第3話 ❀ バタークッキー作戦

エピソード文字数 1,416文字

青年は1人の時間を愛していた。


昼より夜を愛し、暗い部屋を好んでいた。

真っ暗な部屋で、ランプを見つめながら。
ああ、落ち着く…

暗闇に身を置いていると、安らぎを覚えた。


こんな、静かな生活が一生つづいて欲しい。なんの文句もない。


  キィィ…ィ


暗い部屋に細い光が差す。扉がほんの少し開いていた。

誰だ? ノックもなしに…。


ん? この匂いは…

扉のすきまから、こうばしい香りがただよってくる。
焼き立てのバタークッキーと、淹れたてのコーヒーの香りだ!
仕事の差し入れかなと、青年が扉のすきまから外をのぞいた、その時。
今です、みなさん!
執事の声がして、部屋の扉が大きく開け放たれる。
ま・・・まぶしい! 扉を閉めろ・・・うわ、ふわっ、うわああ!?
マッチョな執事たちに、青年はかつぎあげられていた。
ちょっ! おまえたち、一体なにを! 下ろせ!

作戦成功です。ルーク様は、この匂いに弱いですからね

執事長エドガーは、カートにのせた焼きたてのクッキーコーヒーを扇子をあおぐのをやめた。
さぁ。ルーク様を衣装部屋へお運びするんだ!
朝、着替えたばかりだぞ!
その普段着で、メアリー様とお会いするのですか!?
着たい服を着て、なにが悪い! はなせ! こらっ!
マッチョな執事たちに、「えっほ」「よっほ」と、衣装部屋へ運ばれていく。

お父上から、このようにお手紙が来ました。


息子のルークに服のセンスは皆無なので、おまえたちに任せる。

 あの服で写真を撮ったから、破談になったのやもしれん〟 と

息子の傷ついた心に、塩を塗るような手紙だな…

あなた様は、服装に頓着がなさすぎるのです。


8年も着たセーターは、いい加減寝間着にしてください。

これは、すごく着心地が良いのに!!

旦那様からの手紙にはこうも書かれていました。


息子が部屋にこもっていたら、手段は選ぶな〟と。こもりすぎです

だって…この前、俺……ロングワースのお嬢さんに、振られたばっかりだし。


会ったこともないのにさ。なにが問題だったんだ? やっぱり写真か?

まぁ…顔で男を選ぶ女性は多いですけど

俺の顔は、選ばれなかったと?

人により、好きな顔とは違うものですよ。


ルーク様は、旦那様、奥様譲りの、美しい顔立ちでございます。


なのにどうして、そうも暗い顔ばかりをなされているのです? また胃痛ですか?

人と喋るの下手だし、女性と話すのなんて世界一高い山を登るくらい緊張する…

それについては心配なさることはございません


メアリー様は修道院で神の道に身を置き、清貧沈黙を友とし過ごされた高潔なお方。


慈愛を以って、お相手をしてくださるでしょう。

それは…彼女が修道女だったからと、勝手にこちらが期待をしているだけだ
ルーク様…

修道女は神に従順というが……彼女たちにも意志がある。生き方を選ぶ権利がある


俺にだって、自分の生き方を選ぶ権利がある

ルークは衣装部屋から出ようとしたが、エドガーの右手に肩をがしっとつかまれた。

成長なされましたね、ルーク様。


いつの間にか弁が立つようになって…

弁が立つ、って…。なにか含みのある言い方じゃないか?

本心が顔に書いてありますよ。〝結婚イヤだ、独身万歳〟と。


さぁ、着替えましょう!

両脇をがっしりと、エドガーの配下のマッチョな執事たちにつかまれた。


エドガーは、をくわえた。

まず、シャツ

ピッと、笛が鳴る。


まず上着を脱がされ、

次、ズボン
やめろぉぉ―――!!
無情にも、ピッと笛が鳴った。
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登場人物紹介

シスター・ガブリエラ


本名:メアリー・デイヴィス

ルーク・リンフォード


伯爵卿の息子。

シスター・テレサ


修道女。負傷兵アルバートの手当てをした。

アルバート


 元軍人。顔が怖い。

 戦後、警察官になる。

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