第3話 地球へ迫る危機(俳句的な)

文字数 1,450文字

「なるほど。要約すると、その縊木崩斎(くくるぎ ほうさい)という悪の組織のボスが、邪悪な俳句を使って、宇宙を支配しようとしているわけですね?」

 紅妻(べにづま)ハヅキはアスハ・レイから聞いた話を簡潔にまとめてみせた。

「俳句を悪いことに使うなんて、許せない……!」

 蝉川(せみかわ)ナギは(こぶし)(にぎ)り、(くちびる)をかみしめた。

「ナギの言うとおりだ。サク、仮にも俳句アイドルとして、ここは俺たちが彼女に力を貸してあげるべきじゃないのか?」

 降星(ふるほし)ギンガは咲良(さくら)サクに提案をした。

「……」

 サクは目をつむったまま何も言わない。

「サッくん! アスハさんに協力してあげようよ! 俳句で宇宙を支配するだなんて、絶対に止めなきゃダメだって!」

 ナギはそう申し出た。

「いや、それはやめたおいたほうがいい……」

「サッくん……」

 サクの意外な言葉に、ナギは肩を落とした。

「おい、サク。どういうことだ?」

 ギンガがサクに食ってかかった。

「ナギ、ギンガ。サクは僕たちを危険な目に合わせたくないんだよ。どうかわかってあげてほしい」

 ハヅキがギンガをたしなめた。

「ハヅキくん……」

 ナギはハヅキを見つめながら、サクの気づかいをすまなく思った。

「すまねえ、ハヅキ。そういうことだ、ナギ、ギンガ。俺は仮にもはいぷり!のリーダーとして、お前たちにそんな危ねえ橋を渡らせるわけにはいかねえんだ。どうかわかってほしい」

「サク……」

 サクの考えに、ケンカごしだったギンガは自分を恥じた。

 一連の流れを見ていたアスハ・レイの胸中(きょうちゅう)は複雑だった。

「ごめんなさい……わたし、宇宙を救う使命のことで頭がいっぱいで、あなたたちの気持ちなんて、考えてもいなかった。本当に、ごめんなさい……」

 彼女は素直に釈明(しゃくめい)をした。

「アスハさん……」

 ナギは悲痛な気持ちだったが、サクの心づかいもあるので、どうしたらいいかわからずにいた。

 そのとき楽屋のテレビから突然、下劣(げれつ)奇声(きせい)が響きわたった。

 街の映像が映し出されると、高層ビルのてっぺんに、ピエロのようなかっこうをした怪人が仁王立(におうだ)ちしている。

「アスハ・レイ! 聞こえてるな!? てめえがこの星に来てることはわかってるんだぜ!? とっととツラあ出しな! このジグザグ・ロウさまが直々(じきじき)に始末してやるからよ!」

 ジグザグ・ロウと名乗ったそのピエロは、アスハ・レイに警告した。

「アスハ・レイ! おとなしく出てきたほうがいいぜえ。でなきゃな……」

 彼は(ふところ)から短冊(たんざく)を取り出した。

(むし)どもを ()()くしては (いか)りの()

 白いキャンバスに墨文字(すみもじ)が浮かびあがった。

「な、何をする気だ……?」

 ギンガがテレビを見つめていると、次の瞬間、高層ビルの一角(いっかく)が大爆発を起こし、ついで通行人たちの悲鳴がこだました。

「な、なに、これ……」

 ナギの顔は恐怖に凍りついている。

「これが闇俳句(やみはいく)よ。悪の俳句結社・黒桜会(こくおうかい)の操る技で、()んだ句を自由自在に具現化できるの」

「何という、ことを……」

 アスハの説明に、ハヅキは愕然(がくぜん)とした。

「はっは~! どうでえ、俺さまの闇俳句は! アスハ・レイ! さっさと出て来ねえと、この街が火の海になっちまうぜえ!?」

 ジグザグ・ロウは滑稽(こっけい)なダンスを踊りながら大笑いをしている。

 アスハは覚悟を決めた。

「行かなきゃ……」

「待ちな」

 (きびす)を返そうとしたところを、サクがその手をつかんだ。

 彼は振り返り、仲間たちを見つめた。

「お前ら、俺と心中(しんじゅう)する覚悟はあるか?」

 ナギ、ハヅキ、ギンガの全員が、何も言わずに深くうなづいた。

「決まったな、行くぜ……!」

 俳句戦士の伝説、その始まりの瞬間だった――
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