70.KGB部隊とトラディッチの末路とBC兵器

文字数 1,937文字

 KGBの斥候部隊は後に続く本体に比べればごく少数ではあったが、その戦闘能力はソビエト軍屈指の精鋭だけあって、人を効率的に殺傷して戦力を減退していく能力は、人知を超えたレベルだった。
 世界最強の特殊部隊と言われる英国陸軍特殊部隊、SASで最強の軍曹と言われたマルコ大佐とその民間軍事会社の訓練を受けた沖田達でさえ、その陣容と動き方、戦闘速度を見たら驚きを隠せなかったはずだ。
 警戒線を張っていたエメトリア国民軍側の斥候部隊は、気がつかない間に、または、反撃する暇すら与えられずに撃破されていった。
 エメトリア都市部に近づくにつれて戦闘は激しさを増し、革命軍と合流を果たしたKGBの部隊は更に陣容を厚く、進軍の速度を増していった。
 今のところ制空権に関しては五分であったが、バルト海沖に停泊しているソビエト軍第八艦隊が戦闘態勢に入り、本国から給油機が数機離陸した情報も入っており余談を許せない状況だった。
 戦力に貧しいエメトリア国民軍では、ソビエト軍、KGB、革命軍の合流戦力で押し込まれれば、ひとたまりもない状況だった。
 エメトリア首都をヘリで脱出した革命軍書記長トラディッチ大佐は、KGBのニコラエヴィチ中将の部隊と合流を果たしていた。
 戦術核の起爆が失敗した上、他3つの核についてはハッキングによって制圧された責任について追求されるかと思っていたトラディッチだったが、その点についての言及はなく肩すかしを食らった感じだった。
「大佐には、奪還後のエメトリア統治という仕事が待っている」
 従軍書記官を通じて、ニコラエヴィチの言葉がトラディッチは告げられていた。
 トラディッチが先んじてエメトリアを脱出させた家族との面会を求めるも、既にロシアへ送られたと告げられた。
 傀儡として自分をコントロールするため、家族が人質となったことは明らかだった。
 そしてエメトリア国内で一瞬だけ観測された核反応について、世界各国からの追求があれば、その責任をとるためのスケープゴートとして扱われるだろう。
 トラディッチは部下達からも隔離され軟禁される形になった。
 途中までトラディッチに同伴していた腹心のフォーク少佐は、トラディッチが軟禁され自身も拘束されることがわかると、一部の革命軍精鋭を連れて、部隊からいつの間にか姿を消していた。
 その際にKGB部隊の一部を殺傷しているため、ソビエト本国から別の部隊が彼らの捜索を開始していた。

 KGB第十八局特殊作戦部隊の総長で大佐のウラジーミル・スホムリノフは、エメトリア進軍の斥候部隊を任されていた。
 エメトリア近郊の小都市リサを拠点として抵抗を見せていた国民軍の攻略に想定より時間がかかるとみるとすぐさま化学班へと連絡。
 トラディッチ将軍からも、
「実行良し」
 の許可を得ると、ためらいもなくBC兵器(化学兵器)を使用指示を下した。
 淡々と作戦を実行する部隊。しかし良識派で通っていたスホムリノフの補佐官グチコフは国際世論を理由に反対意見を具申した。
「我々の装備、部隊でしたら陥落に一日もかかりません」
 グチコフの意見は。一旦寛容にスホムリノフに受け入れられたように見えた。
「検討しよう」
 その目にいかにも誠実な光を称えたスホムリノフがそう言って頷いた。
 その1時間後、作戦は予定通り実行された。化学兵器の使用に反対したグチコフは行方不明として処理され、その後本国の家族は極寒の過疎地へと強制移住させられた。
「書記長から我々に求められている要件はは二つ。スピードと圧倒的な恐怖だ」
 ヘリのガンポッドから発射されたロケット弾型のミサイルは、都市部上空で破裂。見えない死の使者達が対化学兵器装備を持たないエメトリア国民軍兵士と民間人に降り注いだ。
 サリン系のその兵器は、見せしめのためにわざと数時間にわたって苦しむように設計されていた。
 その上治療方法は、西側の一部の先進国で最高レベルの施設を持つICUに入ったとしても生存確率は20%に満たない。
 体中を掻きむしり血だらけで死んでいくサリンの被害者達。
 スホムリノフ将軍は化学兵器の被害者達が、後方の病院に運ばれるのをわざと静観するよう、部隊に指示を行っていた。
 その凄まじい死に様は、エメトリア内のローカルニュースで取り上げられ、市民と国民をこれまでにない恐怖へと陥れたが、KGBと革命軍の妨害で国内のみでの放送に限定され、国外で放映されることはなかった。
 首都陥落を目前として浮き足立つ国民軍に対して、更に攻勢に出たKGB部隊は、進撃速度さらに上げてエメトリア首都近郊の都市を次々と制圧。
 KGBと革命軍による首都制圧とエメトリアの再制圧はもはや時間の問題だった。

To be continued.
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