第24話
文字数 1,372文字
☆
真奈美は部屋の中で、負傷した加奈子のことを思う。
まだ、加奈子は帰ってこない。
凛々子は、偵察に、詩音のインストアライブに行ったらしい。
部屋には、下の階のリハスタから振動と楽器の音が木霊する。
楽器の音と、ドラムなどの振動音を聞きながら、真奈美は思うのだ。
メディアが報道するこの街の楽天さは、果たして皆がそう感じているのか、と。
バラエティや、食文化、各種カルチャー、その最先端がこのトウキョウが発信源で、それに関わる人間が紡ぎ出すのは、楽天的なメッセージだ。
そこに関わる人間は、このオプティミズムを喧伝する。
だから、街も、この国のどこの地域も真似できないほど、色鮮やかだ。
しかし、ここに住む住人は、どこか抑圧的で、『光』に対し『憎しみ』があり、どぶ臭い路地や、たばこ臭いこの渋谷を形作っている。
その憎悪の感情で動いている二律背反が、この街のありようで、そしてそれは自分も同じなのだ、と。
倉敷真奈美もまた、この二律背反で引き裂かれそうなひとりなのだ、と。
世界には、憎しみの連鎖が渦巻いているし、その渦をつくっている小さい歯車の一端は、自分なのだ。
真奈美は、そう感じた。
感じながら、コタツに潜る。
今日も、布団ではなく、リビングで加奈子が帰ってくるのを待って眠る。
リビングにいれば、加奈子が帰ってきても、すぐわかるから。
真奈美は、コタツで眠りに落ちた。
☆
いつも盛り上がっているように思えるこの街の熱気は、本物なのだろうか。加奈子は疑問を抱く。宣伝、喧伝している「盛り上がっている」と称されるその内容は、本当に本物なのだろうか。とはいえ、なにが本物で、なにが偽物なのか。その境界線はあまりにも曖昧で、加奈子にはわからない。
宣伝されて形作られるブーム。それはマスメディアが今は主導だけど、じゃあ、みんなが個人個人で言葉を配信出来れば、それは本物だと言えるのか。それもなにか、違うような気がする。マスコミュニケーションの力学は、そんな一枚岩ではないし、個人個人の送受信可能になった世界では、情報のゲリラ戦が繰り広げられるはずだ。そこには、どれが本当なのかという所在が、もっともっと不明瞭になるはずだ。
宣伝。広告塔。
加奈子は今、代官山にいる。代官山の路上に堂々と張り出された、志乃詩音の、CMタイアップ曲の看板の、その目の前にいる。今は昼間。だから、この看板を真っ赤に染め上げたい気持ちを、必至に抑えているのだ。
加奈子が代官山を出てまっすぐ向かった先は、ショップ『ハイパーマーガリン』だった。
店先には店長のラッパー、マーガリンがいる。挨拶するとマーガリンは、
「おお、嬢ちゃん。まあ、入れよ。みんないるよ。昨日の今日で渋谷の事件が消えたわけじゃないし、ぴりぴりしてるよ。CLUBイベントは危険だって認識がマスコミで広がってる。もうこの街でイベントが出来なくなる可能性だってある。オーディエンスにとっては楽しむ場所が『この街である必要』は特にないわけだし、……渋谷封鎖ってわけだな」
加奈子はマーガリンに、話を持ちかける。
「大きなこと、しませんか? 大きくアートなことを」
「アートなこと? 話、聞こうじゃないか」
真奈美は部屋の中で、負傷した加奈子のことを思う。
まだ、加奈子は帰ってこない。
凛々子は、偵察に、詩音のインストアライブに行ったらしい。
部屋には、下の階のリハスタから振動と楽器の音が木霊する。
楽器の音と、ドラムなどの振動音を聞きながら、真奈美は思うのだ。
メディアが報道するこの街の楽天さは、果たして皆がそう感じているのか、と。
バラエティや、食文化、各種カルチャー、その最先端がこのトウキョウが発信源で、それに関わる人間が紡ぎ出すのは、楽天的なメッセージだ。
そこに関わる人間は、このオプティミズムを喧伝する。
だから、街も、この国のどこの地域も真似できないほど、色鮮やかだ。
しかし、ここに住む住人は、どこか抑圧的で、『光』に対し『憎しみ』があり、どぶ臭い路地や、たばこ臭いこの渋谷を形作っている。
その憎悪の感情で動いている二律背反が、この街のありようで、そしてそれは自分も同じなのだ、と。
倉敷真奈美もまた、この二律背反で引き裂かれそうなひとりなのだ、と。
世界には、憎しみの連鎖が渦巻いているし、その渦をつくっている小さい歯車の一端は、自分なのだ。
真奈美は、そう感じた。
感じながら、コタツに潜る。
今日も、布団ではなく、リビングで加奈子が帰ってくるのを待って眠る。
リビングにいれば、加奈子が帰ってきても、すぐわかるから。
真奈美は、コタツで眠りに落ちた。
☆
いつも盛り上がっているように思えるこの街の熱気は、本物なのだろうか。加奈子は疑問を抱く。宣伝、喧伝している「盛り上がっている」と称されるその内容は、本当に本物なのだろうか。とはいえ、なにが本物で、なにが偽物なのか。その境界線はあまりにも曖昧で、加奈子にはわからない。
宣伝されて形作られるブーム。それはマスメディアが今は主導だけど、じゃあ、みんなが個人個人で言葉を配信出来れば、それは本物だと言えるのか。それもなにか、違うような気がする。マスコミュニケーションの力学は、そんな一枚岩ではないし、個人個人の送受信可能になった世界では、情報のゲリラ戦が繰り広げられるはずだ。そこには、どれが本当なのかという所在が、もっともっと不明瞭になるはずだ。
宣伝。広告塔。
加奈子は今、代官山にいる。代官山の路上に堂々と張り出された、志乃詩音の、CMタイアップ曲の看板の、その目の前にいる。今は昼間。だから、この看板を真っ赤に染め上げたい気持ちを、必至に抑えているのだ。
加奈子が代官山を出てまっすぐ向かった先は、ショップ『ハイパーマーガリン』だった。
店先には店長のラッパー、マーガリンがいる。挨拶するとマーガリンは、
「おお、嬢ちゃん。まあ、入れよ。みんないるよ。昨日の今日で渋谷の事件が消えたわけじゃないし、ぴりぴりしてるよ。CLUBイベントは危険だって認識がマスコミで広がってる。もうこの街でイベントが出来なくなる可能性だってある。オーディエンスにとっては楽しむ場所が『この街である必要』は特にないわけだし、……渋谷封鎖ってわけだな」
加奈子はマーガリンに、話を持ちかける。
「大きなこと、しませんか? 大きくアートなことを」
「アートなこと? 話、聞こうじゃないか」