第80話  黒澤家の心強い味方 2

エピソード文字数 4,168文字

 

 ※


 楓蓮と聖奈はお友達。

 

 その事実をごく普通に、ナチュラルに話題に出すと、白竹さんや染谷くんが振り返るのだった。


あれ? 美神さん。黒澤くんのお姉さん知ってるの?

 早速食いついた染谷くん。

 とはいえ聖奈が楓蓮や華凛を知っているのは流石に読めなかったのだろう。

あれ? 龍一くんは蓮の従姉弟知ってるの?

 それはさっきお前に言ったはずだが、あたかも今聞いたと言わんばかりのリアクションに頭が下がっちまう。


 こいつの演技力というのは、マジで芸術の域だな。

うん。ってか昨日知ったんだけどさ、白峰楓蓮さんと……華凛ちゃんだよね?
え? え? 楓蓮さんは、くりょさわくんのお姉さん?

 俺と染谷くん。更に聖奈の顔を往復する白竹さん。

 自分だけ分かっていないのが分かると「ど、ど~いうことでし?」と泣きが入ってしまう。   

あれ? 美優も知ってるの?
はひ! だって楓蓮さんは私のおうちでアルバイトしているのでございますよ!
えっ! もしかして喫茶店で働いてるって、あんたの所だったの?

 こいつの演技力は伊達じゃないぜ。

 全部知ってるのに、この驚き顔には、こっちが驚きだ。

あ、あひっ! 美優は楓蓮さんと一緒に仲良くして頂いておられまする!

 ビシっと手を上げて敬礼ポーズを取る白竹さん。 

 それ好きっすね。彼女がやるとすげー癒されるんだ。

そうだったのね。あ~。だから楓蓮はバイト先にすんごい可愛い子がいるって言うから。

なんだ。あんたの事だったのね

 めちゃ笑顔の聖奈。

 よくもまぁそんな台詞をさらっと言いやがるぜ。


 だけど、いつもの聖奈とは明らかに違う。

 本気の笑顔っていうか……


 こういう姿を見てると、今までこの関係を黙ってたのが申し訳なく思ってくる。

 

うひゃう! は、はぅうう! 

 うわっ白竹さんが軟体動物のようにグニャグニャになってるぞ。

 しかも顔を真っ赤にしておられ……


 ちなみに聖奈……お前にそんなこと言った覚えは……無いと思う。

 いや、待て。あったかも知れないし、どっちだったっけ。


あ……あひ。楓蓮さんがそんな情報を……

 それにしても。白竹さんのデレ顔っぷりが凄いんだけど。

 そんなに楓蓮が可愛いと言ったのが嬉しいんですかね?


 いつも喫茶店ではクールなのに、学校ではデレッデレになる白竹さんの七不思議である。



 そんな美優ちゃんウォッチングをしていると、聖奈は俺に向かって急に吠え出した。

ちょっと蓮! 何で教えてくれないのよ。

楓蓮のバイト先って美優の喫茶店だなんて、私知らなかったわよっ!

 イキナリこっちに振ってきただと? しかもジトっとした目のオマケつき。

いや。待て! 俺も知らなかったんだって!

姉さんがバイトしてんのは知ってたけど、白竹さん家だったなんて聞いてねーから

その話。昨日染谷くんに聞いて、初めて知ったとこなんだけど

 咄嗟に拒否すると、聖奈はふふっと笑いだした。
まあいいわ。あんた楓蓮とあんまり喋らないもんね
と、そこでようやく気が付いたのだが……

このやり取りは、恐らく染谷くんに見せる為か?


俺が染谷くんに言ったのは、蓮と楓蓮はあまり喋らない。そこを強調させてんのかもしれない。


聖奈。お前ってさ、さりげなく会話に組み込んでくるよな。

俺のストーリーをちゃんとフォローしてくれてるのに、マジで関心するぜ。


黒澤くん。美神さんと楓蓮さんって……そんなに仲が良いの?

 まだ信じられないと言った顔をする染谷くん。


 まるでエサをねだるわんちゃんみてーなつぶらな瞳になっちまってる。

 すげー知りたいオーラが漂ってくるぞ!

そうだね。多分俺よりも仲が良いと思う
 俺はそこまで言うに留めたが、横にいる聖奈は自信たっぷりな表情を浮かべる。そして……

仲が良いというか、唯一無二の親友とか、そんな感じね。

それに私は楓蓮のことを……特別な存在だと思ってるから

 これがアニメなら背景に「ドーン」と書いてそうな、そんなドヤ顔を見せ付ける聖奈であった。


 ここ一番の会心の笑顔に、俺も会心の引きつり笑いで対抗していた。

で、でも美神さんって昔の記憶が無かった。んじゃなかったっけ?
 おっと。染谷くんがまさかの反撃に出るが、

白峰さん家のことは覚えてたわ。

忘れたのは蓮だけよ。凛ちゃんも覚えてたし。何故か蓮だけ! 忘れちゃったの

 なんつー都合のいい記憶喪失なんだよ。と突っ込まずにはいられない。
それに楓蓮さんって結構年上だよね? 敬語じゃないんだね
 すげー聞いてくる染谷くんに、聖奈は一歩も退かない。
うん。幼馴染だしね。昔っからタメ口よ。楓蓮もそれがいいって言うから

 俺は聖奈に対し、喫茶店では十九歳と名乗っている事なんて教えてなかったハズだ。

 それなのに、さらっと回避するよなマジで。

……そ、そうなんだ
 ついに追撃をやめた染谷くん。少しばかり青ざめているが。




 ああ、こいつなら大丈夫だな。 

 今のやり取りを見てても、危なっかしい会話も無いし、鉄壁の守りすぎる。


 染谷くんを取りあえずは納得させてしまったようだ。

     

でも何で龍一くんは、楓蓮のこと知ってるの?
 しかも聖奈はそれで止まらず、追撃を開始しやがった。
あふ……
 今度は染谷くんが攻められる番になると、俺や白竹さんはギャラリーと化していた。
いえ、その……自分はオムライサーでして、オムライスに目がなく……
 染谷くんがしどろもどろに話しだすと、会話の途中にも関わらず、更にドキツい一撃を放つ。
龍一くんってもしかして楓蓮のこと好きな感じ?
あっ、ちょ!
 既に瀕死状態な彼に「こらこら」と静止すると、俺と視線を合わせた聖奈は、まあいいわと前置きしてから、

楓蓮は滅茶苦茶モテるからね。

知り合う男を全員虜にしていくから……どうせ喫茶店でもそうでしょ?

