6.ヤマト
文字数 1,885文字
窓の外はさっきまでビルがひしめき合っていたはずなのに、いつの間にか山と海に変わっていた。トンネルを何度もくぐった。トンネルをくぐるたびに世界が変わっていく。
俺はなにしに行くんだろう。
電車が大きく揺れる。自分の意思など関係なくどんどん突き進んでいく。
どこに向かっていくんだろうか。
そもそもは、小さな好奇心だった。千秋にやたらと執着するあのファン。何故あんなにも執着するのか知りたい、という好奇心。千秋はファンに何か求められるとなんの躊躇もなくそれに従う。良いか悪いかは置いといて、それがファンの勘違いを生む。
それにしてもあのファンは勘違いの域を超えている。一度千秋がそいつに今までしてきた苦労話をしたことがあるって言ってたっけな…。
それが良くなかったのかもしれない。
自分が守ってやらなければと、謎の使命感が生まれてしまったのかもしれない。
気持ちはわからなくもない。千秋は上手にチャキを演じているが、内心はひどく怯えてるはず。
ずっと横で見てきたからわかる。
強気な性格だがふとした時にふと不安で表情が曇ることがある。
俺たちは何をするのにも一緒。幼い頃から俺たちは「セット」で生きてきた。
千秋の瞳は大きく、肌は陶器のようで、昔からその華やかさで周りの人を魅了してきた。
それは「セット」のかたわらである自分にとっては誇りであった。千秋の輝きを邪魔しないよう、自分はあえて全身黒一色にする。
俺の顔が見えると千秋の顔がぼやけてしまうから、帽子は深々かぶるのがマイルールだった。
皆にこの輝きを知ってもらうのに地下アイドルという職業を選ぶことが最善だったのか。
あのファンがくるようになってからはその疑問が心の中で強くなった。
誰かに家までつけられている。怖くて1人では家にいられない。
千秋がそう言い始めたのがつい一ヶ月前。警察に相談しても、まだ何も起きてないから何もできないとつきはなされてしまった。
それからは俺の家で過ごすようになった。
千秋が自分の家にお気に入りの服を忘れたと言っていたので昨日代わりに家まで取りに行った。
家の玄関前、小刻みに揺れる人影が見えた。インターホンを鳴らすわけでもなくただ小刻みに揺れている。電柱裏に隠れてしばらく様子を見ることにした。
目をこらすと足元が真っ赤に染まっていた。
ああ、やっぱりあいつだ。あのファンだ。
玄関ドアの横にある磨りガラスの窓をこんこんと叩き出し、どんどんその音が大きくなっていった。
こんこんこんこんゴンゴンゴンダンダンダン
窓を叩きつけながらアーだかウーだか言葉にならない奇声を発し始めた。
窓がわれそうなくらい思いっきり叩きつけ続けた。
何事かと周りの住民が寄ってくると、そいつは何を言うわけでもなく脱力した土気色の顔を横に降りながらフラフラとどこかに消えていった。
千秋を家に1人で残している事が不安になりお気に入りの服は諦めて急いで家に帰った。
警察は何もできないから、俺がなんとかしなくてはいけない。あいつを絶対千秋に近づけてはいけない。そう思い、知り合いに興信所に勤めている人がいたので急いでそいつの身元調査をお願いした。
すぐわかったことは実家の住所と連絡先くらいだった。この電車が向かう最終地点。そこにそいつの育った家がある。
目的は家族からそいつに奇行を止めるよう説得してもらうこと。それと、何がそんなにもそいつをおかしくしてしまったのか知りたい。そこに全ての答えがある気がした。
駅を降り改札口を抜けバスに乗り込んだ。駅周辺を離れると360度畑しかなかった。一見のどかだが、人っこ1人歩いていなくてどこか寂しげにも見える。バスを降りて少し歩くとポツンと平家が見えた。雑草が玄関を隠すほど伸びきっていて一瞬誰も住んでないんじゃないかと思った。ここが実家だ。
入手した電話番号に昨日さっそく電話していた。どんな気狂い家族が電話に出るか内心怯えていたのだが、出たのは穏やかな口調のおばあちゃんだった。母親だ。事情を話すとショックを受けているようだったが、どこか納得しているような反応だった。電話で話すより、直接話したいと伝えると快諾してくれた。
ピンポーン
少しするとパタパタと小さく足音が家の奥から近づいてきた。
ゆっくりと引き戸が開き、隙間から少し不安げな顔のおばあちゃんが顔をのぞいた。
「こんにちは…。あの…、昨日電話したものです。千秋の兄の龍也です。」
帽子をとりお辞儀をすると、おばあちゃんも深々と頭を下げた。その姿がとても小さく見えてなんだか切ない気持ちが込み上げてきた。
