1 ✿ 「小さい」は禁句

文字数 1,940文字



 マリー、良治、咲良、理々の四人は、学校近くのファミレスへ移動した。
 良治はそこでマリーの魔女の事情を聞いた。

「魔女、ねえ…」

 コーラを飲みながら、良治はマリーをしげしげと観察した。

「あるんだ、本当に。魔法って」

「あるですよ。ただし絶対ぜぇ――ったい人に話さないでください」

「話しても信じてもらえないよ。…でも、そこの二人は知ってるんだろ

 マリーの左右に座る、咲良理々へ目をくべた。

お二人はマリーの親友なのです」

 マリーの表情が、ぱぁっと明るくなった。

「おまえ…」

「その〝おまえ〟という呼び方はイヤなのです」

「じゃあ、マリー。マリーは外人だよな? 日本語うまいけど」

「そうですよ。ドイツ人です。まぁスペインだのイタリアだの、いろんな血は混ざってますがね。生まれと育ちはドイツです。今はイタリアに留学してますが」

「留学? マリー、いくつ?」

「十九です」

『えっ』

 咲良と理々が、びっくりする。自分たちより年上だった。
 背が小さく、顔だちや服装も可愛らしいので、年下のように思っていた。

「それでマリーはなんで日本にやってきたんだよ

「そうですね…。詳細は省きますが、事件に巻きこまれて心に深い傷を負い、それを癒すため、ずっと憧れていた日本に来ました。傷心旅行です」

「そんな風には見えない」

 マリーは全然弱々しそうではない。

「それに本当に心に傷を負ったヤツは、自分ではそうとは言わないんじゃ…」

しっつれいですね! 自分で言わなきゃ分からないことってあるでしょ」

「こら、俺の靴の爪先をじわじわ踏むんじゃねぇ。…ああ、足が届かないのか

 良治はサッと足を引っこめる。
 マリーは足を伸ばしたが、身体が小さく届かない。

マリーちゃん、埋もれてる
やめなって

 座席とテーブルの間にはまったマリーを、咲良と理々が引き上げた。

「ドイツ人の割には小さいな~」

 良治の言葉に、マリーは口をへの字にした。

「あなたは私の敵有害人物です。今、認定しました。おめでとうございます

「おめでたくねぇ」

 良治は失笑する。

「咲良、マリー。そろそろ行こう」
 理々が、スマホで時刻をチェックする。

「どっか行くのか?」
 良治は、理々たちに訊ねる。

「マリーちゃんと展示会に行くの」
「今日をずっとずっと楽しみにしていました!」
「有名のアニメ監督の展示会なのだよ」

 咲良、マリー、理々が順に答えた。

「へぇー。三人ともアニメ好き?」

 三人は首肯した。

「なんていう展示会?」

「アニメ監督、宇佐(うさ) (うさぎ)のコスモ展です」
 マリーはそう答えると、伝票を手に取った。

「ああ、いいよ。俺の分は自分で払う」

「いえ、オタバレ・魔女バレでパニックだったとはいえ、あなたに失礼をしたので、お詫びとして私が払います。そうでないと私の良心がチクチクするのです。咲良さんと理々さんも、お気持ちだけ。お二人にはたくさんお世話になっているので。飲み物くらいおごらせてください」

 マリーは、すたすたとレジへ歩いていく。

「ごちそうさま、魔女っ娘さん」

 店を出たところで、良治はお礼を言った。
 マリーは「いえ」と言葉少なにとどめる。

「それではまた。機会があればお会いすることもあるかも」

 マリーは、咲良、理々と並んで歩き出す。

「アニメコスモ展なぁ。俺も気晴らしに、そういうの行ってみようか」

 スマホで、マリーたちの行く展示会の情報を検索してみた。

「え…」

 検索結果に良治は息を呑んだ。

「あ……ちょっ」

 遠ざかっていく三人のあとを追う。
 三人はちょうど、地下鉄の駅へ入るところだった。

「待って!」

 良治はマリーたちを呼び止めた。

「どうしたのですか? 忘れモノでもしたでしょうか?」

 息を切らす良治に、マリーが聞いた。

「おせっかいかもしれないけど……その展示会、行かない方がいいかも

 良治はスマホの画面を三人に見せた。


アニメコスモ展で、連日痴漢被害。女性六人が訴え


 たった今入ったばかりのニュースだ。
 宇宙をテーマとした展示なので会場が暗い
 それを狙った犯行だと書かれていた。
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登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

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