4 昼間

文字数 509文字

結局俺はデリバリーにはついていかず、そのままお店に独りきり。窓際に残された彼岸花を見つめ、何となく親近感を覚えた。群生を離れた君はまるで。


開店時刻を迎えても、追い出されることはなかった。暖簾の隙間から、カフェの様子を覗き見る。老若男女、客層は幅広く、和やかで穏やか。舌鼓を打ちながら、満たされる幸せを噛みしめている。
これはきっと、啓大さんの人柄が叶えたものだろう。

ランチタイムのピークを超え、ティータイムに切り替わる午後三時。ランドセルを背負った少女が一人、カウンター席によじ登る。親と待ち合わせだろうか。気になって様子を窺っていると、カウンターに広げられる漢字ノートと筆記用具。

洗い終えたコーヒーマグを拭きつつ、啓大さんは言った。
「美羽ちゃん。算数のテスト、どうだった?」
「七十点取れたよ!」
「すごい、前より上がったね。今日は特別にチョコクッキー大盛りにするね」
「わあいっ」

はしゃぐ少女を見守る横顔。俺はそこに、家族の温もりを見た。居た堪れず、二階に逃げた。


***


これが本物の記憶か、或いは夢の一部か、定かではない。
片手には紅い花、もう片方にはあなたの大きな手。瞳の奥で消えずに残る、孤独な背中。


『大丈夫だよ。有斗』

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