

第一部にて秋姫と接触していた男その人。


シンボル:ポーン(黒)

コンプレックス:『ミリオンダラー・ベイビー』

 対象の物体の価値を誤認をさせる。ただし、価値の変動や能力の範囲はミクロなものである。

宇津木将臣(うつぎまさおみ)

大日本帝国第八十六代内閣総理大臣。
千ヶ谷家の最大の政敵。
東京の封鎖政策の主導者。

シンボル:???
コンプレックス:「???」

猫松喜久二(ねこまつきくじ)

権力者の一人。千陰は性格が悪いと言っている。
元大手薬品会社の重役であり、現在は大手銀行に天下りしている。
コンプレックスを持っていない無能力者。

切田善嗣(せったよしつぐ)

宇津木派の人間に雇われた刺客。
絹人の暗殺を目論見るが、千一郎の機転により防がれた。
その後、忍谷と戦闘になる。

シンボル:スプーン
コンプレックス:『バナナフィッシュにうってつけの日』
 砂糖を自由自在に操る。しかし操れるのは乾いた砂糖だけであり、ジュースに溶解しているものなどは操ることができない。

間宮蘖(まみやひこばえ)

宇津木派に雇われた暗殺者。
宇津木側の人間の依頼ばかり引き受けるため、「宇津木の犬」の汚名を着せられている。
しかし暗殺者としての実力は詩音と拮抗する。
オークションのさいには司会を務めていた。

シンボル:???
コンプレックス:『モダン・タイムス』
 自分の身体を軟化する。これにより関節を無視する形で身体を動かせるようになる。
 柔らかくなった身体の痛覚は通常のときと変わらない。

園城ゆゑ(そのしろゆゑ)


光文学園二年十二組の担任教師。28歳。

学園に封鎖線が敷かれるなか、コンプレックスを用いて自力で脱出した。

実は葛籠未造が誘拐した子供たち〈チルドレン〉の一人だった。


シンボル:人体の一部

コンプレックス:『アナベル・リー』

 能力の範囲内の任意の場所に目や口など自分の身体の部品を複製する。

葛籠未造(つづらみぞう)


戦後日本最悪の犯罪者と呼ばれる男。

表向きは死刑の確定から執行まで史上最短で絞首刑に処されたことになっている。

しかし実際は日本政府の庇護下のもと、東京のどこかで生き延びている。

葛籠の犯した犯罪の一つに稀有なコンプレックスを持つ子供を誘拐し、養育していた、というものがある。なぜこのようなことを行っていたのかは不明。

ほのかの予言によると、葛籠が次の「世界の王」である。

第一部「ペストの時代の愛」

大室銀太(おおむろぎんた)

第一部の主人公。
国立光文学園高等部一年八組所属。15歳。
中性的な顔立ちで少女と間違えられることもあるが、性格は偏執的かつ執念深い。
これまで一般市民として生きてきたために戦闘の経験が一切ない。それゆえ学園の封鎖を乗り切るための戦闘では変則的な戦法に頼らざるを得ない。

シンボル:鋏
第一のコンプレックス:『緑の家』
 シンボルの鋏はその強度に関係なく物体を切断する。そのとき物体の連続性は保たれたままになる。切断面を合わせれば、分断したものは再び接合する。
第二のコンプレックス:『石蹴り遊び』
 『緑の家』によって切断した異なる物質を接合する。接合された物体は元の二つの物質の性質が混ざり合う。時間の経過とともに、物質は元の物質のどちらかの性質へと帰着する。
第三のコンプレックス:『百年の孤独』
 シンボルである鋏に「意思」を与える。鋏はその意思を遂行するように自動駆動するようになる。あくまで鋏は意思を与えられただけであり、生物化していたり、能力者が操作したりしているわけではない。
 鋏の移動のさいは床や壁など、物体を切り裂きながらでなければならない。

瀧川紅月(たきがわべにづき)

第一部のメインヒロイン。
大室姉弟の幼馴染。
七人しか在籍していない特別科クラスに唯一の一年生として所属している。生徒会庶務兼任。16歳。
男勝りで、非常に野蛮な言動が目立つ。その反面、緊急事態でも冷静に対処するだけの胆力と機知を持ち合わせている。

シンボル:ハンドベル
第一のコンプレックス:『太陽の塔』
 能力の範囲内にある最も速度の速い物体を爆破する。このとき、能力の対象には能力者自身も含まれる。
第二のコンプレックス:『明日の神話』
 能力の範囲内にある一定の速度の超えたすべての物体を爆破する。この一定の速度はスペクトルによって設定される。

大室綴(おおむろつづり)

銀太の姉。紅月にとっても姉貴分である。
国立光文学園高等部二年十二組(芸術科クラス)所属。17歳。
自分にも他人にも甘く、銀太と紅月の二人を溺愛している。
一人称が「お姉ちゃん」。
文学に精通しており、編纂者を志している。

シンボル:豆本
コンプレックス:『バベルの図書館』
 シンボルの豆本は無限の頁を持ち、際限なく情報を書き込める。文章の記入・消去は念写により行う。このコンプレックスはあくまで「無限に情報を記録する」能力であり、「頁を入れ替えて情報を整理する」能力はない。

