第2話(9)

エピソード文字数 2,732文字

「では………………きいや! 『虹色(にじいろ)の起源(きげん)』!」

 レミアがしたように右の手を横に伸ばすと、古木で出来た魔法の杖が顕現する。どうやら彼女は、魔法使いの力を得た勇者魔法使いのようだ。

「ゆーせー君、ここでプチ情報(じょーほー)ですー。フュルちゃんは唯一(ゆーいつ)、狙った職業(しょくぎょー)を引けたんだよっ」
「接近戦ばかりしてたから、中~遠距離のスペシャリスト先生になりたかったがよ。約1年も勇者をやってたら、そういう戦い方に飽きちゃったがよね」

 それは『も』ではなく、『たった』だろ。も少し勇の者をしときなさい。

「前線でガンガン戦うのは、卒業。これからは、後方でガンガン戦う――と言ってたら、もう戦闘が始まりよった」
「サンゴウの、タメ。オマエをチマミレにスル!」

 コイツらは、怒りでパワーアップする種族なのだろうか。右側の大男が筋骨隆々になり、一匹目より遥かに速い速度で接近してくる。

「コのジョウタイのオレに、カテルやつはイナイ。サア、シネ!」
「あーあ。その台詞、坂本先生に負けた敵先生にそっくりぜよ」

 フュルは肩を竦め、杖の先端をヤツにかざす。

「師匠、瞬き厳禁やきねっ。くらいや、『緑(みどり)の呼吸(こきゅう)』!」

 そう唱えると得物の先から三日月型の風の刃が飛び出し、「アギ!」高速で獲物を切断。仰る通り瞬きすると見逃してしまうくらい、あっさり逝った。

「圧倒的だなぁ。あの刃、切れ味バツグンだね」
「ちっちっち、もうちょっと強いのを使ったらもっとすごいがで? なんと、空間すらも切れるんぜよ!」
「にゅむっ、フュルちゃんあそこっ! 空間(くーかん)さん少し切れてるー!」

 よくよく見てみると、前方の景色が破れたようになっていた。
 この魔法……。形は月並みだが、威力はちっとも月並みじゃないな。

「おっと失敗。あの場所は、強度が弱いがやね」

 空間破壊者フュルはてへへと笑い、「あそうそうぜよ」と仰った。
 んん? なんぜよ?

「ああいう切れ目に触れたら、空間の狭間に吸い込まれるがよね。脱出する力がない師匠は、気を付けてや」
「……俺さ……。今迄数々の注意事項を聞いたけど、こんなの初めて」

 魔王も勇者も、おっかない。改めて、コイツらが悪いヤツじゃなくてよかったと思うなぁ。

「ニ、ニゴウマデ……。ヒ、ヒィィィ……っ。ニゲ、る……!」
「こらこら、逃亡はさせんきね? てやっ」

 フュルは杖をぶん投げ、ソレは大男の後頭部にヒット。ゴンっという鈍い音がしてヤツは崩れ落ち、バトルはあっという間にお仕舞となりました。

「今の、ちっとも魔法使いらしくない……。やるなら、魔法で気絶させなさいよ」
「あのレベルにそうできるのは、ワシにはないがよね。一番弱い魔法でも即死ぜよ」
「こっちもステータスが異常っ。バケモンがいるっ!」

 こういった理由で捕縛できないケースは、初耳。段々、『普通』がわからなくなってきたぞ。

「そりゃ力をくれた伝説の魔法使い先生も、全次元1やったきねぇ。こういう感じになってしまうがよ」
「魔力の量(りょー)は、一般的な魔法(まほー)使いさんの1兆倍だったかなー。全魔力を一気に解放したら、神界も崩壊(ほーかい)しかねないらしーよ」

 そうですか。そんなとこまで被害が及ぶんですか。
 よし。頭が痛くなってきたから、この話はここいらで止めよう。

「……ねえ、フュル。それはそうと、アイツをどうするの?」
「英雄襲撃が個人の意思か一族の意思かを調べるため、起こして聴取してくるぜよ。もし後者だったら、一族に警告しないといかんがよね」

 フュルはポッケからメモ帳を取り出し、『国のルール※忘れず実行するぜよ』と書かれているページを読み上げた。
 ちなみにそこにある漢字は、全てルビつき。勇者魔法使い、十六歳なんだから『調べる』とかは要らんでしょ……。

「では、ちょっくらやってくるき。その間にレミア先生は、ルールブック2ページ目のあれをやっちょくがで?」
「にゅむぅ……。んっ」

 レミア先生はショボンと頷き、呆れていた俺にギュッと抱き付いた。

「お、おいっ? レミア?」
「…………ゆーせー君。魔王(まおー)使いさんの契約(けーやく)を、なしにするよー……」

 それは、まさしく晴天の霹靂。彼女は涙声で、予想だにしなかった言の葉を紡いだ。

「あたしが近くにいたら、ゆーせー君にご迷惑(めーわく)がかかっちゃう。ゆーせー君には平和に暮らしてほしーので、解除します」

 この子が傍にいたら高確率で、二度目三度目が発生するからな。凡人としては、そうしてもらえると助かる。

「短い間だったけど、とっても楽しかったですー。素敵な時間をありがとーございましたっ」
「まぁ、こっちも楽しかったよ。非日常的な体験ができて、いい思い出になりました」
「にゅむ、そう言ってくれると幸せだよー。バイバイね、ゆーせー君」
「…………あー、なんだ。これで一生離れ離れ、ってワケじゃないでしょ?」

 俺は頭をポリポリ掻いて、彼女の肩に手を載せる。

「にゅむ? にゅむむ?」
「フュルは、時々土佐弁を習いに来るんでしょ? だったらその時、一緒においでよ」
「にゅむぅっ! いー、の?」
「その程度なら巻き込まれはしないだろうし、キミは良い人間だ。客人、あるいは数時間限定のメイドさんとしてなら、大歓迎だよ」

 ちょくちょく会うなら、全然OK。むしろ、会いたいと思ってます。

「ゆーせーくん……! だから大好きなんだよーっ」
「ははっ、アナタはホント無邪気だよなぁ。ずっとそのままでいてよね?」

 俺は右目を瞑って小さく笑い、若干後退。長引かせたらやりにくくなるので、ここらで契約解除を行うことにした。

「ゆーせー君。やってくださいっ」
「ああ。いくよ?」

 大きく息を吸って吐き、精神を統一。意識をしっかりと集中させ、レミアを正視する。

「俺、色紙優星は……。魔王、黒真レミアとの契約を――」
「タイムぜよっ! ストップしてや!」

 俺らが見つめ合ってると、ぜよぜよ、でお馴染みのフュルさんが割って入ってきた。
 もう、感動のエンディングだったのに……。なんなの?

「弱ったぜよっ。大問題発生ながぜよっ」
「ど、どした? なにが起きたの?」
「聴取してたら、衝撃の事実が発覚したがっっ! 実は…………」

 じつは? なに?


「やつらが狙っちょったがは、レミア先生じゃなくて師匠っ。師匠の中にある、『チェンジ・マナ』を欲しがっちゅうがよ!」
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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