#04 小さな靴の力

文字数 1,252文字


 ノエルは小さな小さな靴をなくさぬよう、小さなビンの中に入れました。


妖精だって? バカバカしい、僕は信じないよ。
私は信じるわ。きっと人間の住む世界に興味がある、好奇心(こうきしん)旺盛(おうせい)な妖精よ。ニコラ、知ってる? 妖精にも、いろんな種類がいるのよ。人間と同じくらいの大きさの妖精もいれば、小人のように小さな妖精もいるの。あと、人間にイタズラする妖精や警戒心の強い妖精もね。
ふうん。僕には、だれかが投げた“人形の靴”にしか見えないけどね。
“人形の靴”ですって? そんなはずないわ。だって、上から落ちてきたのよ。しかも、空からっ!
ノエル、君がそこまで言うのなら、妖精が本当に()()()()()か、()けようじゃないか。妖精がいなかったら、僕が“兄”だからね。
わ、わかったわよ。
よしっ、やったぁ!


 外はいつの間にか、じゅうたんを敷き詰めたかのように、真っ白に染まっていました。


 リゴーン、リゴーン……。


 8時を告げる鐘が響き渡ります。

 ふたりはまた目を閉じ、鐘の音にじっと耳を傾けました。

僕も晩餐会に行きたいな。ねぇ、僕たち、いつになったら晩餐会に行けるのかな?
もうちょっと大人にならなきゃ無理よ。
“もうちょっと”って、あとどれくらい?
そんなのわからないわ。とにかく、そのタキシードが似合う大人になるまでは無理よ。
そっか、一気に大人になれればいいのに……。
あははは。いくらなんでもそれは無理ってもんよ。
 ノエルがそう言ったときです。

 ニコラの体が、みるみる大きくなっていくではありませんか!


えっ……?
ノエル、どうしたの?


 ────不思議なことが起こりました。


 ニコラは、まだ気づいていないようです。


ど、どうしたのって、それ私が聞きたいわ。ニコラ、鏡を見てごらんなさいよ!
鏡?
早く!


 自分の身に起きたことに気づいていないニコラは、しぶしぶと鏡の前に立ちました。


 すると、どうでしょう。


 鏡には、タキシードをビシッと決めた、りりしい青年が映っています。

もしかして、これ僕?
鏡に映る自分を見て、ニコラは頬をつねりました。
……痛い。これ、夢じゃない! 僕、大人になっちゃった!!
………。


 ニコラは大はしゃぎです。

 はしゃいでいたかと思うと、今度はお父さんのように腕を組んで、鏡の前でうなりだしました。
う~ん。僕はどう見たって立派な大人なんだけど、なんか物足りないなぁ…。あっ、(ひげ)だっ!! お父さんのように鼻の下に髭を生やしたら、僕は完璧な大人だっ!! ああ、髭がほしいなぁ……。
 ニコラがそう言ったときでした。



 ノエルの手もとにあった小さな靴が、ビンの中でキラリと光ったのです。


 靴が光った途端、ニコラの鼻の下に、お父さんのような立派なお(ひげ)がみるみると生えてくるではありませんか。


わぁ、ノエル見て見て!
 ニコラはまた大はしゃぎです。


この靴……。

(きっと、この靴の力だわ!)


 ノエルは、この小さな小さな靴に不思議な力があることに気づいたのです。


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登場人物紹介

ノエル


おしゃまな女の子

ニコラ


いたずら好きの男の子

大人になったノエル

大人になった二コラ

妖精

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