埜切秋姫(のぎりあきひめ)

綴のクラスメートであり、親友。銀太とは初めて会ったときから友達以上、恋人未満の関係。
国立光文学園高等部二年十二組(芸術科クラス)所属。16歳。
気弱な性格であり、自分の意見をなかなか出せない。この性格は自分のコンプレックスが他人のものよりも実用性に欠けることと無関係ではない。
癖毛を気にしており、外出するときは必ず帽子を被る。そのために帽子集めも趣味になっている。

シンボル:???
コンプレックス:『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
 手で触れた小さな傷を塞ぐ。

須磨楓子(すまかえでこ)

紅月のもう一人の親友。
国立光文学園高等部一年六組所属。16歳。
紅月の「唯一」の親友を名乗っているため、銀太とは犬猿の仲。
高飛車で傲慢だが、これは自分の実力への自信の表れである。実際に普通科クラスの中ではトップクラスの成績を誇る。
学園封鎖後はショッピングモールにて幹部の一人になっている。

シンボル:皮手袋
コンプレックス:『茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)』
 シンボルをつけた拳で殴られた人間はその部位を認識できなくなる。攻撃された部位は透明に見え、同時にその機能も失う。

守門恒明(しゅもんつねあき)

七人いる特別科クラスの一人。生徒会書記兼任。学年は二学年に当たる。17歳。
綴に一目惚れして以来、告白を繰り返している。そのために銀太からは目の仇にされている。
お坊ちゃんであり、物腰が柔らかい反面、ナルシストな言動が目立つ。しかし特別科クラスに所属している以上、頭脳や戦闘の実力は折り紙つき。

シンボル:金平糖
コンプレックス:『重力の虹』
 空中に浮いている物体を垂直に落下させる。このときの落下の速度は少なからず銃弾の速度を超える。

常盤七星(ときわななほし)

特別科クラスの一人。生徒会会計兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
紅月と同様、生徒会の義務を放棄しているため、クラスメートからは問題児として見られている。
学園封鎖とともにショッピングモールを制圧し、ここに篭城する。その後ショッピングモールの管理人として、学園内の物資と人材を独占している。

シンボル:注射器
コンプレックス:『美しき水車小屋の娘』
 自分の血液を混ぜた液体を操る。このとき、必要な血液の量は操る液体の体積に比例する。そのため、自分が貧血になるほどの量の液体は操ることができない。

犬童影千代(いぬどうかげちよ)

ショッピングモールの幹部の一人。医療品や生活用品の管理を担っている。
国立光文学園高等部三年二組所属。18歳。
物腰の柔らかい好青年。しかし七星がショッピングモール内で唯一コンプレックスを把握していない人間でもある。そのため七星からは「油断のならない男」として見られている。

シンボル:水銀温度計
コンプレックス:『パルプ・フィクション』
 自分よりも高いところにいる生物の体温を上げ、自分よりも低いところにいる生物の体温を下げる。
 このときの変化率は能力者との上下の距離が離れているほど大きくなる。

赤藤梨音(あかふじりおん)

ショッピングモールの住人の一人。地下倉庫(監房として用いている)の管理を担っている。
国立光文学園高等部二年五組所属。17歳。
幹部ではないが、貴重なコンプレックスを持っているために同等の発言権を持つ。本人曰く、人を閉じ込めるのに適したコンプレックス。
間延びした口調のため、ややとろそうに見える。しかし七星や犬童への意見は鋭く、意外にも人をよく見ている。

シンボル:鍵
コンプレックス:『夏への扉』
 能力の範囲内にある、場所から場所を区切るもの(扉や窓など)に、可能な限り通行の妨害をさせる。
 具体的には、それらが固定されたように開きにくくなり、無理やりこじ開けても即座に閉まるようになる。

桑折良蔵(こおりりょうぞう)

特別科クラスの一人。生徒会会長兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
精悍な顔つきをした巨漢。生徒会長という立場も相まって一般クラスの生徒たちから恐れられているが、クラスメート曰く、その性格は寛容。
互いに反目しがちな特別科クラスの人間には珍しく、クラスメートを家族だと考えている(特別科クラスから離反した紅月と七星も例外ではない)。生徒会長である自分はその家長だという自負がある。

シンボル:磁石
コンプレックス:『ペイント・イット・ブラック』
 シンボルを中心にして、同じ物質を集める。このときに物質が集まる速度は、その途中にあったものを破壊するほど速い。
 シンボルの磁石は同時に二個以上具現化することもできる。

立畑照葉(たてはたてりは)

特別科クラスの一人。生徒会副会長兼任。学年は三学年にあたる。17歳。
端正な顔立ちだが、男口調であり、傍若無人な態度が目立つ。
紅月と七星の死刑宣告の撤回を報告するために、銀太たちを訪ねてくる。
見た目に合わず、作中でも珍しい、武術を極めた武闘派。

