第11話 空中庭園

文字数 778文字

「今日はうんと楽しもうね」
「えいえいおー」
 せいちゃんが右手を高く上げる。明るい笑顔に、私はほっとする。
 私たちは、電車に乗って、少し離れた街まで来ていた。からっとした、さわやかな天気。ときおり吹く風が、気持ちいい。
 都会の駅は、迷路みたいだといつも思う。案内図を見て、エスカレータを上へ、上へと進んでいく。一個目、二個目、三個目……。どこまでも、どこまでも続いていく気がする、くらいには高くまで上がっていく。
 やっとゴールだ。いくつかのエスカレータを乗り継いで、ようやく目的の空中庭園へと辿り着いた。
「おおー、きれい」
 感激したように目を見開くせいちゃん。白髪が、さらさらと揺れる。光の当たり方でキラッと輝いて、やっぱりなんだか神秘的だなあ、と思わされる。
 さっきより太陽に近づいたけれども、ちょっとひんやりとする涼しさだ。別の季節に移動したみたいな、不思議な気分におそわれる。
「こないだの公園より広いね!」
「ねー」
 公園の、所狭しと咲く感じもいいけれど、広々とゆとりあるここの庭園も、また違った綺麗さがあるな、と思った。
 真ん中の噴水に向かうように、澄んだ水が流れている。色合いがコントラストになっているおかげで、お花がいっそう鮮やかに見えた。
 上空には青い空が広がる。見上げると、ひとかけらの雲が、ゆったりと流れている。きらぎらと太陽の光が眩しい。
「ねえ、聖良、見てみて」
 ちょっと前を行くせいちゃんが、私を手招きする。
 ガラス越しに、遠く遠くまで景色が見えた。足元の建物はおもちゃみたいに小さくて、道を歩く人々は、もっともっと小さく見える。
「あれ、船?」
 せいちゃんが指差す方を見る。みなもを行く一艘の船。小さく見えても、どこか力強い存在感がある。
「あー、そうだね」
「せいか、船乗りたい!」
「そっか、それじゃ、今度は船に乗ってみよっか」
「やった!」
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