第11話

文字数 1,111文字

 大阪教育大学という国立大学に受かった僕は多少強気になりながらも、恐る恐る祖父に一人暮らしをさせてくださいとお願いをした。少し遠いが実家からでも通える距離だったので、後から僕はもっと実家から遠い国立大学を目指すべきだったと思った。しかし学力的な問題といきなり地方大学に行く問題を秤にかけて無難に大阪教育大学を選んだ。一応教育大学だ。祖父の言う人の上に立てというか、権力を持ての考え方には一致している。だけど一流大学とは言えない。僕は祖父にまた暴力や罵倒されるのではと身構えたが、意外にも祖父は構わないとあっさり僕の一人暮らしを認めた。僕はやっとこのうちから逃げられる。祖父に認められたなら問題ないと思い、父と母に大学に入ったら一人暮らしするからと告げた。相変わらず父は興味なさそうにそうかとだけ言った。しかし意外だったのが母だった。何故か、猛反対をしたのだ。もう失いたくないと意味が分からないことを言いながら、半ば錯乱状態になっていた。矢早さんが自殺した後、我が家ではそのことに触れる者は誰もいなかった。その話題に触れることがタブーになっていたのか、そもそも事件がなかったかのような雰囲気だった。だが、僕だけでなく母も矢早さんの自殺には、自分自身で矢早さんを裏切って権力を選んだにもかかわらず、思うところもあったのかもしれない。そう思えば、母が権力を選んだことで母が失ったものは大きい。隣のA市に母の両親が住んでいるが、僕は一度も会ったことがない。多分、父との結婚で何かあって縁を切られたのだろう。それに祖父が女は嫁いで来たら、嫁ぎ先の家の家族になる。だからその家族を優先するのが当然だとか言っていたから、その影響もあり連絡も取れないのかもしれない。でもそのあたりは僕にはわからないことだ。それに矢早さんだけでなく周囲の友達たちも裏切った。他にも母が失ったものは数えきれないだろう。だがそれはもとはと言えば自分自身の権力欲のせいだ。今更後悔しても遅すぎる。一人暮らしに反対する母を祖父が殴って黙らせ、だれに向かって口をきいているんだ!! と一喝してその場は収まったが、そのとき僕は初めて祖父に抵抗する母を見た。父は母が殴られようとも相変わらず無関心だった。それ以降、母が僕の一人暮らしに反対することはなかった。それからは大変だった。入学までに物件を見つけないといけないのに、大阪教育大学の駅前は絶望的に何もなかった。自販機すらなかった。仕方がないので大阪教育大学前駅の隣の河内国分駅前で探すと駅前五分くらいのところにちょうどいい物件があった。徒歩圏内にスーパーもコンビニもある。僕はそこに決めて三月末には引っ越していった。
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