第7話   五年後の二人 1 

エピソード文字数 3,887文字



 ※

か~れ~ん! あ~そ~ぼ!
 ……ん? 何だこれ。
いるでしょ? 出てきなさいよっ!
 目の前に見える天井。
 何故か無性に懐かしく感じられた。




 俺は身体を起こす。すると視界の横から現れたのは聖奈のどアップ顔だった。

かれん! いつまで寝てるの? おきなさい。おきて私と遊ぶのよ!
 にやっとする聖奈に思わず逃げようとするが、腕を掴まれてしまう。




 あれ? ってか聖奈がやたら小さいぞ。
 小学生くらいに見える。



 ちっちゃい聖奈は、俺の身体を揺り動かして、布団から引きずり出そうとしていた。

 ってかここ。昔住んでた家じゃないか?





 そう思った瞬間、聖奈の身体がいつのまにか大きくなってて、俺に微笑みかけてくる。

「楓蓮。久しぶりね。私と遊ぼうよ」
 俺は無意識に頭を振り続けていた。が……聖奈はお構い無しに続ける
「何がいい? アンタに決めさせてあげるわ。プロレスごっこ?」
 ちょ! まて! いきなり出てきて何いいやがるっ!
「【大人のお医者さんごっこ】」
そりゃダメだっつうの! 今そんなのやったら卑猥すぎんだろ!
「じゃあ何がいいのよ!」
 ひっ! ま、待て。怒るな!
 やばい。顔が険しくなった聖奈は急にバイオレンスになっちまう。
 拳が急に飛んできたりするからマジでやばい。
「あっ! じゃあ【雪山登山遭難ごっこ】やろう!」
 それは絶対イヤだ! 裸になんてなりたくない!
 あれの何が楽しいんだよ。その遊びが一番理解できねぇし。
「裸プロレスとか?」
 勘弁してくれ! それはトラウマ1号の遊びだっつーの!
「【寝取られ奥さんごっこ】は? アンタが奥さん役ね」

 いっ! いぃ……いやぁ~~~!


 トラウマが……一番凶悪なトラウマがぁ!

「じゃあ男になって【きんきんすりすり】させてよ。見せなさいっ!」
 ああぁ……もう辞めてくれぇ~頼むぅ~~!
「【記憶喪失ごっこ】?」
「【恋人ごっこ】?」
「しょうがないわね。あんたの好きな【仲良しごっこ】がいいの?」 
 うぅ……め、めまいがする。
 頼む聖奈。もう……あの頃のトラウマを呼び起こさないでくれ。
「ねぇ楓蓮。覚えてる?」

 聖奈はそういうとニヤっとする笑顔が消える。

 

 その次に見せた表情は今まで見せた事のないような、赤ら顔だった。

「私が海外に引っ越す時。最後のお別れのとき……「

 その瞬間、俺は絶叫し、聖奈の声を掻き消していた。


 と同時に周りの景色が暗転し、気が付けば家の天井が見えていた。

ゆ、夢か……



  既に放心状態。冷静値はゼロ。ラスボスと死闘を繰り広げた挙句、全滅したような心境だった。



 やばい。あいつの夢を見るなんてマジ最悪だ。
 最悪すぎて学校を一週間ほど休みたくなってくる。 




 激しく嫌な予感がしまくってやばい。
 この夢が……正夢にならなければいいんだが。





 ※




 あいつが出てくる夢を見て、朝からテンション爆下げモードだった。


 とにかく隙を見せてはダメだという昔からの経験の元、クールに接しよう。




 覚悟を決めて冷静を装いながらも教室に入るが、聖奈は見当たらなかった。


 始業開始五分前でも現れない聖奈に、もしかして学校休むのかと思った。そんな妄想が広がり始めると、今日は安心して学校生活が送れる。そう思っていると――




 来た。教室に入ってから数秒で始業開始のチャイムが鳴る。 そして自分の席に座ろうとすると聖奈に挨拶される。



「おはようっ」  

「……おはようございます」
美神さん。おはよございます~
おはようございます。時間ギリギリでしたね

 普通に微笑を浮かべる聖奈に、なんとか愛想笑いを発動して返事を返す。


 染谷くん。白竹さん。西部くんと一通り挨拶しているのを見届けると、俺はごく自然に机に顔を埋めていた。




「黒澤くん。どうしたの?」
「あ、いや。なんでもないんだ。ちょっと夜更かししちゃって眠くって」



 ってか今のは何なんだろう。
 聖奈は何であんな顔をするんだ?




 まるで俺の事など知らぬ存ぜぬといった微笑に困惑していると、その理由を色々と考えてみた。そして俺の脳内ではじき出された回答は……




 こいつ。もしかして……

 俺との昔話は一切封印して、俺のようにこの高校生活で生まれ変わろうとしているのか?




 いや。それならそれで「昔の事は内緒よ。言ったら殺す」みたいな事は言ってきそうなものなのだが……

 



 まぁいい。向こうが俺とのコミニュケーションを取らないのなら、こちらからは動かない。静観するのが正解ではないのか?




 大人しくしてくれるならこちらも都合がいいし、下手にアクションを起こすのは無謀だ。隣の席だから最低限の対応だけでいい。




 よし。ほっとこう。触らぬ神に祟りなしって言うじゃないか。




 ※

 そんなこんなで三時限目の休憩時間だった。
「それでさ、もし良かったら俺とライン交換しねぇ?」
「イヤよ」
「そ、そう……じゃあ電話番号は?」
イヤって言ってるじゃない。何でアンタに教えないといけないのよ!