うにゅにゅ! 私もおにゃのこだけど、楓蓮さんだ~いすきです! めちゃ優しいもん。

魔樹もめちゃ素敵って言ってまし!

なんだと?

やっぱり魔樹も、楓蓮さん狙いか!

 そんな会話の中、

 今一瞬だけ、聖奈が睨んできたような気がしたが……気のせいか?

じゃあ今度。楓蓮がバイトしてる時にでも行ってみるわっ。

前々から行こうと思ってたんだけど、都合がつかなくてね

わぁお。聖奈さんもご来店わ~い! めちゃ楽しみでございまする!

 そんなタイミングで休憩時間終了のチャイムが響き渡る。

 まるでゴングに助けられたかのような染谷くんであった。話題が途中で逸れていったからな。



 だけどさ、こんな場面で唐突に「好きなの?」は無いだろ?

 それで……好きです。とか言われると俺絶対ヘコむ気がするし、これでよかったと思う。


 ※


 さて、授業が始まると、聖奈とスマホタイムだ。

どう? あんな感じでいいでしょ?
ちょっとやりすぎじゃねーのか?
 俺は即答していたが、聖奈は怪訝そうな顔を見せると、クマがグーパンチしてくるスタンプを送ってきてから、長文を送りつけてくる。  

私の性格上。本当に知らなかったらあんな感じになるわよ。別に普通だと思うけど。

それよりもあんたの方がダメ。あの会話に乗ってくると思った場面で何も言わないし

年齢の件も聞いてなかった。それはあんたが言うかと思ったけど、スルーされちゃったから、こっちが答えるしかなかった。

龍一くんに好きなのって私が言った時。「一目惚れってもしかして姉さん?」 とか突っ込んでも良かったのに。むしろそれが普通かも

いや、それはちょっと……そこまで俺が言うのはマズくないか?

もしそう言ったとして「一目惚れしたのは楓蓮」だと言われたら、ショックすぎるぞ

なんで? 蓮と楓蓮は別の人間だと認識されてるのよ?

そのやり取りの中で、あんたの私情を挟んでどうするの?


あんたは今、蓮という一人の人間なんでしょ?

お姉さんである楓蓮に好意を持ってるかもしれない。そんな会話になってるんだったらちょっと位、龍一くんに突っ込んでも良かったんじゃない?

 至極正論。

 まさか……お前に諭されるとは思わなかった。


 どうやら聖奈は俺よりもステルス能力高い気がしてきたぞ。

 お前なら今日から入れ替わり体質になっても、全然イケるんじゃねーの? そう思わずにはいられない。

まぁでも。楓蓮姉さんの会話はあまりしない。そんなキャラの方がいいわね。

是非そうしてくれ。自分から嘘をはっちゃけるのはわりとつらいものがある。

あと、パーティとか、嘘だらけで固めると後から困るんだよ

嘘じゃないわよ
パーティなんか知らないんだけど
あれは、今度楓蓮とパーティに行けば問題無いでしょ?
 おいおい。そりゃそうだが

だけど、蓮も誘うとか言われると無理だろ? 

身体は一つなんだから、そーいう嘘が一番やばい。


蓮と楓蓮と一緒に遊ぼうとか言われたら、どうすんだよ

あのね。私はもう黒澤家の家族なんでしょ? ちょっとは信頼しなさいよ
 横目でジロリと見てくる聖奈に、分かった分かったと顔で返事すると、再びスマホを高速でなぞり始める。

これから皆と仲良くなっていけば、そういう場面がきっと出てくるはず。

その時は私が証人になれるし心配ないわっ


私がちゃ~~んと蓮と楓蓮という二人の人間の面倒を見てあげるから

大丈夫よ。私に任せなさい。私は黒澤家の味方なんだから

 確かに聖奈の会話を聞いていると、聞いてる途中でも「こいつなら大丈夫だ」と何度思った事か。


 実際にこいつの存在は俺にとって……

 とても心強くて頼りになるのではないかと、改めて感じるのであった。

なぁ。パーティって何の話?

ウチのグループ主催のパーティがあるのよ。

だから楓蓮も華凛ちゃんも一緒に来てほしい

 パーティって……


 俺には縁の無いものだから、あんまり想像できないんだが、欧米風の映画にあるような、あんな感じしか想像できん。

よく分からんが分かった。そーいうの初めてなんで
ありがと。絶対約束だからね

 俺は聖奈に向き直り、うんと頷くと。すげースマイルをお見舞いしてくる。



 今日は特に嬉しそうな顔をするよな。


 それは何も聖奈だけじゃなくて、俺も自然と笑みがこぼれるのはきっと……今の関係に満足しているのだろう。

 聖奈。ありがとう。

 お前がいてくれて本当に助かってるし、この高校生活も楽しく過ごせてる。


 聖奈の存在。それは俺にとって一番心強い味方なのだと。そう思った。

――――――――――――


 四章おわり。

 次回。登場人物 3

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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