これから聞く話は自分が思っていたものよりも単純なものではないと思った。
俺はなにしに行くんだろう。
電車が大きく揺れる。自分の意思など関係なくどんどん突き進んでいく。
どこに向かっていくんだろうか。
そもそもは、小さな好奇心だった。千秋にやたらと執着するあのファン。何故あんなにも執着するのか知りたい、という好奇心。千秋はファンに何か求められるとなんの躊躇もなくそれに従う。良いか悪いかは置いといて、それがファンの勘違いを生む。
それにしてもあのファンは勘違いの域を超えている。一度千秋がそいつに今までしてきた苦労話をしたことがあるって言ってたっけな…。
それが良くなかったのかもしれない。
自分が守ってやらなければと、謎の使命感が生まれてしまったのかもしれない。
気持ちはわからなくもない。千秋は上手にチャキを演じているが、内心はひどく怯えてるはず。
ずっと横で見てきたからわかる。
強気な性格だがふとした時にふと不安で表情が曇ることがある。
俺たちは何をするのにも一緒。幼い頃から俺たちは「セット」で生きてきた。
千秋の瞳は大きく、肌は陶器のようで、昔からその華やかさで周りの人を魅了してきた。
それは「セット」のかたわらである自分にとっては誇りであった。千秋の輝きを邪魔しないよう、自分はあえて全身黒一色にする。
俺の顔が見えると千秋の顔がぼやけてしまうから、帽子は深々かぶるのがマイルールだった。
皆にこの輝きを知ってもらうのに地下アイドルという職業を選ぶことが最善だったのか。
あのファンがくるようになってからはその疑問が心の中で強くなった。
誰かに家までつけられている。怖くて1人では家にいられない。
千秋がそう言い始めたのがつい一ヶ月前。警察に相談しても、まだ何も起きてないから何もできないとつきはなされてしまった。
それからは俺の家で過ごすようになった。
千秋が自分の家にお気に入りの服を忘れたと言っていたので昨日代わりに家まで取りに行った。
家の玄関前、小刻みに揺れる人影が見えた。インターホンを鳴らすわけでもなくただ小刻みに揺れている。電柱裏に隠れてしばらく様子を見ることにした。
目をこらすと足元が真っ赤に染まっていた。
ああ、やっぱりあいつだ。あのファンだ。
玄関ドアの横にある磨りガラスの窓をこんこんと叩き出し、どんどんその音が大きくなっていった。
こんこんこんこんゴンゴンゴンダンダンダン
窓を叩きつけながらアーだかウーだか言葉にならない奇声を発し始めた。
窓がわれそうなくらい思いっきり叩きつけ続けた。
何事かと周りの住民が寄ってくると、そいつは何を言うわけでもなく脱力した土気色の顔を横に降りながらフラフラとどこかに消えていった。
千秋を家に1人で残している事が不安になりお気に入りの服は諦めて急いで家に帰った。
警察は何もできないから、俺がなんとかしなくてはいけない。あいつを絶対千秋に近づけてはいけない。そう思い、知り合いに興信所に勤めている人がいたので急いでそいつの身元調査をお願いした。
すぐわかったことは実家の住所と連絡先くらいだった。この電車が向かう最終地点。そこにそいつの育った家がある。
目的は家族からそいつに奇行を止めるよう説得してもらうこと。それと、何がそんなにもそいつをおかしくしてしまったのか知りたい。そこに全ての答えがある気がした。
駅を降り改札口を抜けバスに乗り込んだ。駅周辺を離れると360度畑しかなかった。一見のどかだが、人っこ1人歩いていなくてどこか寂しげにも見える。バスを降りて少し歩くとポツンと平家が見えた。雑草が玄関を隠すほど伸びきっていて一瞬誰も住んでないんじゃないかと思った。ここが実家だ。
入手した電話番号に昨日さっそく電話していた。どんな気狂い家族が電話に出るか内心怯えていたのだが、出たのは穏やかな口調のおばあちゃんだった。母親だ。事情を話すとショックを受けているようだったが、どこか納得しているような反応だった。電話で話すより、直接話したいと伝えると快諾してくれた。
ピンポーン
少しするとパタパタと小さく足音が家の奥から近づいてきた。
ゆっくりと引き戸が開き、隙間から少し不安げな顔のおばあちゃんが顔をのぞいた。
「こんにちは…。あの…、昨日電話したものです。千秋の兄の龍也です。」
帽子をとりお辞儀をすると、おばあちゃんも深々と頭を下げた。その姿がとても小さく見えてなんだか切ない気持ちが込み上げてきた。
これから聞く話は自分が思っていたものよりも単純なものではないと思った。