 西部くんが聖奈に対し突撃していたが速攻撃沈していた。

 ってか西部くん。ラインを断られたのに、番号を教えてくれる訳ないと思うぞ。

 


 聖奈は好き嫌いがハッキリしてるからな。あんまり怒らすと顔面にグーパンチが飛んでくるぞ。超痛てーから気をつけろ。


 

 しかし……西部くんに対してキレ気味だった聖奈の声を聞いて、俺までビビってしまったのはなんとも情けないと思ってしまった。



 やっぱりコイツが俺に植えつけたトラウマは相当根深いと再認識した。身体が完全に拒否ってやがる。





じゃああの、白竹さん? もし良かったら俺とステディな関係になりませんか?
へぇ? わ、わたひ? い、いえ、あの……

昨日確か、ラインの返事は今日するって言ってたでしょ?

な~に。俺はそんな悪い男じゃないし。大丈夫っすよ。それに俺とステディな関係になれば……「

うるさいって言ってるでしょ! どこか行きなさいよアンタっ!

ひぃ!

 まぁ、今のは……西部くんが悪いな。

 

 白竹さんは完全に引いてたし、聖奈が止めなければ俺が止めに入ってただろう。

西部くんが撤退したあと、白竹さんが聖奈に「ありがとう」と感謝を伝える。


すると聖奈は普通の声で「あんなヤツの相手しなくていいわよ」と一蹴。これにはクラスの面々が聖奈に注目した。


そんな中……小さな声で聖奈に話しかけるのは、染谷くんだ。

美神さん。じゃあ僕や黒澤君、白竹さんとライン交換しない? 遠方繋がりでさ

 染谷君! それは無謀だぞ。チャレンジ精神旺盛すぎる。


 さっきの聖奈を見なかったのか? 怒らすとマズイって。それにいくら遠方組といっても、聖奈はそんな事で動く人間ではない。





…………
 何故か聖奈は無言のまま、俺を一目見た後……
わかったわっ。

 



 な、なんだと?




 あああっ……染谷くん。

 き、君の好意は分かるが……こればかりは笑えない。



 あっさりとライン交換が成立すると、遠方組に聖奈が加わってしまう。


 



よろしくねっ
こちらこそ。仲良くやりましょう!
よ、よろしくおねがいしましっ!


 しかも俺に対してもう一度「よろしくね」とやんわり微笑を下さったのだ。その顔を見て俺は反射的に窓側を向いてしまっていた。




 な、何だあの顔は。新たな攻撃なのか?

 あの悟りを開いたような顔は何だってんだよ。初めて見るぞ。

 俺の知らない間にそんなスキルを身につけたってのか?


  

 などと考えていると、俺の背中を引っ張る聖奈に一気に震え上がっていた。


(何だよこいつ。何を素でこっち伺ってんの?)


 恐る恐る聖奈の方に向き直ると、少し顔を傾げて不思議そうに見ていた。

 しかも頭上にハテナマークを浮かべてやがる。



 なに? その心配してそうな顔は。

 またまたニューフェイスで攻めてくる聖奈に、俺の脳内司令部がパニックに陥っていた。



 なんだ。なんなんだ? 今までのこいつとは一味違う。ってか違いすぎる。



 何を考えているか分からないだけに、視線を逸らせずにいると、こともあろうか俺は……




 そんな不思議そうな顔をする聖奈に……

 不覚にも……ちょっと可愛くなったな。などと思ってしまった。



 バカか俺は。分かってんのか? あいつは聖奈だぞ!

 血迷いすぎだろ! 逆流してんじゃねーよ!




 即座に教壇へと顔を固定させると同時に、一瞬でもアイツが可愛いなどと思った自分自身にショックを受けていた。


 ……ありえねぇ。

 何がどうなって聖奈を可愛いと思ったのか理解不能だ。



 認めたくなかった俺は、横目でちらっと聖奈を見ると教壇を向いているようなので、ふと顔を横にやってみると、またまた視線が合ってしまう。



なに?
あ。いや……何も
ん~?
「……うあっ」

 思わずそう漏らした理由とは、聖奈が頬杖をついて、こちらににこっと笑顔を見せたのだ。

 

 昔ならその笑顔に恐怖するはずなのに、不思議とその笑顔を見ていると、急に「どうしたの?」と突っ込まれてしまう。



 無意識に顔を震わせていた。するとその様子を見た聖奈は「ふふっ」と笑いやがるのだ。その時、ふと頭を過ぎったのは……



 聖奈は聖奈なのだが、何だか雰囲気が違う。


 あの聖奈が……常識人に当てはまるような真人間になってるじゃないか。


 まてまて。冷静になれ俺よ。たったこれだけの情報で真人間と決め付けるのは早計すぎるぞ!


 

――――――――――――――――――――――――



 登場人物紹介


 西部。


 蓮と同じクラス。席は中央の列から二番目。


 白竹さんや聖奈のラインを聞き出そうとするが、全く相手にされていない。

 

 高校に入ってから、彼女をゲットしようと奮闘中。


 高校シーンではよく出てきます。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色