技術:「炸空術」(さっくうじゅつ)
 手を打ち鳴らすことによって、空気を破裂させ、真空により対象を切断する。これはコンプレックスではなく、純粋な技術。銀太は剣術の系統に入る武術と見た。
シンボル:モノクル
コンプレックス:『鎖に繋がれた犬のダイナミズム』
 モノクルを嵌めた左目では、すべてのものが静止して見える。つまり能力者は左目で一瞬一瞬が止まった世界を見て、右目で流れている世界を見ていることになる。

清美一暁(きよみかずあき)

特別科クラスの一人。生徒会遊撃兼任。学年は三学年に当たる。18歳。
細身だが、非常な長身。髪型は常にオールバックにしている。
性格は慇懃で、馬鹿に思えるほど丁寧な口調で話す。
生徒会の職務を全うしようとしない紅月の交渉役を引き受ける。

シンボル:鎖帷子
コンプレックス:『私の名は赤』
 能力者に与えられるダメージ、もしくは能力者が与えるダメージの位置を別の場所に転移させる。

吾妻奈純(あずまなずみ)

特別科クラスの一人。生徒会遊撃兼任。学年は二学年に当たる。16歳。
緊急集会のさい、反抗的な態度を取った男子生徒二名を射殺する。
恒明からは「野蛮な性格」と評される。
生徒会の職務を全うしようとしない七星の交渉役を引き受ける。

シンボル:二丁の散弾銃
コンプレックス:『ライト・マイ・ファイア』

天目小桜(てんめこざくら)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園一年普通科。15歳。
犬童をリーダーとした、七星に対する反勢力の一人でもある。
そのコンプレックスを使い、ショッピングモールの住人を暗殺する。
正体を暴かれたさい、仲間の情報を流して命乞いするが、七星に拒否され殺害される。

シンボル:拳銃
コンプレックス:『若きウェルテルの悩み』
 シンボルは驚いた人間に憑依する。その人間がもう一度驚いたとき、身体を乗っ取り、拳銃自殺させる。
 このとき、周りにいる人間の中で最も早く驚いた人間に改めて憑依する。

也則允彦(なりのりまさひこ)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園三年六組所属。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
プロレス同好会会長。
銀太はその戦闘能力を高く買ったが、紅月は「馬鹿」と一蹴した。

シンボル:プロレスマスク
コンプレックス:『ボーン・トゥ・ラン』
 身体に触れたものを吸着する。
 格闘技の固め技はほとんどの場合、抜け出す技術も見つけられている。しかしこの能力と組み合わせれば、相性の悪いコンプレックスを持っていない限り、抜け出すことは不可能になる。

毒島慈(ぶすじまめぐむ)

ショッピングモールの住人の一人。光文学園一年八組所属。銀太とはクラスメートである。16歳。
ショッピングモールの反勢力チームの一人。
醜男であり、女性に恨みを持っている。しかし銀太は見た目以上に卑屈な性格に問題があると言っている。

シンボル:???
コンプレックス:『目=気球』
 自分に対して嫌悪した人間の大腸にサナダムシのように寄生する。
 能力者は寄生主から少しずつ栄養を奪い、三日ほどで死に至らしめる。そのあいだ、人質を取っている状態にもなる。

一重柳子(ひとえりゅうこ)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
殲滅戦が始まってからも、自分のコンプレックスを使って周りの人間を欺き、フードコートでくつろいでいた。
身なりを異様に気にし、学園封鎖の中でも衣服の手入れをかかさない。

シンボル:メモ帳
コンプレックス:『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』
 メモ帳を読んだ人間は、そこに書かれた言葉を言うことができなくなる。その言葉を言おうとした場合、言い間違えるようになる。このとき、その人間は自分が別の言葉を言っていることに気がつかない。

八木沼篤(やぎぬまあつし)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
殲滅戦が始まると同時にショッピングモールから脱出を試みるが、赤藤の『夏への扉』の能力を知らなかったために自動ドアに挟まれ、身動きが取れなくなる。
その後、楓子により自動ドアから引きずり出される。楓子に奇襲をかけるも、『茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)』によって返り討ちにされる。
コンプレックスを保持しているが、詳細は不明。

時谷圭吾(ときやけいご)

ショッピングモールの住人の一人。
ショッピングモールの反勢力チームの一人でもある。
赤藤の『夏への扉』により、眼鏡屋に閉じ込められる。そのため、そもそも殲滅戦が始まったことを知らなかった。
銀太の能力で眼鏡屋から救出されるが、同時にその場にいた七星から死刑宣告を受ける。命乞いをするが、七星に拒絶され首を刎ねられる。
コンプレックスを保持しているが、詳細は不明。

殺人犯

第一部のラスボス。
生徒会暗殺。
大室綴、守門恒明、常盤七星、犬童影千代を殺害した。

シンボル:バタフライナイフ
第一のコンプレックス:『フルメタル・ジャケット』
 シンボルでつけた傷を自由に開閉する。この能力は生物にも無生物にも有効。
第二のコンプレックス:『地獄の黙示録』
 シンボルでつけた傷を自由に移動させる。このときの移動速度は人間が全速力で走るよりも速い。

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