第109話 3ヶ月と15日目 9月9日(水)

文字数 1,237文字

 今日こそいっぱい書くぞ、と、意気込んでノートパソコンの前に。
 無論現在進行中の3作品とも数行ずつは書けたのだが、いつも通りペースが上がらない。
 そこでノベルデイズ散策へ。
 いつもの詩集とか普段は読まない恋愛小説とか色々。
 自分の書くペースとか、小説に対する姿勢とか、考え方とか、何と言っても自分と180度違う詩や恋愛小説を書いている人の作品を読むと、気付くことが沢山ある。
 詩を書ける人や恋愛小説を書ける人、特に女性は着眼点が違う。
 表現方法も何もかも。
 凄いと思うし、自分には絶対に書けないし、気付けない。
 あの才能の僅かでもあれば、もう少し違う人生が送れていたかも知れない。
 恥ずかしいとか、自分には縁がないとか言う前に、読むべきであった。
 或いは今思い出すと、自分が書こうとしている小説は歴史・経済・軍事・世界情勢などを扱ったもので、詩や恋愛小説なんかは参考にならない、と、上から目線だったかも知れない。
 あの頃の私は阿呆だった。
 折角誘ってくれた合コンの席で飛び切りの美人が居て、しかも米国からの帰国子女だったのに、その娘と何の接点を持てるでもなしに、唯、気不味いだけで終わったのだ。
 皆がチヤホヤとする中、私はその娘がネイティブな発音で「Bath room は何処」、と、隣の娘に訊いた瞬間、何だかからかってみたくなったので、ついつい余計なボケを繰り出した。
「それならココ出て、直ぐんとこにあっから。レディスサウナも仮眠室もあるよ」、と。
 一瞬の沈黙の後、「馬鹿、そっちのバスルームじゃねえよ。トイレのことだよ」、と、隣人が突っ込んでくれた後、その帰国子女以外が皆大笑いしてくれした。
 直後唯々帰国子女の彼女は戸惑い、自分がその場に取り残されたように、皆からかなり後れて、ぎこちなくお追従の笑みを零した。
 その娘には何も罪もないのに・・・・・。
 日本人の笑いが理解出来なかっただけなのだろうし、さぞかし気まずい思いをしただろう。
 私は取り戻そうとして、尚もギャグを連発。
 帰国子女以外には大ウケしたが、お目当てのその娘だけは心底笑っていなかったような気がする。
 今の私なら彼女が幼い頃に読んだであろうガース・ウイリアムズのうさぎの話をしたり、日本の恋愛小説の話をしたり出来た筈。
 しかしその頃の自分は尖っていて、女性の聴きたい話が出来なかったのだ。
 そして競馬依存症になったのである。
 もしあんな風に変に尖っていなかったら、と、後悔先に立たずである。
 とは言え詩と恋愛小説のお蔭で今日の私は、競馬の開催時間もパチンコ屋の閉店時間にも気付かずに今に到った。
 つまり今日の無事は詩や恋愛小説に感謝。
 そして明日の無事もノベルデイズのお蔭を以て確実であろう。
 やはり自分と180度逆のものには敬意を評すべきだ。
 否、と、言うより、過去の自分がそうすべきであったことをこそ、絶対に忘れてはならないのである。
 
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