BLUEMOON

文字数 1,330文字



 いままで個人経営だった「BLUEMOON」は梨花が加わった時点で、会社登録をした。したものの、事業内容はいままでと変わりなくこじんまりしたものだった。
「どうせやるなら、事業計画を立ててちゃんとやりなさい」
 常務命令が出た。マイは、コンサルが入ってくれるならそれはありがたいといった。自分も素人考えで、手探りだったからという。運よく、ネットやキャバ嬢たちの口コミで人気が出たもののこのままでは、先行きが不透明だ。
 ネイルチップの売り上げも好調だ。けれど梨花ひとりでは作る数にも限界がある。毎週月曜日にオンラインショップにアップすると、すぐに売り切れになってしまう。客が待っている状態だ。量産できればそれは解決できるし、さらなる売り上げも期待できる。
「そこら辺の問題点をあげて、解決を図ってもらおう」
 じつは、と前置きしてマイがいう。
「そのうち、ニューヨークに移住しようと思ってるのよね」
「ええっ?」
「わたしたちの夢なのよ。ニューヨークで活動するの」
「そうなんだ……」
 梨花は不安になる。マイがいなくなってしまう。そうしたらこのサロンはどうなるのだろう。たたんでしまうのだろうか。わたしはどうしよう。顔に出ていたのだろう。
「だからね、それまでにこのサロン、もっと大きくして梨花に引き継いでもらおうと思ってるの」
「え?」
 いきなりの申し出に面食らう。
「スタッフも増やして、ネイルチップも外注して数を増やせればいいな」
「タトゥーは?」
「タトゥーは店じまい。移住する時点でBLUEMOONは閉めるつもりだったんだけど、梨花がいるならネイルのほうは続けてもらおうかと思ったの。いやならいいけど」
「いやっ。やる! やらせて!」
「梨花ならそういうと思ったわ」
 と、マイはにっこりと笑った。
 さっそくサロンにはネイリストをひとり雇った。香苗という二十代半ばの彼女は、センスもよく技術もしっかりしていた。はきはきとした物言いで、裏表のなさそうなところがマイも梨花も気に入ったのだ。
「彼女なら、わたしがいなくなってもふたりでうまくやっていけそうね」
 マイは安堵の息を吐く。
 それから、ネイルチップの外注。ホームページとSNSで募集をかけると、結構な人数の応募があった。その中から厳しいチェックをクリアしたふたりに発注することにした。そうなると、発送にもそれなりに手間がかかる。専任のバイトを雇うことにした。
 素人には思いもつかない提案をコンサルは次々提示してくる。おかげで、いままで滞っていたものがスムーズに流れ始めた。
 リカコレクションは、シンプルだけれども清楚で華のあるデザインが会社勤めの女子に人気が出て、SNSで拡散された。それにともなって、自然とサロンの予約も殺到する。
 最初に掲げた売り上げ目標は、二か月目には達成し、コンサルは次なる目標を提示してくる。達成するとまた次。なにやらコンサルに踊らされている気がしなくもないが、マイはできるところまでやってしまおうと自ら踊りにいく。
 二年目には、驚くほどの売り上げを達成してしまった。サロンとオンラインショップの二本柱で経営は成功ということだ。
「なんだかこわいわね……」
 梨花がつぶやいた。
「梨花のお父さんの希望だそうよ」
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